第四十七話 光駕祭
カルロスが一気に間合いを詰めるとミアの脇腹を思い切り蹴り飛ばす。勢いよく地面に倒されたミアは何故かそのまま動かない。
どうした? あれくらいの攻撃ならまだまだスタミナには余裕があるはずだ。戦闘不能になる事はないはずだが……。
「ミア!」
試しに叫んでみるが声が届いた様子はない。
「うぁっ」
なんとか起き上がろうとするミアに、いやらしく笑うカルロスは大ぶりの剣をその足に突きたてると、苦しそうにうめき声を上げるミア。
おいどういう事だよ……これじゃあまるで……
ほんとに刺さってるみたいじゃないか――
× × ×
――遂にやってきた光駕祭の日。
学院は活気に満ちており人々でごった返している。屋外には屋台が出ていたりステージが用意されており、屋内に入ればお化け屋敷っぽいやつや朗読会、木板倒しというドミノ倒しみたいなもののように、元いた世界でも割と定番な出し物もある。
ただ流石この世界だなと思った展示がダンジョンだ。敷地内の一角に魔術を使ったのか見たことのない建物が構築されており、どうやらその中は迷宮が広がっているらしい。実際そこに入って攻略時間を競ったりもできるという事だ。
もちろん、それ以外にも様々な出し物がなされているが語りきるには少し多すぎる。
「そうそう、俺その闘技大会出るんだよ」
「え! アキも出るの!?」
寮の皆とは各々することを済ませて集合という事になっている。どうにも、アルドもティミーとアリシアも友達に誘われて展示か出し物か何かするんだそうだ。
俺と言えば所属する学年の人達は皆年上ばかりなので、友達などできるわけも無くそういう話題とは無縁の代物だ。もちろんそれはキアラとミアも同様だ。
ゆえに、特に用が無い俺とキアラは先に集合場所で待っているところである。
そして、話しているとたまたま闘技大会の話題になったので、さして話す必要もなかろうと今まで話していなかった闘技大会参加の旨を伝えたところ、キアラは驚いた様子でそんな事を言ってきた。
今アキ『も』って言ったよな?
「え、お前も出るの?」
「うん、なんか面白そうだったからねっ」
なるほどキアラらしい。
「キアラとアキじゃない」
「あ、ミア、やっほー!」
「よう」
軽く挨拶を済ませるやいなや、ミアがビシリと指をさしてきた。
「アキ、私と当たるまで絶対残るのよ! 今度こそ私が勝つんだから覚悟しなさい!」
「え? どういう事?」
ミアの言葉に対してキアラが疑問を訴えるので俺がそれに答えてやる。
「ミアも出るんだよ闘技大会」
そう、このお転婆お嬢様ときたら校長室に行くと自分までエントリーしたのだ。その時はまさかミアも出るとは思っていなかったのでなんとなく虚を突かれた気分だった。
「あ、そうなんだ! 偶然偶然っ」
「へ?」
今度はミアの方が頭に疑問符を浮かべた。
「私も出るんだそれ」
「え、キアラも出るの!?」
「そうだよっ、楽しそうだったからね」
そう言ってブイサインをするキアラ。
「そ、そうなの……できれば当たりたくないわね」
ミアは急にしおらしくなる。なんなんだろう、この子キアラの前だと時々そうなるよね。俺にも一回くらいそれくれませんかね?
「まぁそうだねー身内だとなかなか戦いにくいもんね」
「まぁ死ぬわけじゃあるまいし、楽観的に行こうぜ。痛さだってあるかないかくらいのものなんだしさ」
「まーそっか、もし当たった時は遠慮無しできてね!」
「そ、そうね。誰が相手だろうと、勝つのはこの私なんだから!」
ミアは平常運行に戻ると、あいさつ回りだとかでミアはこの場を離れた。王家に近い家は何かと大変だな。
その後、ティミーたちと合流すると、闘技大会開始までしばらくこの光駕祭を見て回った。
まだまだ見切れてないところもあるけど、まぁまた空き時間にでも回るとしよう。
「それじゃ、そろそろ時間だから俺達は行くわ」
「うん、わかった。頑張ってね。観客席で応援してるよ」
よし、ティミーの応援もあることだし、やる気出てきたぞ!
♢ ♢ ♢
予選の会場は編入試験の時に行ったあの闘技場で行われるという事だ。
ちゃんと選手が控えるためのロビーみたいなところもあったようで、その場所まで行くと、この大会に出場するのであろう生徒たちが既に大勢来ていた。特に人が集まっているのはグループ分けの貼られた掲示板の前だ。
グループは全部で八つに分かれていて、十六人ずつ出場者が分配されている。
予選はこのグループごとにバトルロイヤル方式で王者を決めるらしく、その王者に輝いたものが本戦に出場する事が出来るという事だ。
さて自分はどのグループかと名前を探すとすぐに見つかった。どうやらAグループらしい。とりあえずミアの名前もキアラの名前もAグループ一覧には無いのでとりあえず初っ端からつぶし合うという事態は避けられたようだ。
ミアとキアラはブッキングしてないかと気にはなったがそんな事よりもあともう一人探さなきゃならない名前がある。
「Dか……」
Dグループの名前一覧の上にはカルロス・マルテルと記されていた。やはり出てきたか。
俺がこの闘技大会に参加したのにはもちろん魔術本がほしいという理由もあるがもう一つ違う理由がある。どうにかカルロスと接触できないかと思ったのだ。個人的に会う事もやろうと思えばできたのだろうが、加護はあるとはいえ、何を仕掛けてくるかも分からないので危険だと安全策をとっていたのだ。
大会という場で会うなら周りには人が大勢見ているからずっと安全だろう。
「ねぇ、アキはどのグループだった?」
「俺はAだ」
「Aか~そりゃえぇなぁ、とか言っちゃって」
「うっわぁ……」
どうしたのキアラさん……寒いんですけど色々な意味で。水属性の氷系統だからそんな事言っちゃったのかな?
流石にだだすべりしたのを察したか、キアラはバツが悪そうに顔を赤らめると話を切り替えようと声を張る。
「ミ、ミアはGグループだから、三人のうち誰かと当たるとしても本戦だねっ。うん、よかったよかった」
「忘れないぞ。一生心に刻んどいてやるからな」
「ちょと、さ、さっきのはホント魔がさしただけなんだって~。お願いだから忘れて!?」
「無理だな」
日ごろ散々俺をからかってきたお返しだ。たまにネタにしてやろう。
「アキ、キアラ、二人とも来てたのね」
名前を呼ばれると、キアラは肩をビクリとさせる。良いタイミングでいらしたねぇお嬢様。
「なぁミア聞いてくれ」
「な、なによ急に……」
できるだけ真面目なトーンで声で言いミアを見つめる。
少し真剣な話だと思わておくことで実はキアラの失態話だったという落差を生じさせるためだ。落差は高いほうがダメージは大きいからな。
「それが――」
「ストーップストップ!! ほらあれだよ! 皆グループ別れてよかったねって話! はは、ははは……」
それを聞いたミアは顔を赤くすると、俺のむこうずねに思い切り蹴りを入れてきて、加護のおかげで大した痛さは無かったものの衝撃でバランスを崩して倒れてしまった。
「そ、そんな事なら普通に言いなさいよ! あまりにも真剣だから何事かと思ったわよ!」
解せぬ。だからってこんな思い切り蹴ることないと思うんですけど……。
「ほんと、びっくりしたじゃない……」
しばらく座り込んでいると、俺の目線までしゃがんだキアラは俺の肩を叩いてニヤニヤ笑っていた。
「分かってないですなぁアキさんは」
「何をだよ……」
「さぁね?」
なんというかひどく返り討ちにされた気分だ……無念。
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