第六話 魔術お披露目会
「よし、今日は通常魔術をお披露目しよう」
「おぉ~」
ティミーが小さな手をパチパチ叩く。
昨晩魔術読本で軽く魔術を習い覚えたので披露するため、昨日の岩場に来ていた。
「よ、よぉし、ふふ……この川に球をだすぞー?」
「ほんと!?」
やれやれその反応、やっぱり子供だなぁ……まぁ俺も実はかなり興奮してるんだけどね?
今から出すのはクーゲルという魔術で、一番初歩の魔術らしい。術者の属性と同じ属性の魔力弾を発射するというものだ。
ティミーはやや興奮気味に目を光らせる。かという俺もギラギラ光ってる事だろう。
「よし、いくぞ」
まず集中だ、確か手に何かを、魔力を集める感じで――
次第に熱を帯び始める手、少し熱を感じた時に手をおもいきり前に突き出す。
「クーゲル!」
心地の良い発射音が俺の耳に届き、川から水しぶきが跳ね上がる。
「おお~!」
「っしゃあ!」
思わず叫び、ティミーとハイタッチをする。
しっかしとうとう出しちちゃったよ俺! だって魔術だよ魔術。ずっと夢見続けて一時期なんかは黒いローブとかで身体を覆って街に繰り出すほど思い焦がれてきた事なんだよ! ついに夢が、かなった!
「まだまだ、もう一つ出すぞ」
今度は調子にのって少し難しめのものを試してみることにした。クーゲルが難易度初心者だとすると今度は初級かな。
次にやるのはフェルドゾイレという魔術で、火柱を立たせるというものだ。
「よし、少し危ないかもしれないから俺より後ろに行ってくれ」
「う、うん」
ティミーが後ろに行ったのを確認すると、魔術読本に書いてあったことを思い出す。
フェルドゾイレ、指一本じゃ応用すぎるな……ここは基本動作でいこう。確か両手に先ほどみたく魔力を集めて素早く下から上へと振り上げるんだったな。
さて魔力全集中、そして溜まったと感じたら……両手を振り上げる!
「フェルドゾイレ!」
「きゃっ」
炎の勢いに驚いたのか、可愛らしくしりもちをつくティミーを横目に煌々と燃え上がる青い火柱を見る。
成功きたこれ……やべえ何も言えねぇ!
「す、すごいよ……びっくりしちゃった」
「まぁ、こんなもんだな」
ティミーの反応がついうれしく、大きく胸を張ってみる。
「アキってやっぱりすごいね」
「いやそれほどでも……」
あるかもね?
発動時間が終わり、青い炎が消え去っていくのを見つつ魔術読本にもあった炎の階級を思い出す。どうやら俺の炎のクラスは青らしい。紺じゃなかったのは少し残念だが、青でもけっこう難しいっぽいからな。高望みせず謙虚に行こう。
「あ、アキ。右足見せて」
突然ティミーが言うので、右足を突き出す。
「やっぱりちょっと火傷してる」
見てみると確かに赤く皮膚が炎症してるところがあった。気づかなかったがそういえばヒリヒリする。
魔術使うときにちょっと右足を前に出し過ぎていたかもしれない。基本魔術を使うときはどちらの足も前に出しすぎてはならないと小さく書いてあった気もするけどなるほど、種類によっては魔術で自分を傷つける可能性があるからなのか。
「ちょっと待ってね」
言うとティミーは俺の右足の前でかがみ、その火傷の場所に手をかざした。
するとなんと、傷がみるみるうちに治っていくのだ。
「え、もしかして治癒魔術?」
「うん。でもちょっとした傷しか治せないんだけど……」
「でもいいじゃないか。どこで覚えたんだよ?」
ティミーは少し考えるそぶりをみせた後、スッキリしない様子で答えた。
「うーん……なんとなくできてた、感じかな……」
ほう、そう来ましたか。というかそもそも魔術ってなんとなくでも使えるものなの? 少なくとも魔術読本にはそういう記述はなかったけどな……。と言ってもけっこう簡単にできちゃうのも事実だしそういう事もあるのかもしれない。
「しかしティミーでも魔術を使えるとはなぁ……」
だってけっこうおっちょこちょいなイメージあるし。
「む、どういう意味?」
ジト目でこちらを睨んでくるティミー。
「え? い、いや、別に深い意味はないよ?」
「ほんとに?」
「ほ、ほんとほんと。ハハ」
ティミーさん、ちょっと怖いですよ? 確かにおっちょこちょいとか思いましたけど反省してますからどうかお怒りなさらず……。
「そ、そうだ、ティミーも魔術使えるんだったらクーゲルくらい出せるんじゃないのか?」
とりあえず話をそらすためそう提案してみる。
「え?」
よし、食いついたぞ! このまま一気にけしかけよう。
「ほんとほんと、絶対ティミーならいけるって」
「や、やってみたい!」
「よしよし、まかせとけ」
ふう、なんとか一難去ったようだ。しかしどこの世界でも子供は魔術とか魔法みたいなのに憧れるもんなんだなぁ。
「どんな感じにしたらいいのかな」
「手にグッっとためてバッと放つ感じ」
「わ、わかった……いくよ」
少し冗談のつもりで言ったのだがどうやら真に受けてしまったようだ。まぁいいか。
「グッとためてバッ!」
すると、なんとティミーの手からは水の球が放たれた! その魔力弾は岩に当たると音を立てて弾け飛ぶ。岩や木の葉と共に……。
「できた、できたよアキ!」
えー……何、この子もしかしてかなり魔術の才能あるんじゃないの? 普通あの説明じゃできないよな。俺だって大まかにしか覚えてないけどさ、実際魔術読本にはもっと詳しくやり方とか載ってたんだよね……。
「むー、アキ?」
驚きのあまり言葉を発せないでいると、ティミーが少し不機嫌な様子でこちらの顔を覗き込む。やはりこういうのはちゃんと反応してあげないとな。俺も昔はよく魔術について語ってけどいつも白々しい顔をされ続けてついには『俺は孤高、一匹狼だ。誰とも戯れる気はねェ……』とか言うようになっちゃったもんね! もちろん今は無いけど!
「お、おお、すごい! やるじゃないか!」
まだ驚いていて少し言葉が詰まってしまったがそれでもティミーは満足げな様子を見せてくれた。
しばらくはティミーもご機嫌の様子だったが、ふと少しだけ残念そうな顔をする。
「……でも、火じゃないね」
「そうだな、まぁ火ってのもかっこいいかもしれないが水もまた水で十分かっこいいぞ」
やっぱり火っていうのは人気なんだな。俺も憧れていたからその気持ち、分かるぞ。
しばしの沈黙、妙な違和感を覚えたので、ティミーの様子を伺ってみると何故か、ティミーは可愛くふくれっ面になっていた。
「どうしたの?」
「別に」
何か地雷を踏んだか、よく分からないが……うーん、そんなに火がよかったのかな。
原因の解明を試みようとしていると、森の方のくさむらがざわざわと揺れる音が聞こえた。勿論風などではなさそうだ。ティミーも俺も自然と表情がかたくなる。
しばらく気を張り巡らせるが遂に何かが出てくることはなかった。
「とりあえず大丈夫そうだけど一応見てくる。ティミーも来るか?」
「いや、いい……」
そう言い少し俯く彼女の表情恐怖の色が見え隠れしていて、すぐにあの時の事を思い出しているに違いないと察することができた。そりゃ怖いよな。俺だって怖くないわけじゃない。いざとなった時には
「わかった、すぐ戻るからな」
魔物じゃない事を祈りつつ森の中へと踏み入る。
しばらく歩いてみたものの、森の中はさして変わった様子も無く聞こえるのは鳥のさえずりのみだ。
やれやれ、どうやら魔物と遭遇した一件があったせいでか少し気負いすぎていたらしい。
ベルナルドさんもここらへんにはそうそう魔物は出てこないはずだとは言ってたし今回は杞憂だな。きっと魔術読本にも書いてあった動物に違いない。
ちなみにあの魔術読本、魔術以外にこの世界についての事も載ってるのが今朝発覚した。生き物の事なんかもそのうちの一つで、大まかには魔力を持つ動物が魔物、そうじゃないのが動物という。
他にも色々と載っていたからもし路頭に迷っても魔術読本さえあればなんとかなりそうだ。ダウジェスもいい仕事するじゃないの。
「アキ!!」
安堵していたのもつかの間、静寂を破ったのは魔物の咆哮でも野生動物の鳴き声でもなく、ティミーの叫び声がだった。どうやら岩場かららしい。
クソッ、もしかして潜んでやがったのか!?
「ティミー!」
心の中で毒づくと、自然とその名を呼び岩場へと全力で走った。
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