第4話 A③ 戦利品
ゲートを開き自分の居城に帰還すると、赤い絨毯の上を颯爽と歩いていく。左右には数百を超える悪魔達が主の帰還に頭を下げて傅く。
全体的に暗い大広間を宙に浮かぶ蝋燭だけが弱い光を放ち照らしている。それを除けば広さだけなら人間の王族の居城と同じくらいの大きさだ。
この数十年で見慣れた光景だが、悪魔界に転生したてのときからは考えられないくらいの大出世だ。
ーー最初は一人ぼっちだったけど、あれはあれで自由に冒険できて楽しかったわね。
今では一城主で大所帯になったマイホームを闊歩して下僕達を睥睨する。
返り血で真っ赤に染まったウェディングドレスを歩きながら分解して消して、普段着であるドレスを生み出して瞬時に着替える。
歩みを進めると広い大広間の先に自分の玉座が見える。
「ご帰還お待ちしておりましたアリス様。此度の召喚はいかがでしたか?」
玉座に近づくとその横には2人の悪魔が侍っている。
1人は大柄の隻腕の男で左の袖は持て余したようにヒラヒラとしている。
白シャツにゴツいベルトが似合う無骨な雰囲気が似合う男で短い金髪は逆立ち鋭い目は野性のライオンを彷彿とさせる。その見た目とは裏腹に気怠そうに欠伸をして主に軽く頭を下げる。
もう1人は黒い執事服をピシッと着こなした長身の美青年だ。長い黒髪を七三に分けて後ろ紙は結んでいる。
瞳の色はアリスと同じ真紅で騎士のように姿勢を正して頭を下げ主に礼を尽くす。
アリスが玉座に座ると面倒臭そうに執事服の悪魔の問いに答える。
「今回もダメね。殺しちゃったわ。」
期待を裏切らないいつも通りの主の返答に執事服を着る悪魔はより一層笑みを深める。
「何がおかしいの?レイナード。」
従僕の態度を不快に感じたのかアリスはギロリと容赦なくレイナードと呼ばれる執事服の悪魔を睨みつける。
それだけで辺りには緊張が走り、赤い絨毯の左右に跪く位の低い悪魔達は戦々恐々とする。
「いえいえ、他意はありませんとも。しかしアリス様の望みを叶えるにはそろそろやり方を変えても良いのでは無いかと思いまして。」
じっとりと嘘くさい笑みを浮かべるレイナードを見ながら言葉の真意を聞き直す。
「と言うと?」
聞き返すアリスに我が意を得たりと得意げな顔をしてレイナードはプレゼンを開始する。
「アリス様の望みは人間の絶世の美少年でありますよね?しかし我々悪魔は自由には人間界に干渉できない。となると、召喚されるのを待つしか無い訳です。」
レイナードの悪い癖だ。さっさと結論を言えばいいのに無駄に丁寧に会話を長引かせてこちらをイライラさせる。
「だからできるだけ召喚に応じて何度も人間界に行ってるじゃない。なんで私を召喚するのはおじさんばっかりなわけ?」
今日彼女を召喚した公爵の男を思い出して苦虫を噛み潰したように顔を歪める。
アリスの姿を見た途端に鼻を伸ばして欲望丸出しで迫ってきた時の光景がフラッシュバックする。
ーーあれは最悪だったわ。ホントに。しかも見た目通りあくどい人間だったわね、、奴隷達のあの様子よほど虐げられていたようね。
「しかしただ召喚を待つばかりでは運任せが過ぎませんか?」
ごもっともな意見につい顔を顰める。レイナードを見遣るとニコニコと得意げな笑みを浮かべたままだ。
それが妙に感に触ってつい声を荒げてしまう。
「ならお前には代案があるというのね?他に人間界に干渉する方法があるのね?」
あるわけ無いと確信しながら高圧的にレイナードを睨む。レイナードは怯む様子は無いが、反対側に立つ隻腕の悪魔は面倒そうに片手で頭を描いてぼやく。
「あんまりレイナードをいじめてやるなよお嬢。」
「いじめるなんて心外ね。ドンナー、あなたこそ何か案は無いの?たまには頭を使った方がいいわ。」
「ねぇなぁ、難しいことは考えたくねぇんだわ。俺はお嬢の暴力装置担当だからよぉ、考えるのは全部レイナードに任せるわ。」
ドンナーと呼ばれる隻腕の悪魔はいっそ清々しい程に考える事を放棄する。その様子にアリスもレイナードも呆れて何も言えなくなる。
ーーまぁ、役割分担という意味ではそれで良いんだけどこんな調子でやってけるのかしら?
「アリス様、もっと確実な方法があります。先日のフルカス公爵との戦争で得た戦利品を使うのです。」
ーー戦利品か。何か目ぼしい物でもあったかしら?確かに管理はレイナードに任せてるから見てないわね。
つい最近の悪魔の大公爵フルカスの勢力との戦争を思い出しため息をつく。
ーーあれはしんどい戦争だった。こっちも軍団の半分はやられたし得たものより損失の方が大きかったと言える。
「その戦利品の中に人間界に干渉できるような物があったということね?」
「ええ、その通りです。見た方が早いでしょう。
アレをこちらへ!アリス様の前に運びなさい。」
レイナードが手を叩くと彼の眷族達が数人がかりで風呂敷に包まれた大きな物を運んでくる。黒い風呂敷を取り払うとそこに意外なものがあった。
「テレビじゃん。懐かしいわね。」
それはテレビと呼ぶにはいささか装飾が多いが概ねテレビであると言える。足は生き物の様に脈打っていてその上の大きな画面を支えている。
「アリス様、これに見覚えでも?」
「ちょっとね…。どうぞ説明を続けてちょうだい。」
コホンとわざとらしく咳払いをしてレイナードはテレビのような魔道具に魔力を流し込む。
すると画面に光が灯り多くの人間が写し出される。そこには人間界の人々の生活が写し出されて画面をタップすると1人の人間にフォーカスされ、その人間の様子が映し出される。
「これは、、っ!まさかリアルタイムで現地の人間の様子が映されているの?」
「ええ、そのようですね。あの古狸も中々面白い物を集めていたようですね。」
ーー仕組みは分からないがこれは画期的だ。人間界に自由に干渉できない我々悪魔にとって、これの有用性はとんでもなく高い。
「これならアリス様の理想とする少年も見つけられるのでは?」
勝ち誇ったような顔でこちらを覗くレイナードに今だけは感心する。
アリスは初めてゲーム機に触れた子どものように魔道具のあちこちを触り機能を確かめる。
触ってるうちにどこかを押してしまったのか、画面が光り特定の人物を映し出す。
「あ、この子可愛い!」
映し出された幼児は4歳くらいだろうか?まだ顔が出来上がって無いのかほっぺたは落ちそうになる程むちむちしてほんのりピンク色になっており鼻も唇も小さくて可愛らしい。
髪は薄い金髪でサラサラと風に揺れている。可愛らしい足取りで笑いながら庭園の草の上を歩き、近くの椅子に座っている母親の元へと行く。
ーーぶひゃあ、超可愛い!まるで天使ね!
うぇへへへとニヤケながら画面に食いつくアリスを見て側に侍るレイナードとドンナーは目を合わせて微笑む。
「お気に召しましたか?アリス様」
天使のように可愛い幼児を観察しながらアリスは上機嫌にレイナードに振り返る。
「ええ!ありがとうレイナード。流石だわ。私決めたわ!」
「何よりです。して、決めたとは?」
アリスからの不可解な返答に疑問を抱いてレイナードは嫌な予感を感じながらも問い直す。
「この子のお姉ちゃんになるの!」
満面の笑みを浮かべるアリスに再びドンナーとレイナードは顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。
ーーこの方を支えるのはこれからも大変そうですね。さて、どうしたものか。
コロコロと少女のように機嫌が変わるアリスに2人は疲労を感じつつも、喜んでいるアリスの顔を見て満足したのか主の次なる望みを叶えるために思案する。
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