40話 異文化交流
「さぁ、今日は何処に連れてってくれますの?」
フレッシュなフルーツ満載の朝食を食べ終えたレオノーラは満足そうに口を拭ったあと、キラキラした目でそう聞いて来た。
「みんなが興味あるならだけど、セントベル島の島民の集落に行ってみませんか」
「ああ、ぼく行ってみたい!」
ロイが勢いよく手を挙げた。
「ロイが行くなら私も行きますわ」
「ボクも!」
「俺も!」
全員一致。じゃあ行き先決定だな。僕は立ち上がってカラを呼んだ。
「カラ、今日はみんなで村を回ろうと思う。付いてきてくれる?」
「いいけど……」
いつも浜辺の太陽のような笑顔のカラの表情に少し曇りが見える。
「どうしたの、カラ?」
「あっ……いや、なんでもない」
「そう? 何かあるなら言ってよ」
「んー……」
カラは少し迷った末に口を開いた。
「アレンはあの子が好きなの……?」
「え?」
「随分親切にしてるから」
「いやいや! あの子は友達の婚約者だよ。だからナイナイ!!」
「そっか」
なんだよやきもちか? なんてね。
いくらレオノーラが可愛くても人のものを取るような男ではないぞ。
「そっか……」
「カラ、いいから仕度して」
「あ、うん!」
僕とカラはみんなを連れて村に向かった。
「けもの道よりはましだけど、険しいから気をつけてね」
もし見学ツアーを今後もやるとしたら村からの道を整備する必要があるな。
「ま、まだ先ですの?」
お嬢様育ちのレオノーラは息を荒げている。
そんな彼女に、カラは手を差し伸べた。
「アレン、伝えて。こっから先はあたしがスキルを使って抱っこするって」
「うん」
カラの両手がほのかに輝く。カラのスキル『強力』だ。この力は体の何倍も大きなものや重い物を持つことが出来る。
「きゃあ!!」
「もうすぐだからじっとしていてだって」
「……ごめんなさいね」
「こっちこそ、レオノーラの体力を考えなかった。すまないね」
そうこうしているうちに村が見えて来た。
「あら、ホテルの下の宴会場にそっくり」
「そうそう。あの館はここの村人が作ったんだ」
「へぇ」
円形に作られた集落の建物。全ての家族がここに住んでいる。
「こけーっ!」
「わわわ!」
中に入るとエルガーが鶏に飛びつかれそうになった。
「彼らにとって鶏は一番大事な家畜なんだ。だから家の中で飼うんだって」
「なるほど、牛を家の中で飼う民族も居るって聞いたことがあるな」
僕の姿をみた村人が手を振ってくる。
それに振り替えしたりしていると、奥から村長さんがやってきた。
「彼女がここの村長だよ。一番の長生きだそうだ」
「こんにちは」
「村長さん、僕の友人達です」
「アレン殿の……。いらっしゃい、どうか良い風を運んできておくれ」
僕はその村長の言葉をロイ達に伝えた。
「良い風に、ってどういう意味かな」
「この島の人は外から来た人間がいい影響をもたらすって考えているんだ」
「へぇ……変わっているね」
「ここの人達は古代帝国の生き残りらしいんだ。その影響じゃないかな……」
滅びた祖国からの助けをずっと待っていた彼らの思いが形を変えて残ったんじゃないかってのが僕とセドリックの考えだ。
「さあ、こっちが畑……その向こうが機織り場だよ」
「もしかしてこの服の生地かしら?」
「そう。このキナハという草の繊維から作るんだ……」
僕はカラと一緒に彼らに村を見せて回った。
「すごいね。蔓からあんなに素早く籠ができるなんて」
「皆、少ない持ち物なのになんの不満もないんだね」
ルベルニアの常識とは違うここの暮らしに驚きながら、彼らは興味深くそれらを見て回った。
「面白かった!」
「鶏にビビってたじゃないか、エルガー」
「ジャスパーもビビってたろ?」
「ははは」
来た道をまた引き返す。
「はあ、またこの道……」
レオノーラは険しいその道を見てため息をついた。
それを見たカラが走り出す。
「待ってて!」
カラは村で背負子を借りてくると、そこにレオノーラを座らせて歩き出した。
「これで楽ちんでしょ!」
「……少しはずかしいのですけど」
カラとレオノーラがいまいち噛み合っていないのに笑いを堪えながら、僕達はホテルへと戻った。
「疲れただろうから、午後はゆっくりするのはどうだろう」
「そうだね、アレン」
「とっておきのものがあるんだ。こっちきてみんな」
僕はホテルの外の温泉プールにみんなを連れていった。
「あたたかい……」
「この島の山は活火山なんだ。それで温泉が出てきたんだ」
「わぁい!!」
男の子達はパンツ一枚になって中に飛び込んだ。
「ああ~気持ち良い」
温泉は血行をよくして疲労回復に役立つって言われてるからね。
「美容にもいいっていうよね」
僕がなんの気無しにそう呟くと、レオノーラがピクリと動いた。
「それ、本当ですの?」
「ああ。うちの家庭教師のセドリックが言ってた。彼はすごく博学なんだ」
「うう~」
レオノーラは葛藤しているようだ。
そりゃ男の子と同じようにパンツ一丁って訳にはいくまい。
「入りたいけど……」
迷うレオノーラ。そんな彼女の前に現われたのはラリサだった。
「お嬢様、こちらの水着をお使いください」
それはルベルニアの保養地でも使われている水着だった。
これならレオノーラも温泉に入れる。
「あら、ありがとう。そうね、次からは水着を持ってくることにするわ」
レオノーラはそれを着て温泉に飛び込んだ。
とっても気持ち良さそう。
「ラリサ、助かったよ」
「本当は私が温泉に入るのに作ったんですけど、お客様が優先ですからね」
午後はこんな風に温泉に浸かって、たまに海を眺めたりしてゆったりと過ごした。
「まるで天国にいるみたいだ」
皆は口々にそう言いながら、海と島のグルメを堪能し、自然と触れ合う三日間を過ごした。
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