第13話 上田はバスケ部の中でまとも

亜香里と、着替え終わった望美、月城と一緒に体育館入りしたのだが、定刻に始まるはずの部活が始まらない。あと、男女の主将さん方がいない。


「何事?」


「なんか、わたしをいじめたとかなんかで、事実確認のために職員室に呼び出されたらしいよ?」


「ついに先生方の耳にも入ってしまったのか」


噂が回り回って、事実とかけ離れてしまうことは良くある。


噂の内容が個人を乏しめるものなら、事情を聞くくらいはするだろう。


学校としてはいじめに発展する前に摘んでおきたいようだ。いや、でもここに元凶がいるよな?


「ごめんねぇ、わたしのせいで。罰として今日から水谷くんのソファーになるわぁ」


「お兄、わたしは肘置きに使って」


「えっと・・・わたしはリモコン役やるね?」


家のリビングかよ。


なんでみんなして俺をダメ人間にしようとするのか。


この調子じゃあ学年一位にいつまで経ってもなれそうにない。


「呼び出される前に、出向く?」


亜香里がそんなことを言い出す。


確かに、あの主将二人で話が収まるとも思えない。


「迷惑になるだろうからぁ、わたし一人で行くね・・・やっぱり誰かついて来てくれると嬉しいけどねぇ」


月城はそう言いながらもじもじして目配せしてくる。


「どっちだよ?俺は行かないぞ?」


「あれ?珍しいじゃない?困ってる子、助けてあげないの?」


望美にそんなこと言われる。四人で行こうって流れなのか?


「仕方ないなぁ。行ってみるか」


「水谷先輩、少しお時間宜しいですか?」


突然、声をかけられた。顔を見ると、知らないやつだった。口調から一年と言うことはわかるが・・・。


「どちら様?」


「一年の上田です。先輩にどうしても今話を聞いてもらいたくて」


「だとよ。3人で行ってきてくれ」


「わかった。はやちゃん、じゃあまた後でね」


ーーーーーー


その場でする話でも無さそうだったので、移動した。



体育館裏は遠くからバレー部のスパイクの音、吹奏楽の演奏、剣道部のメェェェェン!!という声が響き渡る。


混ざって逆に落ち着いたBGMになるから不思議だ。


「すみません、お時間いただいてしまって」


上田くんは坊主の好青年である。俺と同じくらいの身長で、ガードかフォワードやってんのかな?という印象だった。


「おう、とりあえず、座るか?」


「はい、ありがとうございます」


土手のコンクリートに座り、上田が話し始める。


「先輩、バスケ部入るつもりなんですか?」


「いや、違うけど」


「そう、ですか。てっきり五橋さんみたいに週ニだけ参加するんだと思ってました」


「俺は望美みたいに器用じゃ無いし、図太くも無いから、やるなら全部の練習、参加するかな」


「本当に部活に入る気がないんですね?」


「おう、今俺が制服を着てるのがその証拠だ。やる気あるならジャージ着てるだろ?」


「はい。お願いですから、考えを変えて入部しないでくださいね」


「理由を聞いてもいいか?」


「・・・はい。俺、スポーツ推薦で入学して来たんですよ」


「そうか。じゃあバスケ上手いんだな」


「そうでもないです。バスケ強豪校を避けて来てるので。竜ヶ崎先輩くらいだと言えばわかりますか?」


「ごめん、あの先輩、上手いの?」


「あ、はい」


前に亜香里から、女子のほうが男子よりレベルが高いと聞いていた。でも、そんな女子でも県大会行けるかどうかのギリギリラインなんだよな?


ということは、男子は県大会にも出れないってことになる。


まぁ、地区予選で大外を陣取ってる第一シード校とかに当たったら即終了なので、一概にうちが弱いというわけでは無さそうだが。


「俺と竜ヶ崎先輩が勝負する話、聞いてる?」


「あ、はい。昨日の夜、男バスのトークグループで、金曜日の練習予定を主将が変更してて・・・見ますか?」


俺は上田に携帯画面を見せられた。


金曜日の予定、まぁジョギング、準備運動から始まり、ツーメン.スリーメンと来て、え?


『17:30スペシャルドリームマッチ。竜ヶ崎vs水谷。五橋を賭けて激突。果たして、神はどちらに微笑むのかーー』


新聞の裏のテレビ欄かよ。


大体あの先輩のせいだということがわかった。


「これ見て、水谷先輩が負けたらバスケ部に入るのかな?と想像してしまって」


「違うからな。そんな約束してないわ」


月城に恐怖を感じたが、竜ヶ崎先輩には怒りしか感じない。


ああ、もう、どうしてくれよう?


まぁ、変に気を遣って勝負しなくて済むからいいかな?


絶対叩き潰してやる。


「水谷先輩がスタメンに入ると、高確率で俺はベンチです」


「そうなのか?」


「俺はまだ一年ですし、優先してくれません。でも、それじゃ困るんです。俺、大学もスポーツ推薦で入りたいので、どうしても最初の大会からスタメンを取り続けることが必要なんです」


「なるほどなぁ。わかったわかった。というか、安心した」


「何がですか?」


「男バスには望美狙いでろくにバスケできないやつばかりだと思ってたから、上田みたいな真面目なやつがいるとは思わなかったんだ」


「俺はバスケをしに入学してるので。女子と練習しなきゃいけないのはちょっと予想外でしたが、バスケ一筋ですよ?」


「俺も女子との練習はびっくりしてる」


「というか、水谷先輩と五橋先輩、付き合ってないんですか?」


この流れ、何度目だろう?


「付き合ってねーよ。・・・付き合ってないんだよ」


「2回言う必要ありましたか?」


「吹奏楽の音で聞こえないだろうと思ってだな・・・」


「うちの主将は論外ですが、水谷先輩も大概ですね」


「ぐわあああ。あの先輩と一緒にするのはやめてくれ・・・」


何だよ。上田の目的は俺を辱める事だったのか?


だが、おかげで竜ヶ崎先輩に負けられない理由が増えたのだった。

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