45話 脱出……そして
空気穴からの光が弱くなってきた。
もう夕方になっているのだろうか。
「ほら、食事だ」
また仏頂面の見張りが僕にパンと水を寄越してきた。
「ねぇ、僕はどうなるの?」
ダメ元でもう一度聞いて見る。するとその男は顔を上げた。
「お前はな、奴隷になって遠方の国に行くんだ」
「ど、奴隷?」
このルベルニアには奴隷制度はない。と、するとアレスニアかフォレスタンか……。
どちらにせよ冗談じゃ無いってところだ。
「明日には受け渡しが終わる。それまでじっとしてろよ」
「そんなぁ」
このままセントベル島にももどれないのか? くっそ……。
僕は悔しくて唇を噛んだ。
その時だ。
「アレン?」
微かな声が聞こえた。
「その声は……カラ?」
聞き覚えのある声に僕の胸はどきどき高鳴った。
「アレン!」
僕のほうからはよく見えないけれど、カラは僕の姿を見つけたらしい。
「今行くから、じっとしててね!」
カラが離れていく気配がする。
そしてガゴン! と鈍い音がしてしばらくすると、地下のドアが開いた。
「アレン! 迎えにきたよ」
「カラ……よくここがわかったね」
「うん、ほら。アレンがくれたペンダントが場所を教えてくれたんだ!」
「なるほど……」
島では使いどころが分からなかった機能がこんなところで役に立つとは……。
「見張りは?」
「出かけているみたい。出て行ったのを確かめて中に入ったんだ」
「はは……」
食事にでも出たのかな、ご愁傷様。カラは僕の牢屋の鉄格子を掴むとスキルを発動した。
「『強力』……!」
メキメキと音がしてまるで溶けた飴のように鉄格子がひん曲がる。
「さぁ出て」
「あ、うん」
はあ、やっと出る事ができた。あ、ちょっと待って。
「『修復』!」
「わざわざ直すの?」
「時間稼ぎになるかと思って」
「なるほど」
気を付けながら階段をそっとあがると、そこには誰も居なかった。
「なにかないかな……」
僕はささっと部屋を見渡す。そして暖炉である物を見つけた。僕はそれを修復する。
「……なるほど。カラ、ここはもういい。行こう」
修復したそれを胸ポケットにしまい込んで、僕達は悪者たちのアジトを抜けて屋敷へと戻った。
「アレン様、よくぞご無事で……!」
屋敷に戻ると、クロードがほっとした顔で出迎えてくれた。
その顔色から彼も依頼者が行方不明では面目が立たないことになっていたんだろうな、と想像した。
「おそらく叔父様の手のものだ」
「しかし……証拠がありません」
「それがあるんだな」
僕は胸元から紙を出した。
「現場にこれが燃やして捨ててあった。僕のスキルで修復したものだ」
「これは……直筆の指示書ですね」
「ばっちりでしょ?」
「……はい!」
南方の不便な領地に追いやったその目的争いよりも明確な害意を示すそれを見て、クロードの目がキラリと光った。
「……これで決着がつくはずだ」
「アレン」
見ると、カラが心配そうに僕の顔を覗き込んでいる。
「しかたないよ。僕だってどうにかして叔父様と和解したいと思ってた。でも今回のことでそれは甘い考えだって思い知ったよ」
そうカラに答える。そう、それが真実なんだ。
叔父様は僕との決別をずっと前から覚悟していたのに、僕だけが身内の甘さに縋り付いていた。
でもそれじゃ駄目なんだ。
僕には自分自身とセントベルとセロン領の領民、それから家臣達を守らなきゃいけない義務がある。
「クロードさん、明日の裁判でこれを提出してください」
「はい、わかりました」
クロードは神妙な顔でそれを受け取った。
翌日、第二回の裁判が始まった。
僕が裁判所に姿を現すと、叔父様はぎょっとした顔をした。
その顔からみるみる血の気が無くなっていく。
「裁判長、ご報告があります。僕は昨日何者かに拉致されました。そして現場にこれがありました」
そう宣言して叔父様の指示書を提出する。
「筆致は叔父様のものと一致するはずです」
「……しらない! 俺は知らないぞ!!」
僕は叔父様の取り乱した声をどこか他人事のようにして聞いていた。
「筆跡鑑定士の結果を待ちましょう」
急遽、筆跡鑑定が始まりそれは叔父様のものだと断定された。
「被告の意見を聞きましょう」
「何かの間違いだ、私は……」
「法定での虚偽は罪を重くするだけですよ」
「……アレン! お前を恨むぞ!!」
最後に僕に罵声を浴びせて、ついに叔父様はがっくりと頭を垂れた。
「――それでは判決を下します。サミュエル・キャベンディッシュは甥のアレンをセントベル島に追放し、セロン領を我が物とした。それが失敗すると、今度はアレンを奴隷として売り払おうとした。ゆえに三十年、監獄島での禁固刑とする」
三十年の禁固刑。それが叔父様に課せられた刑罰だった。
僕の島流しは沢山の仲間をもたらしたけど、叔父様のはどうかな。
「おめでとうございます。これでアレン様は正式にセロン領の領主と認められました」
「……うん! ごくろうさま。クロードさん」
叔父様がああなってしまったことに残念な気持ちはもちろんある。
だけど僕の責任はこんがらがってしまった相続問題を正して、セドリックやラリサの願いに報いることにある。
「それじゃあ……行こうか、セロン領に」
僕は泣き出したい気持ちに蓋をして、カラににこっと笑いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます