第11話 噂は広まるのが早い

放課後、怒涛のような質問攻めに合う。


内容から察するに、どうやらバスケ部のやつらが金曜日のことを言いふらしているらしい。


「なぁ、おまえ、五橋に告白するって本当か?」


廊下に出る前に教室に押し戻される。


おまえ誰だよ。五橋って2人いるんだけど!


亜香里から、放課後に男子に告白されるとかで屋上に呼び出しを食らった。行こうとしたが、なぜか廊下で足止めを食らう。


「なぁ、水谷ってバスケ部の女子狙ってるって噂なんだけど」


だから何だよ。ほんと、いい噂無いな。


「知らねーよ。ちなみに女バスの誰好きなの?」


「・・・こんな場所で言えるわけないだろ」


なんだよっ!もうっっ!!じゃあどけよっっ!早く屋上に行かないと!


わらわらと寄って来るやつらから本気で抜け出そうとしたのだが、後ろからがしっと腕を取られる。


振り向くと、女子に追いかけられている望美がヘロヘロになりながら俺に抱きついてきた。


「はやちゃん、はやちゃん!行かないで!助けてよぅ」


「あー、だよな。こっちもか」


「もうやだぁ。みんなどんな噂信じてるの?わたし先輩のこと誑かしてなんかないよぉ」


噂の内容があまりにもひどい。


金森先輩が濁していたように、バスケ部内で望美を良く思ってないやつらがいるんだろう。そいつらのせいに違いない。


「颯人、亜香里が心配だよ。絶対普通の告白なんてされてないよ」


「だよな。急ぐぞ」


俺たちは急いで屋上に向かった。


ーーーーーー


屋上に着くと、亜香里と女バスの人が言い争っていた。



「姉妹で色目使って!何なの!?」


「わたしはマネージャーがしたいだけ。今日も今から行こうとしてるのに、邪魔しないで」


「そんなこと言って、わたしを惨めにするのが好きなんでしょう!?」


「おい!何の話だ!」


「五橋望美と、彼氏・・・?」


取り乱してるこいつ、見たことがある。


「月城沙耶香。この人、二年の女バスよ」


望美は淡々と話している。やっぱり女バスかよ。


「もっと言うことがあるんじゃない?」


月城がこちらを見て目を見開く。


黒髪パーマの、まぁ普通にしてたらおしゃれな子なんだろうが、感情が読み取れなくて怖すぎる。


望美は苦々しく、絞り出すように声を出した。


「彼女は、俗に言う、シックスマン。わたしがスタメンに入ったから、6番目になった子だよ」


「そしてわたしから、竜ヶ崎先輩まで取ったの・・・」


「月城さん、あなたは・・・」


「ねぇ、学年一位さん。どうして?・・・どうしてわたしから全部奪うの?」


「奪う?」


「わたし、学年二位なんだよ?興味無いよね。一位しか貼り出されないし。一番じゃ無いと、意味無いでしょ?わたし、学年二位なんて、呼ばれたことないよ」


うわぁ。めっちゃ恨んでるじゃん。望美は無自覚にこの人の道を塞いでいたんだろうな。


さすがに罪悪感があるだろう、と望美の顔を伺うが、わかりやすい表情だった。端的に言うなら「だから何?」だ。


ビビってる俺とは対照的に、望美は逃げることなんて考えていないんだろう。


学年一位、すげぇな。


「言いたいことはわかった。わたしともバスケで勝負しろってこと?」


「話がわかるじゃなぁい」


月城の運動部っぽくはない、束ねられていない前髪がぶわっと風で後ろに流れる。


目に涙を浮かべて、こちらを睨みつけている。


「今までのことはもうどうでも良いの。だけど、あなたには一番大切なものを賭けてもらうわ」


「一番大切なもの?」


「髪よ。わたしが勝ったら、あなたは坊主にしなさい?」


髪は女の命とはよく言ったものだ。だが、こいつにとって髪がそこまで大事だとも思えなかった。


まぁ、俺はこいつが坊主になったら帽子でも買ってやろうかな。


「いいわよ」


ほら、全然堪えてないだろ?


「ふふっ。強がっちゃって。怖く無いの?バリカンで丸刈りにされちゃうんだよ?」


「・・・・・・」


「楽しみだなぁ。逃げないでね。金曜日の放課後だよ?」


「わたしが・・・勝ったら。月城さん、わたしと友達になってくれる?」


はぁ?


マジかよ、と思わず望美の顔を二度見してしまった。


今の話、どこらへんに友達になる要素ありますかね?


「理由は何かしら?」


月城の問いに、望美はいきなり俺の腕に抱きつく。


「うちの彼氏がね、学年一位を狙ってるの。わたしとしては、彼氏に一位になってもらうのが夢。だから、わたしは喜んでこの人に学年一位を譲るわ」


望美は何を言ってるんだろう?また悪戯してんのかな?柔らかい胸の感触がヤバいですね。ちょっと刺激が強すぎませんかね?


「流石にここまで必死な貴方には勝てそうに無いから、ちょっとだけ手加減してもらおうと、お友達になりたいのだけれど、ダメかしら?」


「おい、おまえに譲ってもらったって嬉しくないぞ」


「颯人。わたしは本気だから」


「ぷっ。くくく・・・あはははははは」


笑い出す月城。さっきまでの張り詰めた空気が嘘みたいに無くなっている。


「わたし、五橋さんのこと、勘違いしてた。あなたの『一番大切なもの』を当てられない時点で、わたしの負けね」


「いいの?意外と勝負、楽しみにしてたんだけどなー」


「もういいわ。その代わり、水谷くんに興味が出てきちゃった。お友達になりましょう?」


「嫌よ。絶対あげないからね」


望美の腕に力がこもる。


なんか話の主題がいつの間にか俺になってね?


大丈夫なんだよね?これ?


「円満解決したのか?」


望美にそう聞いてみる。


「ありがと。彼氏のフリ、役に立ったよ?」


とん、と望美に胸を小突かれた。


おう。フリで解決するならいつでもしてやるよ。


あれ?そういえば、亜香里はどこに行ったんだ?


俺は携帯を見る。


「あかりは無視されたので先に部活行きます」


ごめん、亜香里。帰りになんか奢るわ。

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