22話 回想③
「ああ、疲れた……」
僕は部屋に帰ると、どっと疲れが押し寄せてきてベッドになだれ込んだ。
「アレン様、服に皺が寄ります」
「はいはい」
僕はぽいぽいと礼服を脱ぎながら、パーティでの会話を思い返していた。
ロイも領主の息子で、スキルは『治癒』らしい。戦闘系ではないけれど使い方がハッキリしている。
僕はそこで『修復』だなんて訳の分からないスキルだと言い出せずにのらりくらりとずっとはぐらかしていた。
「『修復』ってなんだよ」
そしてジャスパーに道具屋呼ばわりされたことを思い出す。
「あー! もうイライラする」
僕がクッションを放り投げると、セドリックはそれを拾った。
「アレン様、『修復』もいいじゃないですか。未知のスキルです。可能性に満ちています」
「ものは言いようだな」
「スキルに振り回されて、するべきことも見誤る人もたくさんいます。私はアレン様にそのようにはなって欲しくありませんので」
「……わかったよ」
セドリックにそう諭されて、僕は大人しく寝間着に着替えた。
「さ、もう遅いので寝ましょう。明日は城下町を案内しますからね」
「はぁい」
スキルは残念だったけれども、城下町を見るのは前々から楽しみにしていたことだ。
ベッドに潜り込むと、色々あった疲労感で僕は眠りに落ちていった。
翌日。僕はセドリックの案内で、街に出た。
賑やかな目抜き通りの市場の入り口に立って、セドリックがこちらを振り向く。
「人が多いですから、はぐれないように」
「はーい」
はぐれようにもラリサがびったりと貼り付いているけどね。
「さて……せっかくだからセロンでは手に入らないようなものが欲しいな」
僕はここで家族にお土産と、自分にも何か買うつもりだ。
「砂漠の珍品が揃ってますよー! 見ていってくださいな」
「ほーお」
呼び声に惹かれて僕がその出店をのぞき込むと、布や小物が並んでいる。
「これはなんだい? 彫刻……?」
「いいえ、それは砂漠で自然に出来る石です。薔薇のようでしょう」
「へえ、これが自然に……」
「文鎮や棚の飾りにどうですか」
「面白いね、ひとつ貰おう」
僕はその不思議な石をお土産に買うことにした。それから弟のラルフにはぬいぐるみを買って、母様には山岳地帯の民族の手製だという華やかなリボンを買った。
「父様には何がいいかな」
そう思いながら市をぶらついていると、骨董屋があった。
「骨董か……」
父様は古い花器や陶器の人形なんかを集めている。掘り出し物はあるだろうか。
「セドリック!」
残念ながら僕は骨董のことには明るくないので、セドリックを呼んだ。
「なにかめぼしい物はないか?」
「うーん、これと言って珍しいものは」
「そっかぁ」
僕達が店先でそう話していると、店主が背後の箱からいくつかの陶器の人形を出して来た。
「いやいや坊ちゃん、これなんかお薦めだよ」
「そういうのは家にいっぱいあるんだ」
「これはただの人形じゃないよ。からくり人形だ。ただ壊れているからね、安くするよ」
「うーん」
道化が鞠をついている人形の顔は愛嬌があって味がある。動けば即買いなのだけどな、と僕はその人形を手にとった。
「あっ……」
途端に頭の中に光が弾けたような衝撃が走った。
「……アレン様、どうかしましたか?」
「あ、いや……おじさん、これ買うよ」
「へい毎度ありぃ」
人形を包んで貰い、僕は急ぎ足で城へと戻った。
「さぁて」
部屋に戻り、一人になった僕は買った土産物の中から人形を取りだした。
「たぶんここだな……」
僕ははやる気持ちをぐっと抑えつつ、人形の台座を開いた。
「ああ……やっぱり……」
そして僕は確信した。これがスキル『修復』の力だと。あの人形に触れた時、人形の構造と壊れている箇所が頭に流れ込んできた。
開いた台座を見ると、その通りになっている。
「バネと歯車が壊れてる。ここを直せばいいんだ」
もう僕には何をすべきかが分かっていた。その壊れた箇所にそっと指をあて魔力を流す。
すると錆びて折れたバネも欠けた歯車も綺麗に直った。
「これで動くはずだ」
僕はぜんまいをねじった。するとオルゴールの音とともに、道化の人形が鞠をつき始めた。
「おおーっ」
なるほど、『修復』のスキルは物の構造を理解して、壊れた箇所を直せる力なんだ。
「父様にいいお土産ができた」
そんな風にしてひょうきんな動きを繰り返す人形を満足気にじっくりと眺めていると、部屋のドアが急にドンドンと乱暴に叩かれた。
「なんだよ、騒々しいな!」
僕はイラッとしながら部屋の扉を開く。
すると、そこには真っ青な顔をしたセドリックとラリサが立っていた。
「大変です……アレン様」
「どうしたんだ。ひどい顔だよセドリック」
すると、セドリックは僕の肩に手をかけて俯きながら絞り出すように声を発した。
「落ち着いて聞いて下さい……お館様が……アレン様のお父上が亡くなられました」
「……え?」
僕はセドリックが何を言っているのか分からなくて聞き返した。
「今朝のことです。急な病だと……」
「何言ってるんだ。父様はどこにも悪い所なんて……」
僕はセドリックの言葉を信じたくなくて、目を泳がせた。
「ラリサ、セドリックはどうしちゃったんだ?」
「アレン様……残念ですが、本当のようです」
「そんな……」
すっと体中の血が引いていくのを感じる。
「う……嘘だ……嘘って言ってよ……」
僕はセドリックに縋り付いたまま、馬鹿みたいにそう繰り返すしかなかった。
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