第二十三話 奮戦
ダウジェスはおもむろに腰のレイピア抜くと、リュートに変容させる。
白く綺麗な指はそれを一弾きすると、美しい旋律が耳朶を打った。
同時に今まで感じていた鈍痛がみるみる引いていく。
「あ、あれ? 痛みが引いたのか!?」
先に声を上げたのはハイリだ。そういえばあいつけっこうなケガしてたもんな。て事はこれは回復の魔術みたいなものか。
「癒しの旋律です。聴くものの傷を癒します」
ダウジェスが教えてくれると、ハイリは二ッと笑みを浮かべた。
「そうかなるほど……だったら親父、俺も混ぜてもらうぜ!」
ハイリが急に俺達の横へと並んでくる。
「なっ……おめ、何言ってやがる! 父ちゃんは娘に傷ついて欲しくねぇって言ったじゃあねぇか!」
「確かに言ったな。けど親父ぃ? いつ、俺がその言葉を承諾したよ?」
ハイリがいやらしい笑みを浮かべる。残念な事にというか、その姿はどこかベルナルドさんを連想させるので親戚のおじさんとしては複雑な気分ですねハイ……。いやまぁ言ってもまだまだ少女だし、おぼこい感じはあるから可愛い事は可愛いんだけどね?
「そういう問題じゃあ……」
「まぁ確かにさっきの状態じゃ俺もまともに戦えなかったからな、大人しく言う事聞いてやっても良かったけど、傷が癒えたんなら話は別だ! 俺にとってもティミーは大切な人なんだからな、親父の言う事を聞いてやる道理はねぇ!」
ハイリはきっぱりと言い張る。いや道理が無い事は無いでしょうよ……。でもこれはあれだな、何言っても聞かないやつだろう。
「ったく、仕方ねぇ。戦力は多いに越したこたぁねぇか。だがハイリ、少しでも危なかったら即座に退くんだ、いいな?」
「
手を振り面倒くさそうに返事するハイリだが本当に分かってるんだろうか。
まぁでも、ハイリがいてくれるのは心強い。依然として課題は多いけど。
「とりあえず、どう攻めましょうねこれ」
「それだよなぁ……」
ベルナルドさんが頭を掻く。
目前には相変わらずうようよと行く手を阻む植物の根や蔓。何にせよあれをどうにかしない事には始まらないとは思うけど。
「ティミーさんを助ける方法は病魔を除去する以外にありません」
悩んでいると、ダウジェスがおもむろ口を開く。
「しかし今ティミーさんはその病魔と言わば一体化している状態。病魔を除去するには宿主の除去も必要です」
「でもそれはできない」
病魔を倒すためにティミーまで手にかけたら本末転倒になる。
「はい、ですのでもしティミーさんを助けるとすれば、漏れ出している病魔をどうにか一掃するか、今一度ティミーさんの中へ封じる必要があります。そうすれば百薬の水は作用しますから、宿主の身体が朽ちることなく病魔を取り除くことができるでしょう。もっとも、その方法が無いからこそ絶望的なわけですが」
なんでも知ってそうなダウジェスにも知らない事はある、という事だろう。まぁさもなければティミーを殺すなんて提案に行きつくはず無いか。ここからは俺達でどうにかするしかない。
「なんにせよ、行動しねー事には始まらないって事だよな」
「まぁそう言う事か」
ハイリが言うので肯定する。
だが今度は感情に任せた動きでは駄目だ。その事はしっかりと頭を入れておく。
「とりあえずあのティミーから漏れ出てる黒いでけえオーラが病魔って奴なんだろ? だったらそいつだけ叩けないか試してみようぜ」
ハイリの提案に頷く。
方法が無い以上思いついた事はなんでも試してみるべきだ。
「どうやら決まりみてぇだなぁ。レイズ」
ベルナルドさんが詠唱すると、身体が幾分か軽くなる。土系統の身体強化魔術か。これはありがたい。
「それじゃ、行くぜ!」
ハイリが挑戦的な笑みを浮かべ号令。俺もベルナルドさんもティミーの元へと走る。
接近すると案の定、進路を阻むべく根が襲来。
だが身体強化の魔術も相まって難なく避ける事が出来た。先ほどより阻む植物の量も増えているようだったが、これならいけそうだ。
「いち抜けた!」
掛け声が聞こえるので見てみれば、ハイリが空高く舞っていた。流石戦い慣れてるだけあって魔術の凌ぎ方が巧いようだ。
「ティミーを返しやがれ! プレステール!」
ハイリが上空からの詠唱。
鋭い風の柱が一直線にティミーに取りつく病魔の影を貫く。
しかし、効かなかったらしく、その形はまったく崩れていなかった。
それでもハイリは地面に降り立つと、ティミーの頭上にゆらめく病魔に突っ込み一閃をお見舞いする。だが病魔の形は一切崩れない。
苦々しい表情をするハイリだが、それを隙と見たか、鋭い根が強襲。だがそれくらいでやられる程ハイリはやわじゃない。難なく避けると、まったく綺麗じゃないこの植物園から一時逃れる。
「ならこいつはどうだぁ! フェルスクラーク!」
次いで飛び出すのはベルナルドさん。剣が無ければ拳でという事か。引き絞られた拳は硬そうな岩石へと姿を変えていた。
岩の拳は病魔を捉えるが、不発。反撃が来る前にベルナルドさんもティミーと距離を置いた。
ベルナルドさんでも駄目か。
「フェルドゾイレ」
目の前に迫りくる蔓を紺色の炎で燃やし尽くすと、ティミーに憑りつく病魔を射程に捉える。
強力な攻撃魔術ではティミーを巻き添えにしてしまうから、打てるのはせいぜいクーゲルくらいか。
「クーゲル!」
病魔めがけて紺色の魔弾を放つと、影の形が若干揺らぐがすぐに元通りになる。
やっぱだめか。
苦虫を噛み潰していると、即座に俺を狩らんと目を光らせた植物が襲い来る。
「やっべ、フェルドディステーザ」
炎を広範囲に飛ばし、迫りくる植物を全て炭にする。
態勢を立て直そうと様子を窺うが、休む間もなく根が俺を擦り潰さんと迫って来た。なんだ? ちょっと俺多くないか!?
脊髄のおもむくままに俺は飛翔。間一髪追撃を避け、なんとか植物園から距離を置く事が出来た。強化魔術かかってなかったら本当にやばかったぞ今のは。
「チッ、全然効きやしねえ!」
ハイリが俺の隣へ降り立ち悪態をつく。
「俺もだ。まったく効いてる様子が無い」
「いや、そいつぁどうかわからねぇぞ」
ふと、ベルナルドさんが合流してきて俺に言う。
「どういう事ですか?」
「ああ。確かにハイリや俺の攻撃は効いてなかったみてぇだが、アキの攻撃は効いてそうだ」
「え、俺のがですか?」
確かに病魔の形は崩れはしたけど、すぐ修復されたしな。ただ、よくよく思い返してみればハイリやベルナルドさんは形すら崩れてなかったのか。
「なるほど。俺らは攻撃を当ててもなんかこう、透過しただけって感じだったけどアキは違ったもんな。アキにだけマジで反撃してきた感じもあったし。もしかしたら紺色の炎なら効くって事なんじゃないか?」
確かにハイリ言う通り、俺に対する攻撃だけ少し激化してた気もするな。もし俺の紺色の炎が病魔に有効なら使わない手は無い。
「なるほど、そういやいつの間に紺色なんて……つくづく驚かせて来る奴じゃあねぇか。銀髪のあんさんもそうだが、アキもいってぇ何者なんだ?」
「ただの子供だと思いますけど……」
異世界転移して中身が成人迎えてる事以外は。
「まぁいいか。それでダメージを与えられるってんなら、賭けてみるのもありかもしれねぇな。おし、俺が後ろから支援するから、ハイリはアキの近くで支援してやれ。アキは真っすぐ突っ込んで病魔を叩けるだけ叩け!」
「了解です、ベルナルドさん」
「っしゃあ、燃えて来たぜ!」
ベルナルドさんが再び強化魔術俺達に付与。身体が軽くなったところで俺とハイリは病魔の方へと疾走する。
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