第八話 娘
音の主はやはり数名のくさりかたびら野郎共だった。
のんきに建物の陰から現れるたそいつらは周りの惨状に気づくと、怯えた様子で叫ぶ。
「ボ、ボス!」
「それにおめぇらも……!」
微かな笑みを見せつけながらうろたえる男たちの元へと歩み寄る。
「少し眠った貰っただけだよ。ちゃんと防具を装備してたから死んでは無いと思う」
「眠ってもらったって……まさかこのガキが……」
「何言ってんだそんなわけねぇだろう? なぁぼくちゃんよぉ?」
おちょくるようにニヤニヤとがたいの良さそうなくさりかたびら野郎が目線を合わせてくる。
お前らさ……俺じゃないと仮定するんならもっと周りを注意しろよ。この状況を作ったのは別の誰かって事になるんだぞ? まぁこれやったの俺だからそんなことはないんだけど。仕方が無い、教えてあげよう。
「ううん、僕がやったよっ」
子どもっぽい口調と満面の笑みでそう答えてやった。すると、そのがたいの良いくさりかたびらはにやけ面からイラついた表情で立ち上がると、拳を振り上げた。
「調子のんなよガキがァ!」
まぁそうなりますよねー……。仕方が無いので戦おう。
身構えた刹那、あたりに突風が吹き荒れ砂埃が立ち込める。その風圧に踏ん張り切れず、身体が後方へと少し飛ばされる。
「十年ぶりに帰ってきたと思ったらこれはどういう状況なのさ……。 馬鹿親父はいったい何してんだ」
砂煙の中から現れたのは、両手に短剣を携え、ツーサイドに髪を結わえた十四、五歳と見受けられる女の子が立っていた。女の子といっても今の俺からしたらお姉さんになるわけだが。てかこの人飛んできた?
「大丈夫か?」
可愛らしい容姿とは少し似合わず、男っぽい口調だ。
「けっこうびっくりした」
女の子の振り向きざま、しなやかに流す黒髪に見惚れつつも正直に答えると、その子は慌てふためいてこちらへ駆け寄った。
「わ、悪い! けがしてないか!?」
「え、あぁ、びっくりしただけだから大丈夫……です」
おっと危ない、俺は今十歳の少年なんだった。すっかり敬語をつけるの忘れてた。
「そ、そうか、それはよかった」
そう言い女の子はホッとしたように胸を撫で下ろす。
「ところであなたは一体?」
ただ者ではなさそうだと、周りで伸びているくさりかたびら見ながら思う。いやそもそも飛んでくる人がただ者なわけないか……。
「ああすまん、俺はハイリ、たぶん知ってるやつだろうけどあのベルナルドの娘だ」
「え!?」
ベルナルドさん既婚者だったの!? 初耳なんだが。しかも俺っ娘の娘がいるとか。そういえばとうのベルナルドさんといえばどこにいるんだ? 俺が来たときからずっと見当たらないよな。
「そういえばお前はどこからか引っ越してきたやつか?」
俺の驚きとは裏腹に、ハイリは平然とした様子で質問を投げかけてきた。
「え、はい、まぁそんな感じのような違うような」
一応異世界から引っ越したと考えれば間違いではないのでしどろもどろな返事になってしまう。
「へぇ、こんなところに珍しい家庭もあるんだな」
感心したように頷くハイリ。どうやら引っ越しという事になったようだ。
「もしかしてハイリちゃん!?」
声のした方を向くと、ヘレナさんが驚いた様子でこちらを向いている。少し目は赤いものの、すっかり落ち着きを取り戻したように見受けられる。
「あ、もしかしてヘレナさんか! 久しぶり!」
ハイリは軽い調子で返事すると、ヘレナさんの元へと飛躍するので歩いてその後について行く。すごい跳躍力だなこの子。
「見ないうちに大きくなって……お母さんは元気?」
ヘレナさんは懐かしそうに言うと、ハイリにそうたずねる。
「相変わらず元気だぜ」
そう言いグッ親指をたて手を前にやるが、徐々にその手を降ろしていった。
「……懐古したいのはやまやまなんだけどさ、この状況、なんかあったんだよな」
真剣味がこもる声に、ヘレナさんはこれまであったことを説明する。聞くにいきなり奴らは村に現れて村人を集めて金品を要求していたらしい。やっぱり強盗団だったのか。
「ティミーは無事だったのか!?」
「ええ。今は気を失ってるけど大丈夫そう」
「よかった……」
ハイリ安堵したように言うと、急にこちらを向いてきた。
「ところでアキと言ったな」
突然こちらに眼差しを向けられたので少し気負いしていると、ハイリが満開の笑みを浮かべた。
「お前すごかったんだな!」
「え? いや、そんなことは……」
罪悪感を感じていたのでつい声もしりすぼみになってしまう。
「どうした? なんだか浮かない顔だな」
「いえ、なんでもありません」
「ふーん……まぁなんにせよ俺の故郷なわけだし、救ってくれてありがとな!」
「そう、ですね」
一応肯定の言葉だけは言っておいた。
「ふーんこいつがボスか……」
くるりとこちらから背を向けると、ハイリは下に突っ伏しているボスの男をいじくりだし鷹と思うと、急に驚いたように声を発した。
「ってこいつ!」
「どうしたんですか?」
訊くと、ハイリは目をぱちくりさせながら答えた。
「A級犯罪者じゃねえか!」
その言葉を聞いてか、周りが急にどよめきだす。
「なんですかそれ?」
ある程度察しはつくものの、一応たずねてみる。
「そうか、まだ子供だとわからないか……まぁあれだ、すっごく悪い奴だ」
説明してくれると、そのままハイリは腰にあるポーチから何やらてのひら程の結晶を取り出した。
「隊長! はやく出ろ隊長!」
その結晶に向かってハイリが言葉を発すると、そこから誰か男の声が聞こえてきた。
「あ、お前何してたんだ! 昨日いきなり消えて!」
結晶から聞こえる声は開口一番げきをとばす。
「悪かったって……そんなことよりもっと大事なことがあるんだ!」
「お前、そんなことってな……第一お前は……」
「いいから聞け!」
「はぁ、どうしたんだ?」
ハイリが必死に訴えるので、結晶の中の男も黙り次の言葉をうながす。
「遊びに行った先でA級犯罪者がいた! 名前は確かイビルだ!」
その言葉を聞くと、ハッと息をのむ音が聞こえた。
「イビルだと!? 悪いが跡をつけてくれ! 場所は随時知らせてくれると……」
「いや、その必要はないぞ。すでにこいつは戦闘不能だ」
「戦闘不能? まさかお前一人で立ち向かったのか!?」
すっかり驚いた様子でたずねる結晶の声。
「いや、たまたまのされてたところに出くわしたって感じだな」
「なんだって! 誰がやったんだいそんなこと!?」
「子供だ。とりあえずはやく来い! 他にも数十人仲間がいるから俺だけじゃ処理しきれないんだ。場所はディーベス村! わかった? すぐにだぞ!」
「おま、そんなところに一日できたのか!? てか子供ってどういうことだ!? おい!」
まだ声のしていた結晶をポーチにしまうと、ハイリはなははと苦笑いする。
「口うるさい隊長ですまん。とりあえず明日には騎士団が到着すると思うから、それまでこいつらはどこかに縛り付けておこう。動ける人は手伝ってくれるとありがたい」
特に断る理由もないので、ハイリに従う事にする。何人かいた中年くらいの男性も倒れている奴らを運びにかかる。
「ハイリちゃん、騎士団ってもしかしてウィンクルムの?」
ボスの男を運びにかかろうとするハイリにヘレナさんがたずねる。
「ああそうだ。まだ俺は下位騎士なんだけどな」
ウィンクルム……騎士団? 魔術読本には無かった情報だ。
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