第9話 3人の帰り道

「ふんふふーん♪」


「お姉がご機嫌で何より」


バスケ勝負を約束して、3人で帰る暗がりの道。珍しく鼻歌を歌う望美と、それを眺める俺と亜香里。


俺の心中と反比例するように、まぁいつも通りなのだが、望美の足取りは軽い。


俺の中に燻ってるモヤモヤは望美の嬉しそうな顔を見てると少しずつだが消えていくようだった。


これで良かったんだよな?って俺がそんな無粋なこと聞くまでもなく、3人の空気は平和で、不思議なほど満ち足りていた。


「お姉、今日もお兄の家?」


「それだとフェアじゃないって颯人が」


「勝負の日まで幼馴染の特権を行使しない考えだ」


「そしたら、お兄の隣、誰もいない」


発言してみて、亜香里も一応幼馴染の部類に入ることを失念していた。俺の人生は本当に幼馴染様様だ。それを抜きに考えると俺の交友関係はなんて空っぽなんだろうな、と思う。


「そう思うと、俺を一人にしないお前らって凄いよな」


「えっへん。もっと感謝するといいよ?」


「お兄に褒められると嬉しい」


いや、しみじみと語っただけで褒めてはいないのだが。なんか年寄りになった気分だ。


「で、俺は勝てると思う?」


「お兄は勝つ気でいたの?応援頑張る」


辛辣だなぁ。あと3日後、金曜の夕方に竜ヶ崎先輩と1on1だ。


今から体力をつけようとしたって間に合わないだろう。


「望美は、俺に勝って欲しいんだよな?」


そう聞くのが当たり前だ、という確信を持って、言葉にする。


望美は普段、明るいが、俺に対して感情を見せないように振る舞っている節がある。俺が見たいのは恋愛についての反応なのだが、それは妹を通して眺めてるとバリアが緩和されるようで、何を話したらいいのか、ダメなのかくらいはわかるようになる。


難しく言ったが、用は望美に対しても俺は緊張する、ということだ。


「当たり前でしょう?」


どストレートな返事が返ってきてびっくりした。


「ふっ。モテる男は辛いな」


俺がふざけて返すくらいには動揺した。


「わたしが先輩とデートなんかしたら、颯人がわたしを追っかけて来るんでしょ?」


「ストーカーじゃねぇか!」


「お兄、大丈夫。わたしも一緒に尾行する」


おお、ありがとう。これで条例に引っ掛からなくて済むね。


「期待されてるんだったら、それに答えなきゃな。帰ったら1時間くらい走るわ」


「給水マネージャー、必要?」


「ありがとな、亜香里。でも一人で大丈夫だ」


「急募、マネージャーの力が必要な人」


「SNSに投稿するな。わかった。19時に俺んちの前でいいか?」


「汗かいたらお背中流します」


「なんか違くね!?」


2人で話が盛り上がってると、さっきまでご機嫌だった望美が頬を膨らませて戻ってきた。


「全部、全部颯人がわたしに断りもなしに勝手に縛りプレイしたのが悪い!!」


「言い方ァ!!」


「ずるいー。暇ぁ。暇だよわたし」


「これが正妻の余裕。どやぁ」


「あ、か、り〜?明日のお弁当抜きにしようか?」


「やめてください死んでしまいます」


「焼きそばパンいる?」


「あかりはクロワッサン派」


なるほど、美味いよなクロワッサン。


今度薫に届けさせよう。

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