第24話 怪我しても健気な月城


ーーー竜ヶ崎先輩が怪我したらしい。


朝一、そんな噂を薫から耳にしても、俺は机から顔を上げることすらできなかった。


「あががぎぎぐぐげご」


「筋肉痛か?激しく動いてたもんな」


薫に声をかけられるが、俺は首だけしか動かせない。


「痛いー。全身が痛いー」


「五橋の弁当食えば治るだろ」


何だと?あいつの弁当にそんな効果があったなんて。今すぐ食べたい。


「のぞみさぁぁん。弁当プリーズ・・・」


席に座って前を向いていた望美が後ろに振り返る。


「昼まであげないよー。昨日の元気はどこにいったの?」


んー、残念。早くこの痛みから解放されたい。


文字通り全力を出したからな。こうなることはわかっていた。


「昨日の試合、おもしろかったぜ。特に颯人がついていたあの先輩の顔がさぁ」


「結局部活行かなかったのかよ」


「終わってから行ったぜ。怒られたけどな」


「ありがとな。応援してくれて」


「いやぁ。柊と話せたからおまえの応援なんて二の次だ」


「こんにゃろあだだだだだ」


腕を上げようとして力を入れると痛みが走る。こりゃあ噂通り、勝負無くなったほうがいいかも知れん。つーか無理だわ。


「ほんと大丈夫か?今日体育あるけど見学か?」


「あー、そんなのあったなぁ・・・」


「今日の体育は文系クラス合同だぜ?おまえは透けたブラジャーでも見て元気出せよ」


「アホか。・・・バレーだっけ?だがしかし、マジで無理かもしれん」


足引っ張るなら休もうかな。いや、体育の内申点デカいよなぁ。




ーーーーーー


おじいちゃんみたいなノロさでひぐぅ、びきぃ、と筋肉痛に耐えながら歩いて体育館に着く。薫はこんな時でもついてきてくれるから優しい。


二時間目の体育の授業、休もうと思ったのだが、思わぬやつが俺の相手をしてくれることになる。


「月城、その足はどうした?」


体育の先生から、休まないで月城のレシーブ相手をしてくれと言われて彼女を見て驚く。


彼女の右足、つま先から足首にかけてが、包帯でぐるぐる巻きにされていたのだ。


「やっほぅ、水谷くん。今日は怪我人同士、頑張ろうねぇ?」


「俺は怪我人じゃねーし」


「ろくに動けないのはどっちも一緒だよぉ」


「え?もしかして昨日ので怪我したのか?」


いつだろう。そんな時あったっけ?


「見てなかったんだねぇ。昨日の試合の最後のワンプレー、竜ヶ崎先輩がシュート打ったでしょう?」


「あ、ああ。遠かったのに無理矢理レイアップしてたな。」


「そう、その時わたしは珍しくゴール下にいたの。あのまま何の爪痕も残せないのは嫌だったから、せめてリバウンドを取ろうとしたのぉ」


「え?もしかしてその時?」


「竜ヶ崎先輩の左足がわたしの右足に乗ったのぉ。痛かったぁ」


ああ、だからあんな怖い顔してたのか。


今の月城は笑顔が垣間見れて普通だ。痛みを我慢しててあんな恐ろしい顔になっていたんだろう。


「え?骨折れたりとかした?」


「昨日病院行ったけど、骨は大丈夫だったよ。打ち身みたいになってて、黒くなっちゃったけどね。触ると結構痛いんだぁ」


「まじか。災難だったな。つーか気づかなくてごめんな」


「そっちのチーム勝った時、お祭り騒ぎだったじゃん。水谷くんは悪くないよぉ?」


「え?もしかしてそれで竜ヶ崎先輩も?」


「うん、わたしの足に乗った時にぃ、竜ヶ崎先輩の足がグギッって」


「グギッって」


やばくね?それ。


「うん。わたしも痛かったんだけどぉ、こういうのって、足を乗せたほうが捻りやすいんだよねぇ。だから竜ヶ崎先輩はもっと痛かったと思うよぉ?」


マジかよ。そんなことになってるなんて思わなかったわ。


竜ヶ崎先輩足首やったのかー。


これで今日の放課後勝負やったらビビるよ。


「今は痛く無いのか?」


「うん、上から触れなければ大丈夫。ボール投げてぇ。レシーブするからぁ」


「休まなくていいのか?」


「休んで成績下がるの嫌だからぁ。それは水谷くんも一緒でしょ?早くやろぅ?」



こうしてゆっくりと、ほとんど練習してるフリに近いのだが、バレーもどきをする俺たち。


こんなことまでしないといけない学年一位って、ほんと険しい道のりだわ。

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