31話 謎の書
「それじゃあ留守を頼む」
「本当に私たちはついて行かないで大丈夫ですか?」
ラリサが心配そうな顔をして僕の顔を覗き込んだ。
「ああ、それよりも石鹸作りを進めていてくれ。今回はちょっとした調査だから」
「あたしがついているから大丈夫さ」
僕の横でカラが胸を張った。
「あたしたちのカヌーの使い方も教えてあげるよ」
「ああ」
カラの一族のカヌーは小さくて小回りが効く。
これを何艘も出して沖まで出て網で漁をするそうだ。
「じゃあ行こうか」
「ああ、それじゃ行ってきます!!」
こうして僕達は島の西に向かった。僕とカラを載せたカヌーは潮流に乗り、あっという間にたどり着いた。
──ピピ、ピピッ
森の中に入ると、小鳥が頭上を飛び去っていった。
「たしかこの辺だよな……」
「あっ、あったよ」
それはマリーを見つけた廃屋だった。
椅子とマリーを運び出してそのままになっていたから気になっていたんだ。
今日はこの廃屋をきっちり調べ上げたいと思う。
「さて……」
僕とカラは建物の奥に進む。シンプルな作りの部屋にはいくつか書類があった。
「読めないな……。カラはどう?」
「あたしたちは文字をもたない。マリーに読んでもらったらどう?」
「……なるほど」
ここで多分家事をしていたのだろうマリーならこの書類を読めるかもしれない。
「あとはこのでこぼこした出窓みたいなものだよ」
「なんだろうねぇ」
出窓……みたいに見えるけれども、肝心の窓の先は土の中だ。ここの住人はいったい何を見ようとしていたのか。
「ここで僕のスキルの出番だ」
「……無理はしないでね」
カラが少し心配そうに僕を見る。
普通の道具ならいくらスキルを使っても魔力切れを起こしたりしないんだけど……。
この島にある妙な遺物のようなものはどれも複雑怪奇で脳がパンクしそうになるんだ。
そのまま本当に理解しようとしたら僕の頭はどうかしてしまうと思う。
ペンダントの修復とマリーの修復を経て僕はその辺はうまくやり過ごすことができるようになってきたけれども……。
「『修復』!!」
僕の手から光が溢れる。そしてその不思議な窓の情報が流れ込んでくる。
……ああ、そうなのか。
「わかったよ、カラ」
「本当? これはなんなの?」
「遠くのものをコレで見ることが出来るらしい」
「えっ?」
「例えばここから灯台のセドリックの様子が分かったり……そういう機械みたいだよ」
「へぇぇ……でもそんなものがなんでここに?」
カラは首を傾げる。ここからは僕の予想でしかないけれど。
「ここは警備棟とかなんじゃないかな」
「警備? ああ物見やぐらみたいなもの?」
「そうそう」
僕はさらにそれに触れたけれど……これを直すのには随分時間かかりそうだった。
でもこれを直すよりも僕は気になっていることがある。
「ここが物見やぐらなら、本体の建物があるはずじゃないかって思うんだけど」
「そうかー……そうだね」
「それを探し出せば、マリーもいるしこの島のためになるかもって思って」
「うんうん! おもしろそう!!」
カラの目がキラキラと輝く。
「なにがあるかな。すごい蚊遣りとかあるといいな」
「そうだね」
「それから、ずごい井戸とかすごい織機とか……」
「うんうん」
カラの要望通りのものがあるか分からないけれど、探してみる価値はありそうだ。
「それのヒントになりそうなのはこれか……」
僕は手元の修復した書類を見つめた。
廃屋から出た僕達はマリーの特製弁当を食べてお腹を満たし、夕凪で風の方向が変わるのを待っていそいそとカヌーを走らせた。
「ただいまーっ」
「おかえりなさい、アレン様!」
日が落ちかけ、もう夕食どきだ。
僕達はとりあえず食事をすることにした。
「何かありましたか?」
「うん、なにか物見やぐらみたいのと……この書類」
僕はセドリックにそれを渡す。
「ふんふん……これは」
それを見たセドリックの顔色が変わる。
「どうしたの?」
「え……っとこれが廃屋にあったのですよね」
「うん、そうだよ。どうかした?」
「これは……古代文字です」
「古代文字?」
「ルベルニア建国されるずっと以前にあった古代帝国が使っていたとされる文字によく似ています」
セドリックは信じられないといった様子でその書類の文字をなぞった。
「セドリックは読める?」
「いいえ……残念ながら……大きな戦が何度もあったせいで資料もほとんどなく、この世界で読めるものはおそらくおりません」
「そうか……」
そう聞いても僕はがっかりしない。くるりと後ろに立っていたマリーにその書類を見せる。
「マリーはこの字を読めるかい?」
「……は」
マリーが書類を覗き込む。キュィィィ……という微かな音がした。
「はい、読めます。マスター」
やはり。あそこにいたマリーにはこれが読めるみたいだ。
「なんて書いてある?」
「警備マニュアル、です」
やはりあそこは警備のための場所だったみたいだ。
「こっちとこっちは?」
「こちらはおいしい紅茶の淹れ方。こちらは……マスターは未成年なので黙秘します」
「ええっ」
「私が聞きましょう」
セドリックが進み出ると、マリーはその耳元でなにか囁いた。
するとセドリックの顔が真っ赤になる。
「う……ごほん……。これは私が預かっておきます」
「ええっ!?」
何々? なんなの? 僕はそれが気になってしかたなかったが、セドリックに没収されてしまった。
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