第三十六話 事件
次の日、朝起きて外に出てみるとティミーが花壇の前でしゃがんでいるでの声をかけてみる。
「おう、ティミー」
いきなり声をかけられたからか肩をピクリとさせティミーは振り向いてくる。
「あ、アキ……お、おはよう」
「悪い悪い、何してたんだ?」
「えっとね、お花が枯れそうになってたりもしてたから元気にしてあげたんだ」
「なるほど、確か植物にも効くんだよな治癒って」
どれどれとティミーの隣にしゃがむと、花壇一面に美しく花が咲き乱れていた。恐らくティミーが魔術を使って全部元気にしてあげたんだろう。
確か始めた会ってから間もない日にもそんな事をしてたな。いやぁ、あの頃のティミーは可愛かったなぁ、いやもちろん今も可愛いけどね?
「きれいだな」
「うん」
その横顔はとても嬉しそうに微笑んでいるのでついついこちらまで口元が緩んでしまう。
「朝ごはんできたよー!」
しばらく花の様子を見ていると、後ろから朝飯を告げるキアラの声が聞こえたので立ち上がる。
「さて、朝飯らしいから行こうぜ」
「そうだね」
朗らかな朝を迎え、朝食をとった後、どうやら六年には必修講義とやらが大講義室であるらしいのでそちらへキアラと向かう事になった。
講義名は魔法基礎Ⅰ。魔法については魔術読本の片隅にしか書いてなかったのだが、要は無属性魔術だ。属性を付加させずに魔力を使って物を浮かせたり自分で浮いたりできるらしく、極めればテレポートとかもできるようになるという事だが詳しい方法は記載されてなかったので今回の講義はとてもありがたい。まぁ教えてもらえるのかは知らないけど。
「なんか必修って聞くとやるきそげるよね……」
キアラには珍しく元気が無い。
「いいじゃないか、なんか宙に浮けたら楽しくね?」
「地面を駆けまわるほうが楽しいし」
なかなかの野生児だな……もしかしてハイリとすごく気が合うんじゃないの?
「まぁなんだ、とにかく頑張ろうぜ」
「そうだね……。ま、アキと一緒に受けれるし良しとしますかっ」
「お、おう」
急に笑顔になるのでちょっとドキッとしました。そういうの反則だと思います。
「おや? アキヒサさんちょっと顔が赤いですよ?」
「う、うるせぇな、炎属性だと体温が高くなるんだよ」
「おやおやそれは初耳ですなぁ? いやぁ、流石アキさん、よく勉強されてらっしゃるっ」
そう言って軽く背中を叩いてくるキアラ。
くそ、ニヤニヤ笑いやがって……絶対信じてないだろこれ。確かに体温がどうこうとか嘘なんだけどさ!
などと会話してるうちに大講義室につき、まもなく講義が始まった。おかげで軽い物くらいなら浮かせるようになってすごい楽しかったです。
♢ ♢ ♢
講義が終わるとキアラはさっそうと槍術応用を受けに行ったので今は俺一人になった。
今の時間、受ける講義が無いのでとりあえず学院の図書館で暇をつぶすことにした。
図書館はかなり広く、地下には書庫とかもあるようで非常に心が躍る。
今読んでいるのはこの大陸について書かれてある本。この大陸はそれなりに広さもあるらしく国もいくつか存在するという事だ。昔こそ国同士での闘争などあったらしいが今ではそんな事も無いらしい。うん、平和一番。
「ちょっとあんた!」
懐かしいディーベス村での日々を振り返っていると、前から怒号が飛んでくる。
図書館だというのによく響く声を発し机を叩いたその子は見覚えのある子だった。
「あ、ミア」
「あ、ミアじゃないわよ! あんたマルテル一派の奴に喧嘩吹っかけたってほんとなの!?」
「ちょっとミア……」
「はっきり言いなさい! ほんとなの!?」
「図書館だからとりあえずボリューム下げようね」
注意してやるとミアはハッとした様子で慌てて周囲を見回すと、恥ずかしそうに顔を伏せる。
「そ、それでどうなのよ……」
先ほどのきつい物言いとは打って変わってしおらしい様子だ。ずっとそうしてればいいと思うよ。その方が可愛げがあるからさ。
「そもそもマルテル一派って何?」
「あんたそんな事も知らないの? ほんとバッカじゃない?」
やれやれ、声のトーンを落としてもいう事は変わらない奴だな。しかしマルテル一派か……喧嘩といえば先輩とひと悶着あったがそれの事かな。
「分かったから教えろよ」
「まったく、仕方が無いわね。マルテル一派っていうのはこの学院の九年生カルロス・マルテルが率いるグループよ。七年生以上で構成された選りすぐりの人達がそろってるから他の生徒は最高機関とまで呼んで恐れてるわ」
「ほう、そんな奴らがいたのか。ところで何かボスの特徴とかないのか?」
あのいかにもな風格のボスと呼ばれた男が頭をよぎる。確かツンツンとセットされた頭、そういえばあの強面には頬に大きな傷もあった気がするな。まったく、どこでつけたんだか……。
「そうね、やっぱり一番は頬の傷かしら。そのうち見ると思うわよ」
ビンゴ。まぁ確定だろ。
「俺そいつと直接話したな。そもそも
「嘘でしょ!? ってことはやっぱり喧嘩吹っかけたの!?」
「吹っかけたというか吹っかけられたというか……」
口火を切ったのは確かに俺だったかもしれないけど喧嘩に持ち込んだのはあっちだよな。
「信じらんない。ほんとあんたって馬鹿ね!」
「うるせぇな」
あまりにも馬鹿馬鹿言ってくるので俺は軽く仕返しにミアに覚えたての魔法を使ってやる。
「きゃっ」
可愛らしい悲鳴と共に俺の目には薄い桃色の布がしっかりと焼き付けられた。先ほど講義でこの軽い物を浮かす魔法、もしかしたら……などと思っていたら案の定うまくいった。いやぁ、これ大人がやったら犯罪だからね、子供のうちに一回もやらなかったこと若干後悔してたんだよ。まぁ元の世界じゃ子供がやってもかなり危ういゾーンだったわけだけど。
……ちょっと調子乗りすぎたかな?
「こ……この…………」
見ると思った通りミアは顔を真っ赤にさせてわなわなと拳を震わせていた。
俺自身、元の世界ではそれなりに成長してしまっていたので、これくらいの年齢ならまだまだ子供だと錯覚してたけどそうだよな、早い奴ならもう思春期だもんな……。
「変態!! もう知らないんだから!」
ミアは図書室にも関わらず大声で放つとそのままどこかへズカズカ歩いていってしまった。人は少ないとはいえ、いないわけではないので何人かの目線が俺に向けられる。うわぁ、俺が何かしでかした雰囲気じゃねぇかよ……事実なんだけどさ? 明日応用魔術の講義があったはずだからその時にでも謝るか……。
もはや悔やんでも後の祭りなので図書館を退散して適当に昼飯を摂った後、午後から始まる剣術応用演習を受けた。割と高度な事をしてくれたのでしばらくは楽しめそうだ。
♢ ♢ ♢
演習を終え、寮に戻ると寮の皆が外に出て何やら見ているようだった。
「どうしたんだ皆? 何かあったのか?」
「ア、アキぃ……」
声をかけると、どういうわけか泣きながらティミーが俺の元へと
「ティミー?」
「たちの悪い、いたずらだ」
そう言ったのはアルドだ。なんか久しぶりに見た気がするな……なんて思ってられる空気じゃなさそうだ。
泣いてるティミーをなだめると、皆が見ているものが何か確認しに行く。
「なっ……」
思わず声が漏れる。目の前に広がった光景は朝とは打って変わって雑然と荒らされている花壇だった。
……誰がやった。誰がこんな手垢のついた事をやりやがったんだ。朝はあんなにきれいに咲いていたのに。
いやきっとカルロスの野郎に違いない。他に思い当たる奴などいない。
気づけば足が勝手に動き出していた。当然あいつを叩くために。
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