第四十八話 予選
歓声が会場内を包む。
初戦、Aグループ。周りの装備はけっこう杖が多そうだ。
さて、カルロスと接触するにはここで勝たなきゃいけないわけだけど、周り八年と九年ばっかなんだよな……。まったく勝てる気がしない。
やっぱりこうなんていうか、オーラが違うというか、こんなガキがこの場にいるのがひどく違和感を感じる。八年、九年といえばこの学院でトップクラスの学年だ、もちろん年齢層もそれなりに高くなってくるからな。
『ビビッと! 皆さん、会場にお越しいただきありがとうございまーっす! 光駕祭名物、闘技大会予選のはじまりですよ~! 今回司会を務めますのは、雷系統ならおまかせ、ビリっとあなたの心をしびれさせるっ! 稲光の姫、ラアドでーっす!』
会場に響くきゃぴきゃぴしたその声に観客たちも呼応する。おもにむさくるしい声だけど。
ちなみに雷系統の人はちょっとした道具を使えば声の大きさを変えることができるらしい。まぁどんな物なのかは知らない。たぶんマイクみたいなものだろう。
『今回出場してくれた選手は総勢128名! 例年通り多くの生徒が参加してくれました!』
ほんときっかり16人ずつなんだな。まぁそんな事はどうでもいい。とりあえずどうこの予選をクリアするかだな……。予想だと俺の事は
とは言え、ザコい奴から潰そうと考える奴もいるかもしれない。となるとどうにも策がどうのとか言ってられなさそうだ。相手の出方を見て臨機応変に対応するしかないか。
『さて、時間も無限にあるわけではないので……早速Aグループの試合を始めたいと思いまーっす!」
ドッと沸き上がる歓声に身構える。
『それでは、はっじめ~!!』
瞬間、一斉に他の視線が俺の所に集まる。
「あれが噂の紺色だ! やれえぇぇええ!!」
「おう!」
え? ちょ、待てよ!?
「
一斉に俺の元に魔術が放たれたので、すかさず自分の身体を軽量化、大きく飛躍し回避する。
しかし流石に予想外すぎる。まさか全員が俺を狙ってくるとは。
とは言えまだ難が去ったわけではない。
「それは予想済みだよ君!」
いかにも知的そうで眼鏡をかけた人が勝ったと言わんばかりに不敵に笑う。
突如、身体中に微かな痛みと違和感。動かない。
なんとか首を動かし背後をみやると、雷で創られた網のようなものが背中に触れていた。
「トノトルス・フェレ。対象をマヒ状態する魔術さ。では皆の者! 今なら当てられるぞ!」
「っさああぁぁぁあ!」
おい嘘だろ、ダメだこれ、終わった。
トノトルス・フェレが消えると、軽量の効果が継続していたか、ゆるやかに身体が落下する。視線の先には色とりどりの様々な魔術。
しかしその一瞬だった。目の前の視界が遮られる。
「なんだ!?」
焦点を合わせる。どうやら岩のようだ。地属性の土系統か?
地面までたどり着くと、その岩が消え去り視界が開ける。
視線の先には背が高めの茶髪の男が他の人を切り捨てている光景だった。身丈からして十七歳か十八歳かそこらへんだろう。
ちなみに加護下なので、刃は肉体を通りはするものの、傷はつかないようになっている。もちろん痛覚もほぼ遮断される。そしてこの学院の加護はよくできた事に身体の部位や刃の入り具合によって削られるスタミナも変わってくる。致命傷ならすぐに眠りに落ちるし、浅い傷なら少し疲れたな程度で済むという具合だ。
今、あの茶髪の男は一撃で他の奴を仕留めていることから、的確に致命傷部分を狙ってると思われる。かなりのやり手。
「よってたかって弱い物いじめとはいだけないねぇ。そういうの、昔から気に食わないんだよね」
「貴様裏切ったか!」
「あっははっ。冗談きついなぁ。誰もあんたらの仲間になるとは言ってないんだけど?」
するとその男は素早い身のこなしでまた近くにいた人を斬り捨てる。
あの人見たことがあるような……。
「グラスマッサ!」
記憶と茶髪の男を照らし合わせていると、不意に何かがこちらに飛んできていた。
あれは氷の塊。あくまでも俺を倒したいらしい。しかし生憎まだ身体は動かない。
しかしすかさず茶髪の男が反応。俺をかばうように立つと、その氷の塊を一太刀に切り伏せた。
「数日ぶり」
そう言うと、その男は笑みを浮かべながら俺の方を振り向く。
なるほどこの人だったか、確か小太り野郎、もといカーターを探すためミアと待ち伏せをした時に情報をくれた八年生だ。
「俺の名前はカイル。まぁ覚えといてくれたら嬉しいかな」
「えっと、ありがとうございます」
急で少し混乱しつつも、とにかくお礼だけは言っておく。
「いいっていいって、さて、そろそろマヒも治ってきたんじゃない? とりあえずあいつらやんないと」
確かに身体は動くようになった。
あのマヒ攻撃には気をつけないとな……。
「所詮相手は七年と八年! 一人増えたところでこちらの有利は変わらない!」
「そうだ!」
「まだやれる!」
相手も士気を取り戻したらしい。俺もさっさと起き上がると、身構える。さっきは油断したが今度は本気だ。
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