第3話 横山先生

昼休み、横山ちゃんに進路指導室に呼び出された。


貴重な昼休みを奪われるのは悲しいが、内容がわかっているだけに行かない選択肢は無かった。


「失礼します」


「おう、入れ」


乱雑に積まれた椅子と机の中心に4つの机が椅子と共に並べられている。


「先生、何で弁当食べてるんですか・・・」


「うるさい。わたしは今気分が悪い。水谷にコーヒーブラックを頼みたいくらい胸やけしている」


「胸焼けしてる時ってご飯食べれなくなるんじゃ・・・」


「まぁ、わたしのことはいいんだ、水谷、おまえだよおまえ」


「俺にも昼食を食べる権利があるのですが、先生が食べてるなら俺も購買に行ってきていいですか?」


「権利というのは義務を果たしてから得られるものだ。水谷にはまずこのふざけた進路調査票の説明をしてもらう。終わったらわたしのおにぎりを一個やろう」


「・・・わかりました。ちなみに具は?」


「昆布とおかかだ」


「じゃあおかか昆布で」


「二個はやらん」


本気で睨まれた。


「先生、進路調査票ですが、ふざけたのは俺じゃありません。望美です」


「これは五橋が書いた、と?だから俺は悪く無いと、そう言いたいのか?」


「はい。俺は第一志望に大学進学と書きました。先生も、そのように考えてくれれば」


「第二、第三志望は?」


「大学進学しか考えていません」


「・・・いいか、仮に水谷の希望がこの通りならば、おまえは大学に行かなかったら浪人する、ということなんだ。その意味がわかるか?」


「親に金銭的な迷惑がかかる、ということですか?」


「それもそうだが、違う。用は水谷は失敗した時の自分の身の振り方を考えていない。そこが問題なんだ」


「では、第二志望までは言います」


「言い方が上から目線で気に食わないが聞こう」


「彼女が欲しいです」


「・・・今は進路の話をしているんだが?」


「大真面目です。このままでは望美と同じ大学に行けない」


「グフゥ」


「先生、笑わないでください」


「笑ってなどいない。死にかけただけだ」


俺もそうだが、生徒から影で横山ちゃんとちゃん付けで呼ばれてる理由が改めてわかった気がした。反応がいちいち面白い。


「じゃあ、まず学年三桁のおまえの成績を学年一位にする、ここまではいいか?」


「軽く言いますが、めちゃくちゃしんどいですよねそれ」


「学年一位の五橋と勉強すればいい。内申点に関してはボランティアをしてもらう。詳細は追って連絡しよう」


「まぁ、部活やって無いので断りませんが・・・」


「わかったらもう行け。おにぎり二つやるから出て行け」


「ありがとうございます」


「ちなみに昆布はたべてしまったから、そいつは梅だ」


「ああ、俺は嫌いなものないんで、いただきます」


「梅の花言葉は忍耐だ。頑張れよ、少年」


おにぎりの具で花言葉もくそもない、と一瞬だけ考えたが、ここは先生の助言を受け取るとしよう。


忍耐か。浮かれていた気持ちが少し引き締まる。


俺は頭を下げて進路指導室を出た。


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