36話 巨大鮫が出た!

「まるで生き返ったみたいだ!」


 翌朝、グェン達ミラージュ号の乗組員はすっきりした顔で食堂に現われた。


「ああ、うめぇ」

「おい、とっとと船のコックを首にしろ!」

「がははは」


 彼らは賑やかにびっくりするくらいの量の食事を平らげている。


「ただ、陸に居着いちゃあ俺達は食ってけねぇぞ、忘れるな」

「ちげぇねえ、お頭!」

「船長だって言ってんだろ!」


 こうしてミラージュ号は島の交易品を山と積んで水平線の向こうへと旅立っていった。



「いやあ騒がしかったですね」

「うん、そうだね」


 一緒に海を眺めるセドリックも良く日に焼けている。着ているシャツは波と労働でしわしわだったが、ルベルニア本土にいた時よりも精悍に見えた。

 僕もちょっとは逞しくなっただろうか。


「これでしばらくはゆっくりできるだろうか」

「ああそうですね。このところ働きづめでしたから、少しゆっくりしましょう」

「そしたらまずは……」

「温泉! ですね」

「だね」


 今日くらいはゆっくり温泉プールでゆっくりしよう。そう思って灯台に戻った。


「ねぇ、せっかくだから出来たばかりの温泉プールで遊ぼうよ」


 そう声をかけたのだが周りの雰囲気が暗い。


「どうしたの……?」

「アレン、大変だ」


 カラが重苦しい口を開いた。


「ガランダが出た」

「『ガランダ』?」

「この辺の海に住む巨大な鮫だ。以前に現われたのは三年前で、その時は三人が食われた」

「ええっ!?」


 なんてことだ。そんな鮫がいたら海水浴どころかおちおち漁だって出来ない。


「その鮫はどこに現われたんだ?」

「今朝、東の入り江でみた村人がいるらしい」


 そうか……。


「だからしばらく海に近づいちゃだめだぞ。あたしたちでやっつけるまではな」

「ちょ、ちょっと待って! 集落の人が食われちゃったらどうするんだよ」

「でも……アレン達よりもあたしたちの方が海に慣れている」

「僕にか、考えがあるから」


 僕は灯台の所に並んでいるガウルJrを起動した。


「ガウルjr、警戒モード! 領内の湾岸に鮫が出た」

「……『警戒モード』。侵入者を排除します」


 ギギギ、とガウルjr達が動き出す。


「カラ、案内して!」

「う、うん」


 カラの案内で東の海岸に向かう。


「あの双子岩のあたりに居たらしい」

「そうか……。ガウルjr!」

「ギギーッ!」


 ガウルjr達は海岸に横並びになると、ぴかっと目を赤く光らせた。

 そして一斉に口をぱかっと開ける。


「ピガーーーー!!」

「うわぁああぁっ!!」


 そしてまばゆい光が海に向かって何発も打ち込まれた。

 ドガンドガンととんでも無い音がする。

 僕はカラに覆い被さってその衝撃をやり過ごした。


「侵入者の排除、完了しました。マスター」


 職務を終えたガウルjrが僕らの前に跪く。


「は、はい……」


 僕はすっかり無くなってしまった双子岩を横目に見ながら頷いた。

 そこにはバラバラになった巨大な鮫だったものがぷかぷかと肉片になって浮かんでいる。


「すごいや……」

「うん、でも人に向けていいもんじゃないね」

「そうだね」

「調節しておこう」


 僕とカラは顔を見合わせてしばらくそこで呆然としていた。


「やったー! ガランダが死んだ!」

「うおおおお!!」

「さすがリョウシュ様だ!!」


 ヴィオ達他の村人達はなんだか盛り上がっていたけど。




 最大の窮地をあっという間に解決してしまった僕らは温泉プールでバカンスを漫喫していた。


「マリー、ドリンクお代わり」

「はい、マスター」


 遺跡から出てきたもののなかで、とっても便利なものがあった。氷みたいに冷たくなる貯蔵庫だ。氷のスキル持ちがいなくても、これがあれば食品も長く保存できるし、なにより気温の暑いこの島で飲む冷え冷えのフルーツジュースはメチャメチャ美味い!!!!


「どうぞ」

「はーい」


 ココナツの容器に入った甘酸っぱいマンゴージュース。マリーの超絶技巧で飾り切りをしたフルーツもてんこ盛りになっている。


「はあ美味しい」

「アレン、あんまり飲むとお腹がびっくりするよ」

「大丈夫だって!」


 体が冷えたら温泉に入ればいいんだ。

 僕はうんと勢いを付けてプールに飛び込んだ。


 ばしゃーん!


「アレン様、危ないですって」

「あははは、セドリック、カラ! こっちにおいでよ!」


 空は何処までも青くて、風はそよそよと温かく、僕は幸せな気持ちで一杯になってプカリと温泉プールに浮き上がった。


「ロイ、早くおいで。この楽園を君に見せてあげたい」


 僕はそう呟いて眩しい太陽に目を細めた。

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