第三十五話 安寧
いきなり現れたと思ったらいきなり
「断る」
だがもちろんそんなもの受けるつもりはない。
「なんでよ!」
「俺は女とは戦わない主義なのさ」
「な、なによそれっ、バカ! ずべこべ言わず戦いなさい!」
「だからやらないって」
「いいからやるの!」
とんだじゃじゃ馬だな……。もうちょっと突き放すような態度をとり続ければよかったかもしれない。
ふむでもどうするか、まぁ女子と戦いたくないのは事実だし目立ちすぎるのも嫌だしな。なんとか諦めて貰わないと。
「そんなにしたいのか?」
「当たり前よ」
「でもさ、
するとミアは挑戦的な笑みを浮かべて指をさす。
「そんなの決まってるじゃない! グレンジャー家の私がじきじきに相手してあげるのよ? そんな名誉なことはないんだから!」
「交渉決裂」
「ま、待ちなさいよ! 分かったわ、あんたが求める要求をのむからっ」
あたふたしながらそんなことを言い出すミア。よし勝った。
「じゃあさ、もしお前が負けたら俺専属のメイドさんになる。これでどうだ?」
「な、何よそれ……」
「朝は俺を起こしにきておはようございます。そんでもって帰ってきたときにはお帰りなさいませ、あと俺の事はご主人様と呼んでもらう」
さて、これですんなり諦めてくれるだろう。我ながら気持ちの悪い事を言ったとは思うけどまぁこれくらいの事は言っておかないと。
「わ、わかったわよ。それでいいのね!」
「は?」
「だからそれでやってくれるんでしょ!?」
ちょっと待って承諾してきたよこのお嬢様。いや別にいいんだけど、むしろこんな可愛い少女がメイドさんになってくれればそれは俺にとっちゃ願っても無い事だけどさ。
「おま、どういう事か分かって言ってんの?」
「も、勿論よ。要するにあんたの下僕になればいいんでしょ……」
下僕ってそこまで言ってないんですけど……。ともあれなんとかしないと。
「由緒あるグレンジャー家の奴がなんの由緒なんて微塵も無いド田舎から出てきた男に奉仕するとかあり得ないだろ!? いいから考え直せって!」
必死に説得すると、ミアは自信ありげに腕を組む。
「ちょっと勘違いしないでよね、私があんたなんかに負けるわけないじゃない」
なるほどそういう事……。まったく、なんて自信満々なお嬢様なんだ。
「講義を始めます!」
どうにか諦めてもらえないかと考えを張り巡らそうとすると、良い具合に先生が現れてくれた。とりあえずこの場は
「ほら講義始まるぞ。早く座れ」
「何よ、私に命令しないでよね」
などと渋りつつもちゃんと着席するあたり案外良い子なのかもしれない。どうやって諦めさせるかは講義を受けながらでも考えればいいか。
だが結局、何か良い案が浮かぶわけではなかったので俺は授業に集中することにした。
♢ ♢ ♢
「さぁ勝負よ!」
講義が終わるやいなやズビシと指をさしてくるミア。講義に没頭しすぎてすっかり忘れてた……。魔術読本に書かれてた内容もあったが書かれてない事もあったので非常に興味をそそられる講義内容だった。
「ちょっと聞いてるの!?」
反応が遅れたのが気に食わなかったのかミアは顔を赤くして眉を吊り上げる。
「悪い、講義が面白すぎてお前の存在すら忘れてたわ」
正直に伝えるとお嬢様もご立腹の様子でより一層顔を真っ赤にさせた。怒りで何も言えないようだ。嘘も方便っていう言葉はやっぱり大事らしい……。
「ほんと悪かったって、な? そう怒るな。ちゃんと頭の片隅にはずっといたから」
慌てて取り繕うとなんとか怒りを鎮めてくれたらしい、次第に落ち着いた様子を見せていく。
「とにかく
「だからやらないから」
「なんでよ、ちゃんと条件はのんであげるって言ってあげてるじゃない!?」
本当に条件をのむつもりなんだな、もういっそメイドさんに……いやそこは我慢だ。
「それでもやらない。ていうかさ、なんでそんな俺と戦いたいんだよ」
「そんなの、私より強い火の使い手はいらないからよ!」
へぇ、このお嬢様も炎属性だったのか。ってことはこの子もしかして……。
「紺色だったりするの?」
見たところかなりの自信があるようなので訊いてみると、何故かミアは答えにくそうに目を泳がす。
「…………よ」
「え、なんて?」
聞き取れなかったのでもう一度たずねてみると、ミアは顔を真っ赤にさせる。
「赤よ! 何か文句あるの!? バーカ!」
最後に
確か次は剣術基礎だったな。まぁ彼女の事は放っておいて大丈夫だろう。
♢ ♢ ♢
夕暮れ時、剣術基礎の演習を終え、一人寮に帰る。
剣術基礎なのだが、割と簡単だったので次からは応用を受けに行こうと思う。
しかしまぁいろいろあったよな今日は。編入試験受けたり先輩にからまれたり、ミアお嬢様に
「お疲れアキ」
今日の事を振り返っているとふと聞き覚えのある声がかかった。
「キアラも終わったんだな、お疲れ。どうだった?」
「楽しかったよ。まだまだ私の槍術は甘かったなぁ~」
伸びをするキアラの横顔は確かに充実感が
「そうか、確か槍術応用Ⅰ受けたんだったよな」
「うん、アキは魔術応用と剣術基礎受けてきたんだよね?」
「ああ、魔術の方はなかなかためになったけど、剣術基礎は意外といけたな」
「さすがはアキさん、やりますなぁ」
そう言いながらキアラはひじで俺を小突く。
「たまたま昔かじったことがあっただけだ」
一度は落ちた俺でも剣道とかそういうのはやってたりはしていた。まぁウィーアースポーツリゾートのチャンバラの方がやり込んでたけどね!
「そっかー」
すると後ろで手を組みながら満面の笑みを浮かべたキアラが俺の前に出てきて言う。
「一緒にがんばろうねアキっ」
それは俺にどこか安らぎに似た感覚を与える。そういえば昔も今日みたいな事があった気がするな……。
かつて堕ちて無かったころを懐古しつつキアラと共に寮に戻った。
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