2-13 ★ ★ ★
「さて、皆様! 大変お待たせいたしました!」
宇宙局から鳴るサイレンにも負けない声で、アピオンは演説がまた始まった。頼まれたわけでもないのに散らばっていた人々は集まってきていて、俺もガリレオに連れられる。
「これより宇宙史でも類を見ない、大転換が行われます! かつて我々は技術の全てを投入し、母なる太陽を手中に収めました! しかし我々の内からあふれ出す飽くなき探究心が技術を進化へと導き、今日、あの球体は新たな形として生まれ変わるのです!」
とりあえず手を叩いておけ、と言わんばかりのまばらな拍手が起こった。
「さっきよりも声を張っていたね」
「それに、大分仰々しい説明だ」
「さぁ、とくとご覧下さい!」
すると、宇宙局のスクリーンが切り替わった。映像の向こうに、合金製のパーツで覆われた陰る太陽が浮かんでいる。ライトもなければ巨大な小惑星とも取れそうなその歪さは、何か理解の追いつかないものを目にしたときに覚える、あの鼻の奥がつんとするような感覚を思い出させる。周りの人々も何が起こるのかとざわめいていると、きれいに割れた卵のように、中央から光が覗き始めた。旧式のパーツはそのまま上下に、左右にと四散してゆき、ついにはただの巨大なパーツ群になっていた。廃棄もかねて旧式はそのまま太陽に落ちてゆくのかと思ったが、プラズマ状の帯によってまだつなぎ止められていた。
待ちわびていたかのように、新型のパーツを乗せていたロケットからいくつものコンテナが射出される。ドアが開放されると、小型の機械が宙を羽ばたいた。どの役割を果たすのか分からないが、鳥形の機械生きているかと見まがうほどにプログラム通りの正常稼働を果たし、空を覆う大群のように蠢いている。
「あぁ、なるほど」
「どうした?」
「たぶん、あの鳥が新しいダイソン光球なんだ」
「まさか」
「そのまさか、じゃないかな。ほら」
映像が切り替わると、第一陣がその目的を果たそうと、別の行動に出ていた。翼を広げたまま固まり、そして均一に隊列をなす。一辺の狂いもない編み目状に並ぶと、太陽の焼き尽くすようなエネルギーを一心に浴び始めた。すると何もなかったはずの隙間に、フィルターのような光の膜が生まれ始めた。光をそのまま掬うように群体は離れ、また新たな一陣が彼らの前へと飛んでいった。
「あれだったら壁のような、直線上の板状の機械の方が、エネルギーを得られる効率はいいはずだ」
「でも、自分たちを模してまでああいう機械を作るのは、ロマンだよ」
「そんなもんか?」
「たぶん。ロマンでなければ、彼らが一番感情を呼び起こす形にしたのかもね」
「それをロマンというのだろう?」
「そうだったね、違いない」
ケラ人がロマンを持ち合わせているかは知らないが、少なくともアピオンはロマンの固まりなのかもしれない。そう思うとまだ可愛く思えてくるが、彼が再び口を開いたときにはその感情も吹き飛んでいた。
「さぁ、皆様! 今あなた方が目にした通り、我々の太陽は、新たなる段階へと移行しました! 如何でしたでしょうか、旧式すら無駄にしない我々の技術力の高さは!?」
どこがどう素晴らしいと解説を続けているが、俺にとっても他の人にとっても、心震えるようなものではなかった。まるで興味がない映画を無理矢理見せられているような、その光景自体、何の面白みもない。一人、また一人と、宇宙局から去って行くのが何よりの証拠だった。
そもそも、パーツ交換とは対して意味はなく、重要なのはその後に何が起こるかではないのだろうか。
「あのケラ人の耳を刺すような解説は、もううんざりだ」
「確かに、そうだね」
適切な言葉が見つからなかったのか、困ったようにガリレオは笑うが、「でもやっぱり、彼は彼なりに頑張っているだけだ」と繰り返した。
「あれが?」
「あれが、だよ。もちろんケラの技術は素晴らしいことは分かっているさ。太陽を覆ってそこからエネルギーを得る技術は、発想さえあれど、その実現は、彼らの知識なしではあり得なかったわけだ」
「それは、違いない」
「ただ、きっと今回の新型を思い浮かべるまでに、ケラ人以外の知識もあったはずだよ。ほら、あれ」
ガリレオが映像を指さす。何度も繰り返されたエネルギー回収が、映像の向こうで続いている。網が引っ張られると丸まるように、鳥たちが集めた光は、球体状になっていた。なんとなくだが、見覚えがある。
「ジーヴァナーヴ星の、光を個体にする技術?」
「たぶん、そう。初めは彼らだけの技術だけだったかもしれないけど、こうやって他の星の技術が混じっているんだろうね」
思わず、失笑した。技術大星と喧伝していたからかもしれないし、もっと違う何かかもしれない。どっちでもよかったが、ガリレオはそんな様子一つ見せず語る。
「彼が、それに気づけていないだけなんだ。だからあんな、人を見下した態度になっちゃうんだろうね。他の人への配慮とか、それは彼の出来てないところな訳で、星々の色が僅かに違うようにさ、ケラ人だって色んな人がいるんだよ」
「確かにそうだ」
タクシー運転手と、又聞き程度のケラ人しか知らないが、ガリレオの言葉通りだった。地球人だって一人一人性格が違うように、ケラ人もその通りなのだろう。急に肩の力が抜けていた。
「技術を生み出して、後を継いだ人がそれを進化させて、それの繰り返しで。技術に限らず、全てがそうで。もう見えなくなっているかもしれないけど、その中には一人一人の物語があるわけで。僕はそういうものを大事にしたいんだ」
「大層な発想だな」
それでも、尊敬の方が強かった。ようやく我に返ったのか、いつものような不敵な笑みを浮かべて、ガリレオは「どうも」と笑う。
「あぁ、でも」
「なんだ?」
「食事のために頂くとか、日々を生きるためなことは仕方ないけど、違う生き物を弄ぶのだけはだめだ。なじるのもいただけない。今日この瞬間までの道のりは否定しないけど、これからはあっちゃだめだ」
「そうだな」
「だからこそ、僕はアピオンさんと話をしてみたい」
「は?」
呆けた俺を置き去りにするように、ガリレオは歩を進める。辞めておけばいいのにと思うが、俺も後を追う。
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