第三十一話 編入試験

 入寮会は軽いパーティーのような感じで、ついでに学校の事も簡単に教えてもらうような感じだった。

 それから各日かくじつは過ぎてついに入学の時となる。

 編入生である俺達は講堂で開かれる始業式には出ず、本館にある校長室に呼ばれていた。

 しっかし懐かしいなあ、制服とか何年ぶりだろ。


「こ、ここでいいんだなアキ」

「そうだろうな」


 改めて若返りに感動を覚えていると、不意にアルドがささやいてくるので適当に返す。


「えと、入ってもいいのかな」

「いい、と思うけどなぁ」

「呼ばれてるのは私たちなわけですからね……」


 他の面々もささやき合い始める。


「すみません、入ります」


 ここは一応最年長者である俺が先陣を切ってあげるべきだろうという事でドアをノックして校長室の中へ入る。


「よく来たな編入生諸君」


 入ると後ろから見てもわかるくらいグラマラスな身体をした女性が大きな窓の外を眺めていた。とは言えその背中から伝わるいかにも厳格そうな雰囲気には思わずたじろいでしまいそうになる。


「君たちは我が学院の栄えある初の編入枠生徒。その事に誇りを持ってもらいたい」


 さて、と言って振り返ると、その人はビシッと俺達に向かって指をさした。


「私が校長のミーガン・ペレスだ。君たちにはこれより試験を受けて貰おうと思う!」


 え、何それ聞いてない。編入試験って事?

 他の皆も表情に戸惑いの色が見て取れる。それを察してか校長は優しめの口調で話を続ける。


「安心したまえ。君たちは試験の結果次第で飛び級ができるというだけの話だ。なに歳が十二だというのに一年生から始めるのはどうかと思った学院側の配慮だよ」


 なるほど、校長の口ぶりから一年生とか低学年というのはちびっこしかいないのだろう。一応ここは六歳から入学らしいしな。

 確かにそんな中にまぎれて勉強するのは嫌……待て? つまり幼女を愛でながら勉強ができるという事になるよな? やっぱりアリと思います!


「どんな試験なのでしょうか」


 俺がろくでもない考えを巡らせているのをよそに、アリシアが質問を投げかけた。

 うん、まぁ確かに気になるところではあるよな。


「そうだな、君たちに実戦を行ってもらってその時の様子で判断したいと思っている」

「何と戦うのでしょう」

「魔物だ」


 魔物というワードに俺はティミーの方を見ると、思った通り怯えた様子で顔を伏せていた。

 二年とは言えまだ恐怖あるか……あまりこれはよろしくない。


「十二歳の子供たちに魔物と戦えっていうのはちょっと危ないんじゃないですか?」

「それなら心配無用だ。加護下の学院で行うから君たちの身体に傷がともなう事は無い」

「加護?」


 聞き返すと校長はうむと頷き説明を始める。


「この学院では魔術や剣術と言ったものを扱う。もし不慮の事故が起こった場合、最悪の事態になりかねない。そして未然にそれを防ぐため、この学院には学院全体を加護で覆うための術式があるのだ。加護に覆われたここで傷つくことは無いのだよ」


 そんな便利なシステムがあったのか。入寮会では聞かなかったな。まぁ、基本的には簡単な事しか知らされてなかったからな。いやでもこれ重要だろ……。まぁいいや。


「さて、早速だが試験会場になる地下へ……」

「あ、いや待ってください」


 加護があるとは言えやっぱりティミーが可哀そうだ。肉体的に守られても精神的に守られるわけではないだろう。


「どうした? 何が不服と言うのだ」

「いやえっと……」


 軽く睨み付けられ自然と身体も声も委縮してしまう。でも考えないとこの場だけでも乗り切る方法を。


 ティミーは昔魔物に殺されかけて若干トラウマになっている事を言うべきか、でももしそんな事を言えば学院に居られなくリスクが生じる。魔物を使った試験はこれだけに限ったことではないだろうから試験を受けられない物は不要となるかもしれないから。でももしこの場をやり過ごしたからと言ってティミーのトラウマが解消されるわけでもなくこれから先に待ち受ける試験を受けることができなければ……。


「だ、大丈夫だよアキ……」


 思考を遮ったのはティミーの声だった。表情を伺うとまだ怯えている色はあるが、目にはどこか魂のようなものが宿っている感じがする。

 ……ここはティミーを信じてみるか


「すみません、何も無いです」

「わかった、全員ついて来い」


 素直に引き下がると校長は険しい表情をやわらげ俺達を扉の外へとうながした。


♢ ♢ ♢


 地下に連れてこられると、鉄で作られた重々しい扉が出迎えてくれた。


「この先に剣や杖などの武器がある。それらのうちどれかを選んでその先にある階段を登れ。全員がそろったところで試験開始だ。それでは私は離れるからな」


 そう言うと校長はどこかへ行ってしまった。


「行こう」


 俺が先だってドアを開けると、他の皆も後に続く。

 少し廊下を歩くと、間もなくして武器がいろいろと置いてある部屋に着いた。種類は豊富で、剣や杖は勿論の事、ハンマー、斧、槍、レイピアなど他にも様々な武器が置いてあった。


「すっごい!」


 嬉々とした様子で部屋の中を駆けまわるのはキアラだ。まぁ俺もそうしたい気持ちは分かる。


「ねぇアキ、何にしたらいいかな……」

「まぁそうだな、お前なら杖が無難だろ。けっこう魔術が使いやすくなるぞ」

「わ、わかった」


 不安の色を見せていたティミーだが、今ではそれも薄くなってきている。なんとかいけそうだ。くっ、父さんの知らない間に本当に成長したんだなぁ。

 とか呑気に父親の気分に浸ってるわけだけどさて俺はどうしよう。基本魔術しか覚えてこなかったし、杖がいいのかな。まぁどちらにせよ普通の剣とか筋力的に扱えないから杖じゃないにしても短剣か……。


「ねぇ、アキはどうするのっ?」


 部屋を駆けずり回っていたキアラだが、もう武器は決まったらしく俺の前で立ち止まった。そんな彼女が手に携えているのはなんと身の丈以上もある槍だった。


「それ使うのか!?」

「うん、これはちょっと大きいんだけど、一番扱い慣れてるからさっ」

「よく使えるな……」

 

 キアラという少女、計り知れない……。

 ふとアリシアは何にするのだろうと気になったので見てみると、杖を持ってティミーと話していた。まぁ妥当な線だな。


「アキ、俺はレイピアを使うぞ! 僕の剣さばきに酔うがいい!」


 面倒くさいから無視だ無視。

 えっと、やっぱゴーレムで戦った時に使った事あるし、なんかハイリと一緒だと嬉しいから短剣にしようかなぁ。


「お、おい無視するな! 待て、そっちは短剣があるところで俺はこっちだぞ!」

「はいはい凄い凄い」

「フッフ……だろう?」


 結局反応しちゃったよ……。

 てか適当にあしらったつもりなのに真に受けてるよこの子。俺の剣さばきに酔うがいいとかいっちゃうし、もうこいつの将来を考えたら頭痛がしてきた。

 駄目だ駄目だ、アルドの事を考えてもどうしようも無い、とにかく武器だよな武器。もう短剣でいいや。いざとなった時の投げナイフにもできるし。

 

 武器も決まったので周りを見てみると、全員準備完了のようなのでひと声かける事にする。


「じゃ、皆決まったようだから行こうか」

「よーっし! やる気でてきたぁ!」


 真っ先に反応したのはキアラだ。

 とても嬉しそうに燃えてらっしゃる。

 それに続き他の面々も軽く意気込むと、目の前の階段をひたと見据えた。

  

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