ディーベス村 冬編

第十二話 父娘の再会

「くらえクーゲル!」

 

 ティミーに向けて投げた雪玉は、見事頭部ヒットすると、負けじとティミーも投げ返してくる。


「えい、こっちも! クーゲル!」


 そしてお互い顔面雪だらけになると、二人で笑いあう。

 ちなみにクーゲルとか言ってるもののもちろん魔力など使っていない。一応雰囲気として言ってるだけだ。


「しかしすげぇ雪だな」

「そう?」


 ティミーにとっては普通なのだろう、さも当然という様子で返された。

 ここは違うみたいだけど俺の住んでたところじゃ全然降らなかったからな。積もったとしてもうっすらと白くなるレベルだ。

 まぁ結論、超楽しい!


「あれ? アキのほっぺちょっとケガしてるよ」

「え、嘘」


 触れてみるが手につくほど血はでていないようだ。たぶん雪合戦をする前に森で走ってたからその時枝かなんかにでもひっかけたのだろう。どちらにせよあまり気にすることもなさそうだ。


「手当てするね」

「いやいいよ」

「ダメ」


 少しふくれっ面になるティミー。これ以上言うと機嫌をそこねそうだな……まぁいいや、してもらう事にするか。

 ティミーがこちらに近づき、ほっぺの辺りに手をかざしてくる。

 なんとなく気恥ずかしい。


 でもあれだなよな、治癒魔術って便利な魔術だと思うよ。基本的に地属性草系統の魔術らしい。でもティミーが出したクーゲルは水だった。


 たぶんこれが世にも珍しい複属性持ちって奴なんだろう。


 割合的にみれば複属性持ちというのは炎属性の紺を扱える人数と同じらしい。つまり人口の数%以下しか持てないないという事だ。

 薄々感じてはいたけど、やっぱりティミーはかなりの才能を持ち主と見て間違いないんだろうな。


「できたよ」

「ありがとう」


 お礼を述べると、ティミーは少し嬉しそうに笑う。

 なんと可愛らしいのでしょう! ……俺またロリコンをこじらせてる気がするな。


「じゃあそろそろ……」


 家に帰ろうかと提案しようとした瞬間、大きな音と共にいきなり猛吹雪が襲い掛かってきた。反射的にティミーをかばうが、すぐに猛吹雪はやみ、代わりに目の前に女の子がいた。


「昔と変わらず雪まみれだなこの村」


 この声、立ち姿、さらには強い風圧。間違いない、ハイリだ。


「ハイリ!」


 ティミーも気づいたようで、嬉しそうな声を上げる。


「久しぶりだな二人とも!」

「あのさ、もうちょっとマシな登場できないの?」


 再会して早々毒をぶつけさせてもらった。だって雪って吹雪になるとけっこう痛いんだもの……。


「うっせぇな! 跳びながら行ったほうが早いだろ!?」

「せめて俺らの前には普通に歩いて来いよ……」

「わ、悪かったな!」


 ハイリの周りの雪は無くなっている。

 しかしまぁその場所、一メートルほどは積もっていたというのによく全部飛ばしたな。こいつがいれば雪かきも一瞬で終わりそうだ。あとでうちの屋根をしてもらおう。

 ともあれハイリが来たのは嬉しい事だ。挨拶はちゃんとしないと。


「まぁ、久しぶり」

「なんだよ、嬉しいなら初めからそう言えよ!」


 挨拶をしたのがそんなに嬉しかったのか、ガシリと首を抱きかかえられる。美少女と密着できることは嬉しいけどごめん、苦しい……。


「死ぬ……」


 苦し紛れにそう発すると気づいてくれたようで、慌ててハイリは解き放ってくれた。


「わ、悪い。大丈夫か!?」

「な、なんとか」


 もうすぐ死ぬところだったけどね? 一瞬大きな川が見えたし。


「ねぇハイリ」


 俺がげっそりしていると、ティミーはおもむろに口を開く。


「ん? どうしたティミー」

「寒くないの?」


 おお、そりゃもっともな意見だ。俺らはちゃんと地味ながら防寒はしっかりしているのに対し、ハイリの恰好を見ればふとももをあらわにさせたショートパンツ、上にはコートのようなものを羽織っているものの、その下はノースリーブのような気がする。動きやすそうではあるが、見てるこっちまで寒くなりそうだ。


「ん? 全然」

「おお~、すごい!」

 

 ティミーは素直に感嘆する。

 まぁ実際俺もすごいとは思う。流石野生児といったところか。


「今何してたんだ?」

「雪合戦をしてたけど、そろそろ……」

「すげえ! 俺もやりたい!」


 帰ろうと思ってたところだ。と言おうとしたが、ハイリは全部聞かずに言葉を遮ってきた。

 まぁ人が増えればまたさらに楽しいだろう。正直遊びまくって疲れてるけどもう少し遊んでいこう。


「ほらよ」


 これが答えだと言う事でハイリに向かって雪玉を投げつけてやった。



♢ ♢ ♢



 雪合戦を終え、家に戻る。ハイリの姿を見ると、ヘレナさんは嬉しそうに微笑む。


「またハイリちゃんが戻ってきてくれてうれしいわ」

「おう、俺もヘレナさんにあえて嬉しいぜ!」


 そんな二人のやり取りを聞きながら、ふと疑問に思った事があったのでたずねてみた。


「そういやハイリ。ベルナルドさんとはもう会ったのか?」


 するとハイリは若干目を泳がした後、珍しくはっきりしない様子で吐き出すように声を発した。


「まぁ、その……まだ、なんだなこれが……」

「あら、そうだったの?」


 ヘレナさんも続けて問いかけた。


「まぁなんというか……ちょっとな……」

「あらまぁ」


 クスリとヘレナさんが笑う。そうか、年頃の女の子だもんねぇ。

 ヘレナさんと共に暖かい目で見ていると、ハイリは何かを察したか、焦ったように口を開く。


「べ、別にこう、そういうんじゃなくてー、だな。その忘れられてたらどうしようとか……」

 

 だんだんと言葉に勢いがなくなっていくハイリ。その様子を見たヘレナさんは思い出したように笑う。

 

「それなら大丈夫よ」

「で、でもやっぱり十年くらい経ってるしよ……」


 ヘレナさんが笑いながらそう言うも、ハイリはなおも言い募る。そんな中ティミーといえばぽけーっとした様子で俺らの会話を聞いているだけだ。

 しかし意外とネガティブなとこもあるんだなハイリ。あのベルナルドさんが自分の娘を忘れるなんて事はまずないだろうに。

 

「安心して、前も言った通り、会った時に話す事と言えばハイリちゃんの事がほとんどよ? 今俺の娘はあーだろうとかこうだろうとかね」

「や、やっぱ本当か!?」

「ええ」


 とても嬉しそうに笑うハイリ。ベルナルドさんめ……なんて良い娘を持ちやがる。俺もお父さんとしてティミーをこんなに可愛い子に育てたいと思うよ。うん。

 とまぁ冗談はさておき、こんなにも好かれてるのになんで別居なんかしてるんだろう?

 疑問だけどまぁあまり他人の家庭事情に首を突っ込むべきじゃないよな。


「てことはあの事もちゃんと覚えてるよな」


 ハイリが呟くので気になるが、尋ねている暇はなかった。


「じゃあ早速会ってくるぜ! アキ、ティミー行こう!」


 声を高らかに何故かハイリは俺とティミーの腕を引っ張る。


「ちょい待て、なんで俺まで……」

「いいから来い!」

「いってらっしゃい」


 ヘレナさんが笑顔で手を振る。


 ティミーは抵抗せずぽけーっとしているからいいのかもしれないけど俺はごめんだ! 

 などと言ってもどうせ無駄なのは目に見えているので、潔くついていくことにした。にしてもあの事ってなんなんだろう。



♢ ♢ ♢



 家まで来ると、ベルナルドさんは剣を鍛えてる最中だった。金属の音のせいかこちらにはまだ気づいていないみたいだ。


「お、親父だ……」


 若干ハイリも緊張しているのかどことなくいつもの元気さが無い。

 仕方が無い、感動の再会のためにひと肌脱いやろう。


「とりあえず呼んでこようか?」

 

 提案すると、無言で頷くハイリ。


「了解」


 ベルナルドさんの元へと行くとする。


「ベルナルドさん」

「お、アキじゃぁねぇか。どうした?」


 ベルナルドさんはこの寒い中でも少しだけ汗をかいている。夏場とかどうなってたのかな……。


「ちょっと会わせたい人がいましてね」

「会わせたい人?」


 ベルナルドさんは怪訝な様子を見せるも、無視し、向こう側にいるハイリが見えるように横へ身体をどけるとする。


「ティミーと……それとあれは……まさか」

「そのまさかですよ」


 ベルナルドさんはハイリの元へと歩いていく


「ハ、ハイリ! これは夢か!?」


 とても嬉しそうに言うベルナルドさんに対して、ハイリといえば顔を俯かせていてあまり表情を伺えない。

 そしてベルナルドさんが走っていくのを確認し俺もそのあとを追いかける。


「親父……」


 小さいながらもきっちりとハイリの声は聞こえた。いやぁ、感動の再会っていいなぁ。

 しかし次の瞬間、彼女は顔を上げるとニッと笑ってこう言うのだ。


「覚悟!!」


 ……え?

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