第15話 正門から自宅へ

亜香里が待っていた金森先輩からのお詫びのアイスは、学校の正門で受け取ることになった。キリが良いのでそのまま今日は帰ろう。


亜香里に前向きな言葉をかけつつも、変な噂や先生からの呼び出しに振り回されて、望美も疲れていたようだ。自主練に参加する気力もないのだろう。秒で制服に着替えた姉妹と一緒に正門へ向かう。


ちなみに、月城は残った。ちゃんと練習ができなくなった原因が月城だから、バスケ部のみんなに謝りたかったみたいだった。まぁ、俺らと月城が仲良さげに話してるところを見ていると思うので、謝りやすくはなるだろう。別に付き合うこともできたが、これ以上は迷惑かけられないと言われて、出てきたのだった。


「後輩たち。本日は本当に迷惑をかけました。お詫びとして受け取ってください」


金森先輩が頭を下げ、袋が差し出される。


袋の中にはシャインマスカットのカップケーキが3つ入っていた。アイスじゃないのか。まぁこれも美味そうではある。


「金森先輩、お姉にはちゃんと謝って。金森先輩が止めることもできたはず」


「ごめんなさい、ノゾミン。わたしたちはあなたをバスケ部から追い出したいわけじゃないの。それだけはわかってくれるかしら?」


「単独犯だってわかってるので、大丈夫ですよ?それと、沙耶香っちとは和解しました」


「え?あ、そうなの?月城さんのこと止めてあげられなくて、ごめんね。妙な噂も出回っているみたい」


「先輩は、どんな噂を聞いたんですか?」


望美が不安そうに金森先輩に聞いた。


「一番ヤバイと思ったやつは、ノゾミンが二股してるって噂だよ」


「噂とはいえ、流石にわたしもへこむなぁ・・・」


「お姉、大丈夫。親衛隊を信じて」


「え?親衛隊って何の話?」


亜香里よぉ、話をややこしくするな。


俺も望美をフォローするか。


「とりあえず、ダメ元で噂を消してもらってるからさ。もし効果が無かったら、金森先輩にも協力してもらおう」


「あ、うん。全然協力する!というかさせてください」


「わたしは沙耶香っちと仲良くなれたから、そこまで深刻に考えたくないんだ。だから、とりあえずこの話はケーキで終わりっ!」


「お姉、さいつよ」


さいつよって何だよ。最強ってことか?


まぁ、望美が早くこの話を終わらせたいのはなんとなくわかった。


「んじゃ、俺ら帰りますね。月城のこと、あんまり怒らないでください」


「はやちゃん、それ被害者のわたししか言えないやつだよ?」


「俺は被害者じゃない・・・だと!?」


「お兄はすぐそうやって被害者面する。あと最近彼氏面しすぎ」


「・・・ほんと仲良いのね」


亜香里さんさぁ。彼氏面しすぎはどんな噂よりへこむからやめて?



ーーーーーー




帰宅後、せっかくのケーキは俺の分が当然のように母親に取られ、俺を不憫に思った亜香里に一口もらうまでが様式美。


望美と勝負の日まで絡まないという縛りプレイは、俺の意志の弱さと相まって、無事、クリア不可能となっている。


水谷家の夕食はいつも大体多い。外で夕食を済ます親父を抜いて、2人分の食事を作るのは難しいらしく、いつも3、4人分の量のおかずができあがる。


「はやままの料理はお姉の料理と世界レベルの戦いをしている」


ただの肉野菜炒めでもんもんとしている亜香里。そんなに美味いのか?


「じゅんこさん凄いなぁ。こんなにおいしいと、お弁当作るわたしが困っちゃうかも」


望美が母親を褒めながら何か言っている。そんなに困るなら作らなくていいって去年望美に言ったら、一週間話してくれなくなったので、俺はあえて何も言わない。


「やっぱり女の子がいると、食卓が華やかになるわね!どんどん食べてね!」


この二人がいると、母親の前で俺はしゃべれなくなる。恥ずかしいような、例え難い感情に襲われるのだ。母親は俺が口を開けば茶化してくるし。この姉妹が俺の代わりに今日1日の流れを全部話してしまう。


母親の号令により、自称ダイエット中の望美や少食の亜香里がおかわりを連発する。


そしてあっという間にご飯の釜は空になった。


「颯人、ランニングするなら行ってらっしゃい。帰ってきたら勉強だからね?」


食後にすぐ行けとか鬼畜ですか。走れるくらいの量にしたけどさぁ。


「お兄、すまない。わたしは動けない。ここから無事を祈ってる」


亜香里はそのまま寝そうだな。

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