第十八話 覚醒
岩場の近くまで戻ると激闘の音がしていた。予想以上に敵は強かったらしい。
すぐさま駆けつけると、ハイリが三体のゴーレムと対峙していた。ハイリはその三体を相手に何やら魔術を放つと全員粉々に砕け散る。
どうやらやったらしい。元々八体くらいはいたというのに流石ハイリというべきだ。ただ少し違和感を感じたのは気のせいか?
「ハイリ!」
「来るな!」
ハイリの元に行こうと名前を呼ぶと、思い切り拒まれてしまった。
ふと砕け散ったゴーレムの跡を見ると、その岩の破片は宙に浮く。
刹那、急速に一か所にどんどん集まり、先程よりもかなり大きいゴーレムへと姿を変えた。そしてこれを見て違和感の正体が分かった、先ほどの三体のゴーレム、最初のよりもでかかったんだ。恐らく今のように復活してそうなったのだろう。
「アキ、水は!」
「ここだ!」
訊かれたのでポケットから小瓶を取り出し、それを上に掲げてちゃんと持っていることを知らせる。
「分かった、なら早く行け! ここはまかせろ!」
ハイリならいける。今度は素直に言うことに従うことにし、ゴーレムからは距離を保ちながら元来たであろう道まで走っていく。
しかしふと鳴り響いた地響きの音にその足を止められる。
先ほどの所を振り返ってみると、ハイリが岩にたたきつけられるところだった。かなりボロボロになっていることから大きな威力の攻撃を当てられたと思われる。
ゴーレムはハイリの元へ近づくと、大きな腕を振り上げる。
避けようとしたのか、ゆらりと立ち上がるハイリだったが、どこか痛んだのか片膝が地面についてしまう。
「いやこれはまずいだろ……!」
警鐘を鳴らす脊髄に従いゴーレムの背後まで走ると、短剣を構え一発クーゲルを発射。
効果は無かったようだがゴーレムの気がこちらにいったようだ。大きな体をこちらへと向けようとしている。
「ア、アキ何してんだ!」
ゴーレムの向こうからハイリが叫ぶ声が聞こえる。
「ハイリこそ、そんな身体で何がまかせろだ! 友達がこんなになってほっとけるか!」
「こんなもんただのかすり傷だから大丈夫だ!」
「いいからちょっと黙れ!」
ついつい最後はえらそうに命令してしまった。でも確かにハイリの言う通り、何をしてるんだかな俺は。
だが万が一ティミーが助かってもその時にハイリがいなくなっていたなんて事になれば、それはもう本末転倒と言ってもいい。
「……とは言え、ハイリも言ってた通り、やっぱり炎じゃ相性が悪そうだな」
クーゲルもまったく効いて無さそうだし。勿論今の俺には
状況を見極めていたところだったが、不意にゴーレムの大きな拳が俺の上に振りかざされた。
「やべ」
後方へステップしてそれを避けると、今度は正面から拳が飛んできたのでなんとか身体を横へずらし回避。間合いを取る。
避けれてよかった……火事場の馬鹿力と言うやつか、あるいは昔ゲームのウィーアーリゾートスポーツのチャンバラをやり込んでいたからおかげで反射神経が鍛えられていたのかもしれないな!
いや何を馬鹿なこと考えてんだよ俺は。ただ生憎、冗談の一つや二つ思い浮かべとか無いと動悸が収まってくれそうにないんだよな。
「フェルドゾイレ!」
魔術を使い反撃を試みる。火柱はゴーレムの足元から上手い具合に立ってくれたがやはり効果は無しのようだ。
そうこうしてる間にもゴーレムは次の攻撃を仕掛けんとこちらの方を見る。
「ん?」
待てよこっちを見てる? そういやこいつの目はどうなってるんだろう。そこならもしかしたらダメージを与えられるかもしれない。しかも律儀にその目は光ってるし良い的だ。どうやら一つ目らしいし。
「クーゲル!」
目に向けて放つとゴーレムの顔付近に煙が立ち込め、より一層目の位置が分かりやすく光り、そこへ向けて持っていた短剣を投げると見事に命中させることができた。よし、かつて高二病こじらせてあまり流行らないダーツでもやってみようと猛練習した黒歴史のかいがあったぞ!
「#%^##^%*#%%^!!!」
ゴーレムの咆哮が耳をつんざく。
どうやら効果抜群だったようだ。
だが安心した一瞬の隙だった。ゴーレムは甲高い雄叫びをあげながら、事もあろうかハイリの元へ猛追、その厳かな拳を振り上げる。
「まずい!」
ゴーレムと言えば頭が悪いもんだよな……だとしても視力を失っただけで俺の場所も特定できない程とは!
激しい地鳴りと共に、砂煙の中からハイリの身体が宙に放り出される。なんとかその落下先に滑り込みなんとか自分が下敷きになることで落下時の衝撃をやわらげる。
「大丈夫かハイリ!?」
「直接当たりはしなかったから問題無いぜ」
そう言うとハイリは力無く笑う。
声を聞けてホッとしたのと同時に、そのボロボロになった彼女の姿を間近で見ると、何か黒いものが腹の底から湧き上がってくるのを感じる。これは怒りか?
「……許さねぇ」
目の前が真っ赤に染まる。
脳裏を駆け巡るのは破壊衝動。絶対に殺さないといけないという強迫観念。
視界の先ではなりふり構わずゴーレムが一人で暴れている。
気付けば俺はそちらへ向かって駆けだしていた。こみ上げてくる黒い感情に身を委ねていると、内にある魔力が膨れ上がっていくのを感じる。
「おいアキ!?」
急に野性的に動いたからか、ハイリが戸惑ったように俺を呼ぶ。でも構わない。
間合いを詰めつつ、ゴーレムが振り回す拳を難なく避けると、今覚えている魔術でも一番強力と思われるものを出す。
「フェルモストロヴィロス!」
ゴーレムを覆い尽くすのは
片付いたのを確認し、少し茫然とした様子のハイリのところまで駆け寄る。
「大丈夫かハイリ!」
ハイリの元へ戻るとひどく驚いた様子でこちらを眺めてきた。
「おま、紺色!? 青ですらすごいってのに……」
「あーなんかなってたな」
「なんかって……いやほんとすごいぜアキは」
ハイリは呆れかえったような、ほっとしたような、そんな風に褒めてきた。
紺色、正直俺も驚いているところだ。なんとなく力が満ちるなーとか思ってたら放った炎が紺色になってるとか。一瞬何か間違えて使ったかと思って焦ったよほんと。
「ありがとう。でもまぁ俺も未だに信じられないけど」
本当に俺の炎は紺になったのか疑問だったのでフェルドゾイレを何もない場所に発動してみた。すると今までの青とは違ってより濃く、紺色に燃える火柱が出現した。
「すごい……」
ハイリが感嘆したようにつぶやき、俺もその炎を茫然と見つめる。
本当に紺色だよ……。
「紅蓮の炎を燃やしつくす紺色の焔、聞いたことはあるが人生で初めて見たぜ」
「そんな珍しいもんなの?」
「当たり前だろ? そんなもん騎士団でもお目にかかれないぞ」
へぇ……。もしかしてこれがダウジェスの言ってた大きな力なのか? 岩すら炭にするくらいだし確かに強力なことには間違いないが、俺は本当にこの力を使い続けてもいいのだろうか? どうにも引っかかる。なんというか、あまり気分の良いものでは無かったというか。
まぁでもできてしまったもんは仕方が無いか。そろそろ話は切り上げてティミーの元へ行かないと。
「ハイリ、歩けるか?」
「そんなもん当たり前だっての。かすり傷だって言っただろ?」
ハイリはそう言いながら汚れを払い立ち上がる。
本当に大丈夫なのか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます