44話 監禁

「ん……」


 ぴたんぴたんと水の滴る音が聞こえてきて、僕は目を覚ました。

 暗い……。ここはどこだろう。

 目をこらして見ると、石造りの壁が見える。


「カラ?」


 カラがいない。彼女は捕まらなかったのだろうか。


「鉄格子だ」


 壁伝いに触れていくとひやりとした金属の感触があった。

 閉じ込められているのか……。試しにぐっと力を入れてみたが鉄格子はビクともしなかった。

 窓もない真っ暗な空間でどうしてこうなったのかを考える。

 きっと犯人は叔父様だ。僕が居なくなって得をするのは叔父様くらいだもの。


「しくったなぁ……」


 裁判の途中だって僕が居なくなったら判決どころじゃなくなる。

 なのに油断して街をうろつくなんて間抜けにもほどがある。

 僕はこれからどうなるんだろう。


「おい、食事だ」


 しばらくすると、知らない男が僕のいる牢屋にパンと水を持ってきた。


「ねぇ、僕はどうなるの? もう一人の女の子は知らない?」


 食事を持ってきたってことは今すぐ殺す気はないのかな、と思い僕はその男に声をかけた。


「黙って食え」


 しかし男はそう答えて古毛布を投げ込むと階段を上っていった。

 どうやらここは地下らしい。


「『修復』」


 僕はしかたなくスキルを使ってパンを焼きたてにした。

 パンは焼きたてに限る。


「ついでだ」


 僕は毛布を新品にして部屋をピカピカの新築にしてごろりと横になった。


「朝になったらまた人がくるかもしれない。その隙を突くなりすれば……」


 そう考えながら真っ暗な室内を睨み付けていた。

 そうしているうちにいつの間にかうとうとしていたらしい。


「ん……朝日……か」


 頭上に空気穴かなにかがあるみたいだ。おかげで視界がはっきりしている。


「あそこか。あそこまで登れば外に出られるかもしれない。なにかないかな……」


 僕は周りを見渡した。あ、毛布。これを積み重ねたらいけるんじゃないか?


「毛布を複製!」


 ずももも……と毛布が膨れあがる。

 その毛布の山を登って僕は空気穴を目指した。


「むっぐ……むぐー!」


 だけど空気穴は頭も通らないくらいちいさかった。おまけに人っ子一人通らない。


「はあ……」

「なにやってる!」


 あ、やべ。見つかった。僕は見張りの男に怒鳴りつけられ、毛布を没収された。

 はあ……。




 アレンが攫われて一晩が立った。


「アレン……アレン……」

「カラさん、落ち着いてください」

「無理です……あたしのせいで」


 呑気に買い物なんてしていたからアレンは攫われてしまった。

 クロードさんはあたしをなぐさめてくれるけど……。


「カラさんのせいじゃありません。今、人をやって探しに向かわせていますから」

「でもアレンの叔父さんはアレンがじゃまなんでしょう? もしかしてもう……」


 嫌な想像ばかりが頭をよぎる。

 アレンの身になにかあったらラリサもセドリックもとっても悲しむだろう。


「いいから少し休みましょう。ほら、横になって」

「はい……」


 頭もガンガン痛む。あたしはソファに横になった。

 シャランと胸元のペンダントが音を立てる。


「アレン……」


 アレンがくれた言葉を翻訳できるというペンダント。他にも色々機能があってすごいものなんだって。


「不思議なかたち……」


 すべすべとしたその表面をあたしはぼんやりとなぞっていた。

 その時だった。


「えっ、あ……? 光ってる」


 それで思い出したのだ。アレンが言っていたペンダントの別の使い方。


『この赤い丸が僕とカラ。地図の方は壊れてるけど、場所はわかるだろ?』


 そうだ。この光……ここがアレンの居る場所だ!!


「クロードさん! 私、アレンを助けてきます」


 大声でそう叫ぶと、あたしは屋敷を飛び出した。


「アレン!」


 太陽があそこ。だったらアレンは北の方にいる。

 あたしはそちら目がけて歩き出した。


「この辺……だよね」


 あたしはペンダントをもう一度開いた。赤く点滅する点。これがあたしのいるところ。そしてもうひとつの赤い点。これがきっとアレンのいるところだ。


「こんなところに……」


 そこはジメジメとしていて日当たりの悪い裏町で、なにかが腐ったような嫌な匂いがする。島では嗅いだことのないその匂いが不快で、あたしは思わず鼻をつまんだ。


「アレン! あ……」


 大声でアレンを呼ぼうとして、ふと思った。アレンを捕まえた悪者があたしの声を聞いたらアレンをまたどこかに隠してしまうかもしれない。


「そっと……静かに」


 そう、森の中の鹿を捕まえるように、矢をつがえるときの静かさを思い出すんだ。

 あたしは足音すら殺しながら、ごちゃごちゃした建物の間を通り過ぎていった。

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