第10話 しょーもない話と大切な話
「女子のブラジャー見えたらラッキーだよな」
「朝からおまえが欲求不満なことはわかった」
翌日、朝一で薫から話しかけられた内容がしょーもなくて妙に安心していた。
こいつには昨日、バスケ部に行って来ると言ってあるので、どうせ大方、運動して透けたブラジャー見れたんだろ?みたいなノリで来てるんだろうが。
「夏が、待ち遠しい」
「いいよな、薫は。何の苦労もなく待望の夏を迎えられるんだろうな」
「なんで朝からそんなに悲壮感漂ってんだ?」
「最近、忙しくてさ。昼なんか教室にいないし、放課後は何かしらあるし。動きすぎた」
「おまえがいない昼は寂しかったぞ」
「そうか。すまんな。今日も先約だ」
「誰と食べてんだ?昨日は五橋とは別だったみたいだが」
五橋妹だよ。まだこいつに紹介する気にならない。紹介したらこいつの上がるだろうテンションについていくのが怠い。
「まだ秘密だ」
「お、おう。後で紹介してくれよな?購買に一人で行くのが億劫だ」
「え?おまえ、一人で食べてんのか?」
「いや、佐々木とだけど・・・あいつ弁当だから買い物ボッチだ」
「来週になったら紹介するよ」
「さては、浮気か?」
「なんでだよ。あっ、今週の金曜日の放課後、暇か?」
「部活だ。弓道部は月曜以外活動だ」
そういえばこいつ弓道部だったな。
煩悩だらけでも的を射抜けるのだろうか。
「バスケの主将と勝負することになった。望美を賭けて」
「朝から凄い話ぶっこんできたな」
「ブラジャーよりは面白い話だろ?」
「おかしい。体育館と隣接してる弓道場に噂が流れて来てない」
「まだ誰にも言ってないからな」
「それで、金曜日の放課後に勝負するのか。見に行きたいな」
「おう。というか、味方がいないから手伝ってほしい」
「勝った方が付き合うのか?」
「現状維持・・・って言っても信じないよな」
「おまえなぁ」
薫が頭を抱える。おう、俺もおまえだったらそういう反応していたかもしれない。
だけど、できれば俺は学年一位になるまで、望美には告白したく無いんだよな。
もう嫉妬するのは嫌だ。今付き合っても、誰かに取られそうで怖い。昨日のように怖がらせるのはダメだし。
この恐怖は自分の自信の無さから来てるのはわかっている。
あいつが良くたって、俺はそれに答えられない。早く、来るといいな。告白できる時がさ。
ーーーーーーー
「お兄、考え事?」
昼休み、屋上で亜香里と弁当を食べる俺は考える。
なぜ、亜香里には俺の威圧が効かないのだろうか。
「お前だけなんだよなぁ。嫉妬しても無事なやつ」
「気づくのが遅い。お兄はもっとわたしに感謝すべき」
「無事な理由を聞いてもいいか?」
「もぐ・・・じゅー」
咀嚼しながら考えている亜香里。うん、ちょっと難しい質問かな。
「表向きには」
「うん」
「周りが怖がってると自分だけ冷静になるアレ」
「アレか」
「そう」
おばけとか見て周りが取り乱してもスン、ってなっちゃうあるあるね。
「んじゃ、あかり本人だけに嫉妬を向けたら、いくらおまえでもダメなんだな?」
「そんなことは、有り得ない」
じっと亜香里に見つめられて、瞳を通して心を覗かれているような気分になる。
「だって、お兄が好きなのは、お姉」
「・・・うん」
「だから、あかりは安心してお兄の側にいられる」
「そうか」
「だから、もしまた嫉妬しても、止めてあげる」
「悪いな」
「別に良い。こっちの方が正妻っぽい」
「ありがとう」
「どやぁ」
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