38話 お・も・て・な・し

「やあ、少しは休めたかい?」

「ああ。ソファもベッドも驚くほど心地いいね」


 夕食の為にみんなを迎えに行くと、ロイはそう言いながら部屋から出てきた。


「夕食はここの伝統料理を振る舞うから」

「それは楽しみだ」

「ここではなくてこの下の建物に用意してあるから、みんなついてきてくれ」


 遺跡が発見される前にホテルにしようと建てた伝統の木と葉で出来た建物。そちらにみんなを案内する。


「すごい、自然と一体化したみたいだねレオノーラ」

「これがここの伝統的な様式なんですのね」

「ええ、そうです」


 レオノーラは興味深げに中央にしつらえた席に座った。その周りに男の子達がまるで侍るように座る。

 おやおや、これではまるでレオノーラが女王様のようだ。


 席にはキナハ織りのクッションを置いて、セントベルの村人たちのするように床に直に座るようにしてある。

 それぞれの盆の上にはバナナの葉を乗せ、鮮やかな蘭を添えてある。

 これはラリサのアイディアだ。


「ルベルニアの方にも食べやすいアレンジをしてあります。うちのシェフが腕によりをかけましたよ」


 そうして運ばれてきたのは前菜。白身魚を半生の燻製にしたカクテルだ。


「あら美味しい」

「ソースの酸味がさっぱりと食べられるね、レオノーラ」

「ええ。燻製の香りもよいわ」


 ジャスパーはしばらく魚をつまんでじっとみていたがそれを聞いてぱくりと口にした。


「柔らかくて甘い」

「それは良かった」

「生の魚に驚いたが食べられるもんなんだな」

「ルベルニアでは必ず火を通すからね」


 食文化の違いも旅行の醍醐味だ。

 食べやすくはしてあるけれど、その辺は損なわないように気を遣った。


「それではサラダを。これはパパイヤという果実の若いものを薄切りにしたものと、椰子の若芽です」

「あっ……すっぱい。でも爽やかだ」

「椰子の芽ってこりこりして面白いね」


 ロイもエルガーもサラダを気に入ったようだ。


「それから次はこの島の主食になっている芋をフライにしたもの。ホワイトソースと一緒にどうぞ」


 見た目はルベルニアの料理と変わらないこともあって、これはジャスパーもすぐに手をつけた。


「おお……? ねっとりとして甘い。不思議な食感だ」

「このねっとりした食感が癖になるんだよ。ではメインを出すね」


 僕が手を叩くと、村人達が立派な鹿を丸焼きにして持ってきた。

 今まではルベルニア風に小洒落た盛り付けをしていたが、これはワイルドに行こうと決めたのだ。


「まあ、立派な鹿」

「この島で元気に飛び回っていた野生の鹿です」


 切り分けたお肉にはベリーのソースを。

 一番美味しいところを切り取って、振る舞う。


「良く肥えた鹿だねぇ、ジャスパー」

「あ、ああ」


 エルガーとジャスパーも無心に食べている。

 ヴィオの巧みな弓によってあっという間に捕らえられた鹿は苦しみも少なくその分味もいいのだと聞いた。


「ああ、美味しかった。こんな孤島にやってきて素敵な料理が食べられるなんて思わなかったよ。ありがとうアレン」

「いやいや、気に入って貰えたみたいで安心したよ」


 僕達とりあえず食べられたら御の字みたいな舌の持ち主だから。マリーがいて助かった。


「さぁ、デザートだよ。山羊のミルクとマンゴーのソルベだ」

「まあ……この暑いのにソルベが食べられるの?」

「これも遺跡の機械で作ったものです。昔の人は便利な道具を持っていたんですねぇ」

「ではこれもスキルで『修復』を?」

「そうです」

「ぐぬぬ……」


 ジャスパーが歯ぎしりするのが聞こえた。

 彼の火のスキルはすごいけど戦争でもなかったら使いどころがないものな。

 馬鹿にしてきたくせにいい気味だ、と僕はこっそり溜飲を下げた。


「さあ、食後はセントベル島民の歓迎の舞だよ。存分にショーを楽しんで!」


 パンパンと手を叩くとそれを合図に照明が少し暗くなった。

 トトトン、トトトンと独特なリズムの太鼓が鳴り出す。

 そして竪琴を持ったカラが弦をつま弾き、乙女たちが歌い出した。


『天の星のふるように 海の波のよせるように 尽きぬ思いは 届くでしょうか』


 切ない乙女の心を示す踊りが始まる。キナハ織りの帯を振って、恋しい男の無事を祈る歌と踊り。


 トトトン……トトトン……。太鼓の音がゆっくりとなっていき、ダンスは終わった。


「素晴らしいわ……異国情緒たっぷりね」


 レオノーラはうっとりとしてそれを見ている。

 翻訳機を渡してないから彼らには歌の意味は分からないはずだ。

 それでも言語外の何かが伝わったのだろう。


「アレン、この島に招待してくれてありがとう」

「こちらこそ……来てくれてありがとう、ロイ」

「こんなに楽しく快適に過ごせるとは思わなかった」

「それは良かった。明日はもっと色々楽しんで貰おうと思ってるよ」


 こうしてロイ達一行のセントベル観光が始まったのだった。

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