第三十二話 奮闘

  先にあった階段を登ると、外につながっていたようで太陽がまぶしく照っていたので思わず目を細める。


 それでも光に慣れてくると、周りの景色も見えてきた。

 ここはどうやら闘技場のようで、先には大きな鉄格子が下ろされており、周りは誰もいないが観客席と思われるものに囲まれている。


「さて、編入生諸君!」


 突如かかった声の方を見ると、校長が特別席と思われる物見台で立っていた。隣には何人かの人がひかえている。一人は三角帽子をかぶっていることから恐らく学院の教員かなんかだろう。


「試験開始だ!」


 校長の合図と共に前方の鉄格子が上がっていく。

 それと同時にけたたましい雄叫びがが聞こえると、中からは色々な魔物が十数匹出て来てた。おいおい冗談きついぞこれ……。


 他の面々の様子をうかがうがやはりこれだけの量、身体に傷がつかないとは言えしり込みしているようだ。ティミーといえば他の皆同様動こうとはしないものの、大きくおびえた様子ではないからとりあえず今は大丈夫そうでよかった。


 しかし敵の数を正確に数えてみると十二、種類も大きさ獣型であったり人型であったり様々なようだが……。ちょっと十二歳のガキ相手にこれはあんまりじゃないですかね校長……。あれですか、もしかして十二歳だから十二匹という謎理論ですかね?


「いっくよぉ!」


 俺含め皆しり込みしている中、一人果敢にも突っ込むのはキアラだ。

 大きく飛躍すると、その槍を振るい前方にいる小さい魔物をあっという間に倒してしまった。


 キアラはのんきにもこちらに向かってブイサインをする。しかし魔物はその隙を逃さない。

 その無防備な背後、宙に身を預けた獣型の魔物が爪を光らせる。


 刹那、何かをまとう物体が出現。魔物を串刺しにする。

 突き出しているのは巨大な氷柱だった。氷に纏う冷気と共に魔物が消え去る。


「ほらーけっこういけるよ!」


 嬉々とした様子でこちらに手を振ってくるキアラ。

 どうやら水属性氷系統らしい。恐らくあの氷柱はキアラが出したんだろう。となるとあらかじめ魔術を展開した上でわざと背中をがら空きにしたって事か? だとすれば凄まじい戦いのセンスだ。


「みんなもおいでよ! たのしいよっ」


 キアラは笑顔で告げると振り返ってまた魔物の群れと対峙する。いやほんと、良い顔してるな……。

 もはや感動を通り越して呆れつつもあると、魔物の群れの中からたてがみをなびかせた大きい獣型の魔物二匹が猛虎の如くこちらへ駆けてきた。


 とりあえずクーゲルで動きを制していったん止まらせた方がやりやすそうだ。でも魔術を二個同時に出す芸当なんて二年前にやったきりだしな。もしこれでミスって両方とも不発になるとかなり厄介な状況になる可能性もある。とりあえず一匹でも確実に、もちろん二匹目にも当てるつもりで。


「クーゲル!」


 詠唱と共に魔力弾が発射。

 こちらに猛進する魔物のうち一匹の動きを制すことに成功した。すかさずもう一つ放とうと試みる。

 しかし遅かった。既に敵は目の前だった。どうやら跳躍してきたらしい。少し見くびっていたようだ。


「ク、クーゲル!」


 そこへどこからか別のクーゲルが飛んできた。その方向へ視線をずらすと、ティミーが杖を構えていた。


「いいぞティミー!」

「う、うん」


 流石だ。ろくに使ったことも無い魔術を正確に当てるとは。やはり才能があるんだろうティミーには。


「よし、ひるんでる隙にたたみかけろ! 右を頼む!」


 号令を出すと皆一斉に動き出してくれる。

 ちょっと嬉しく感じつつも左の魔物に目を向ける。

 感じるのは明確な殺意。加護があるとは言えやはり緊張はする。


「クーゲル!」


 右手より魔力弾を発射。しかし魔物も慣れたか、軽々とおよそ三メートル左方に回避する。

 俺は左手を突き出し第二撃、クーゲルの準備。魔物もそれに勘付いたか、すぐさま右方へ跳躍。

――ここだ。


「フェルドゾイレ!」


 すかさず次の魔術を詠唱。

 第一撃のクーゲルは回避距離の予測、第二撃の発動動作はこの状況を構築するためのフェイク。魔術を覚えて二年経った今、フェルドゾイレを指一本出せるようになったからこそできる攻撃だった。


 魔物が地面に到達すると同時、その下から赤色の火柱が立ち昇る。

 ややあって、魔物は焼け焦げ、灰となり、消え去った。


 流石の魔物でも赤色とはいえ火柱が直に当たっては耐えきれなかったのだろう。

 しかし炎色操作の練習を兼ねて赤色にしてみたけど案外うまくいったな。魔術読本に書いてあった通りにすれば案外簡単にできるものだった。


  さてそれはさておき、もう一匹はどうなったかと見てみると、まだ交戦中のようだが魔物の方が弱っているようだった。これなら援護の必要は無さそうだ。

 さらに視線を移動し、キアラの方を見る。

 映るのは魔物の群れのみ、目を凝らせば群れの真ん中で倒れるキアラの姿を捕捉。まずったか……!


「そっちが終わり次第キアラの方の援護に回ってくれ! 俺は先に行っとく!」

「ま、まさかもうやった……」

「ではアキさん、少しだけ待ってください! ビート!」


 アルドの声を遮り俺を引き留めると、アリシアは俺に向かって杖を向ける。  途端、清々しい心地が足元を突き抜ける。これは一体……。


「素早さを上げる魔術です!」

「マジか、ありがとう!」


 なるほど強化系魔術だったか。と言う事はアリシアは地属性土系統というわけだな。心強い。

 試しに地面を蹴り上げる。感度が違った。身体が軽い。ベルナルドさんに使ってもらったレイズは全身の力が満遍なく上昇してる感じだったが、こちらは足だけが非常い軽くなったようなそんな感覚だ。

 いつもの倍早く走れるのであっという間にキアラを取り囲む魔物の場所までたどり着けた。

 背後からフェルドゾイレを放ち、一匹の魔物をしとめて輪の中に身を投じる。


「大丈夫かキアラ!」


 輪の中で座り込んでる様子から何やらアクシンデントでも起きたらしい。


「いやぁ、あんまり痛くないし、調子乗って攻撃防御しなかったら身体に力が入らなくなっちゃってねぇ。ダメージ時のスタミナはちゃんと削られるみたい」


 あはは……とから笑いするキアラ。まったく、危なっかしい事この上ない奴だな。とは言え魔物の数も今では四匹だけ、一人で三匹もやったその力には敬服せざるを得ない。


 しかし感心してる場合じゃない。視線の端、ソルジャーだかウォーリアーだかつけられそうな魔物がこちらに向かって剣を振り下ろしてきていた。


 アリシアの魔術の助けもあってか、すんででそれを回避。キアラが無防備なのですかさずクーゲルを放って魔物の動きを牽制けんせい。回り込みその首筋に向かって短剣の刃を突き立てる。

 

「槍くらいなら動かせるよ!」


 そう言うとキアラは、その魔物の胸を槍で一突きしてとどめをさした。あと三匹。


「残ってるのはでかいのばっかか……」


 とは言え魔物にも少し知能はあるようで、どことなく俺を警戒しているのかなかなか動いてこない。

 だったらこっちから行かせてもらおう。


「フェルドゾイレ!」


 詠唱と共に紺色の炎が立ち昇る。赤色など悠長な事は言ってられなかった。


「こ、紺色!?」


 なんとなくゴーレムと戦ってたら紺になっちゃったので実感は湧いてなかったけど、やはり紺色は珍しいらしい、キアラが驚いたように声を上げた。

 悪い気分はしない。


「まぁ、なんとなくできちゃ……」

「危ない!」


 若干調子に乗って応えようしたその時、キアラが叫ぶ。

 何事かと思い見てみると、目の前には影。先ほどフェルドゾイレで仕留めたと思っていたごつごつした人型の魔物が目前で拳を構えて迫ってきていた。


 傷一つないということはどうやら避けられていたらしい。なんとか短剣で攻撃を防ぐも、身体ごと数メートルはじき飛ばされる。

 

「まずい」


 案の定、ほとんど動けないキアラは隙だらけなので魔物共が息の根を止めんと一斉に襲い掛かる。クソッ、頼む!


「ケオ・テンペスタ!」


 短剣を構えてそれを唱えると、刀身から音を立てて旋回する炎が放出。キアラを囲う魔物共を強襲する。

 上級どころの魔術。時速二百キロに及ぶ炎属性最速の魔術だ。魔力伝導性がある短剣のおかげですぐに放つことが出来た。装備無しだったら時間がかかり今頃キアラが倒れていただろう、加護があるから死なないと言われてるとはいえ、やはり信用しきれない。


 しかし安心するには早かった。射程範囲が狭い魔術だったせいか、一匹取りこぼしたらしく、一匹の魔物がボロボロになりながらもキアラを貫かんとして剣を構えていた。

 これは間に合わない……!


「「クーゲル!」」


 そこに複数の声と同時に、その魔物が地面へ突っ伏す。

 声のした方を見ると、三人が各々の武器を構えながら立っていた。どうやらクーゲルを奴にお見舞いしてくれたらしい。

 それを受けてもなお起き上がろうとする魔物。なんという生命力だ。でも俺がそうはさせない。


「フェルドゾイレ」


 とどめをさすとほどなくして、高らかに校長の声が辺りに響く。


「よし、試験終了!!」


 ふう、疲れた……さて戦いぶりはどう評価されるかな。

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