第三十四話 グレンジャー家のお嬢様
連れてこられたのは武道場。おもに
そしてこの
面倒くさそうだから手は付けないでおこうって考えてたんだけど、あの流れじゃどうにも断れなくてな。
「さてと、そこのチビの要求は? こっちはお前を下僕にしたいようだぜ?」
その言葉にニヤニヤとする小太り野郎。
「なんでもいいんすかね?」
「ああ、どんな条件でものんでやるよ。もちろんこっちのも了承してもらうがな?」
まぁこういうのって謝罪とか要求するとかっこいいんだろうが……どうしようかな。そんなことよりアリシアに聞いてみよう。一番の被害者は彼女なわけだし。
「アリシア、どうする? 何か要求ある?」
「あ、えっと……そんなことより私は大丈夫なので今からでも断ってください、負けたら下僕ですよ?」
確かにそうだよな。相手は七年生だし、俺とか六年生とはいえピカピカの新人だもんな。でもやっぱり腹は立つ。
考えあぐねていると、アリシアがあいつらの方を向いて歩み寄ろうとする。
「ちょ、アリシア」
「悪いですがこの
引き留めるのも聞かずにずかずかとアリシアは歩を進めるとそんな事を言い放つ。無論、相手もいい顔をするはずもなく
「に、逃げるのか!?」
「逃げる? 何を言ってるんですか先輩は。こっちは低能なあなた方に付き合っている暇は無いって言ってるんです」
「ど、どこまでも生意気なガキめ!」
アリシアに殴りかかろうとする小太り野郎をボスと呼ばれる男が手で制す。
「よせと言っただろ? 女の言うとおりだ。こっちとしてもガキ相手にマジになったなんて言われたらたまったもんじゃねぇからな……。おい行くぜ、てめぇもガキにいちいち突っかかってんじゃねぇよ」
小太り気味の男はなおもこちらを睨み続けていたが、間もなく視線をはずしその男と共にどこかへ去った。とりあえず一難は去った……のか?
とりあえず行ったのを確認すると、アリシアが地面にへたり込むので駆け寄ってやる。
「大丈夫か?」
「はい、少し疲れただけなので」
そう言って立ち上がろうとするので手を差し出してやる。
「ど、どうも……」
頬を朱に染めながら俺の手を取り立ち上がるとそれっきり顔を俯かせてしまった。
キアラがふふぅんと隣で唸る。
「なんだよ……」
「べーつにっ」
いたずらめいたその笑みに思わず苦い笑みがこぼれる。でもなんだろうな、キアラを見てると安心感を感じるのは彼女の性格ゆえなのだろうか。
「むー……」
すると今度は先ほどとは違ったように唸りだす。
「どうしたんだよ」
「別に」
ちょっとトゲトゲしいですよティミーさん……。不機嫌だと安心感どころか不安しか感じないんでなんとか気を取り直してくれませんかね?
「まぁいいや、とりあえず食堂はなんか嫌だし、寮に戻ってワードさんに何か作ってもらおう!」
なんとなく微妙な雰囲気なので適当に話題を振って場を和ませようとすると、なんとかキアラがのってきてくれた。
「賛成! そうと決まれば善は急げ、わたしに続けー!」
「そうだね、アリシアちゃんも行こ」
「は、はい」
意気揚々と先陣を切るキアラに、アリシアを促しながらティミーも続く。
「あの、アキさん。その、ありがとうございました」
「ん? おう」
すれ違いざまに丁寧に頭を下げるアリシア。どうにも納得がいかない。やっぱあそこで戦ったほうが絶対かっこよかったよな俺……。
若干後悔の念を抱きつつも三人の少女の後に続いた。
♢ ♢ ♢
昼食をとった後、俺達は講義を受けてみることにした。
各々受けたいものがばらばらだったので今は別行動をしているので一人講義室の椅子に座っている。俺が今から受けるのは応用魔術Ⅰ・火だ。これが終わったら剣術基礎ものぞきにいくもりだ。これについては実技らしいので少し楽しみである。
でもなんですかね? さっきからチラッチラと俺に視線を向けてくる恐らく俺よりも年上と思われる人達はもうちょっと自重した方がいいと思いますけどね。
まぁ確かに、十五、六歳とかそこらの年齢なんだろうなと思われる人でいっぱいの中に一人でこんな小六か中一くらいのガキがポツリと座ってるのは違和感あるかもしれない。
とは言え、やっぱりじろじろ見られるのはあまり気持ち良い物ではない。
「あんたが噂の編入生ね!」
編入生と呼ばれたので少し首をかたむけてみると、大きなリボンを二つ結んだツインテールの女の子が立っていた。お、もしかして俺と同い年くらいじゃないの? ティミーたちにも劣らずけっこう美少女だな。将来有望。
「ちょっと、なんとか言ったらどうなのっ!?」
「え、ああ悪い、確かに俺は編入生だけど他にも……」
「あたしは炎属性の編入生を探してるのっ、ばっかじゃない!?」
「馬鹿とはなんだ。初対面でその態度はいただけないぞ?」
「な、何よ……」
おっと俺としたことがちょっときつく言い過ぎたかもな、相手は同じくらいの子供だしもう少しオブラートにするべきだ。
「あぁごめん、ただ、できるだけ初対面で話しかけるなら挨拶くらいはした方がいいと思うよ」
言うと、女の子は顔が真っ赤に染まっていく。
「何よ偉そうに! 私は由緒あるグレンジャー家の者よ? もう少し口を慎みなさいっ」
偉そうなのはお前もだろ……とか言うわけにもいかないな。グレンジャー家だかなんだか知らないがどこぞの貴族のお嬢さんなんだろう。ここはけっこう進学校っぽいからなぁ……とりあえずてきとうにあしらおう。
「これは失礼しましたグレンジャー様、私のような愚民風情に何のご用でしょうか」
「馬鹿にしてるの!? 私はミアって言う名前があるの、ミアよ!」
「じゃあミアたん何か用?」
すると今度は一歩後ずさり慌てた様子で目を泳がせる。
「な、な、何よその変な呼び方……。ふ、普通にミアって呼びなさいっ」
「普通にミア、何か用かな?」
「そういうことじゃないわよ! ミアよ! 私の名前はミア! 名前で呼べって言ってるの!」
可愛らしく拳をにぎって地団太を踏むミア。
いちいち反応が面白い子だな。さて、そろそろ遊ぶのはやめてあげよう。
「それでミア、何の用だ? 俺は確かに炎属性だけど」
「まったく、ようやくちゃんと呼んだわね。まぁいいわ、あんた紺色の使い手って聞いたけどホント?」
「え、なんで知ってんの?」
「だからさっき言ったでしょ? 噂がたってるって」
なるほど、噂っていうのはそういう事か。うーん、ついついなんで知ってるのとか言って肯定しちゃったけどよかったのかな……。まぁもう言っちゃったものは仕方ないか。どうもさっきから目線を感じていたのは小さいからってだけではなかったようだ。
「で、それを確認しにきただけか? じゃあ授業も始まるし、そろそろ席につけよ」
「あ、そうね……って違うわよ!」
お、ナイスノリツッコミ! え、そうでもない?
「じゃあなんなんだよ」
「私と
「え?」
何を言い出すかと思えばこのお嬢様は……。
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