17話 領民

「アレン様!」

「お館様!」


 セドリックとラリサの声がする……。


「ん……」

「あ、起きましたか」


 目を覚ますと、目の前にセドリックの金髪とラリサの赤い髪が並んでいた。


「なんで……?」

「アレン様が治療を終えたら倒れたと聞いて、迎えにきたのです」

「そっか……ごくろうさま」


 僕はむっくり身を起こした。単純な魔力切れだったので、一晩寝たらすっきりしている。

 僕の寝ていた場所からは円形状の棟の連なりの中央、中庭が見えている。


「わぁーっ」

「ここここここ!」


 前掛けだけを身につけた子供達が追いかけっこをしている横で、鶏が鳴いている。


「アレン、起きたか。朝食を持って来たぞ」

「ありがとう」


 カラが持って来た朝食はバナナと芋をふかしたパンのようなものに、少しの肉とカブの入った雑穀入りのスープだった。


「ほっ……おいしい」


 このスープ、最初はそのドロドロした見た目にどん引きだったのだが、慣れると素朴な味が味わい深くて癖になる。


「のどかだなぁ」

「そうですね。小さな畑の他は狩猟採集で暮らしているようです」


 セドリックはこのあたりを軽く見て回ったらしい。僕は来ていきなり治療をはじめたから五日もいたのに全然村を見てないや。


「アレン、食べ終わったら村長のところに来てくれ」

「わかった」


 僕とセドリック、ラリサは中央の棟に向かった。初日にふらふらしていた村長は、もうピンピンして歩いている。


「アレン殿、村人の治療をありがとう」

「はい。また、具合の悪い人が出てきたら言ってください」


 この治療で、古傷が悪い人なんかも相当数治した。病気の他に怪我も治せるなんて、本当に便利だ。


「して、そなたらはここを開拓するために来たと聞いたが」

「はい。僕はここを領地として与えられ、発展させなければなりません」

「そなたがここを治めると?」

「はい!」


 僕は真っ直ぐに村長を見て答えた。誰がどのように治めるかで自分達の生活がかかってくる。だからそこでぶれてはいけない。


「少し、昔話をしてもいいかの」

「はい……?」

「我らの祖先の話だ。かつて我々は豊かに暮らしていた。あらゆる海を制し、どこまでも遠くにいけた。いずれその海の向こうから人が来たら……その声を聞け、と」

「は……はい」


 その話はカラから少し聞いた。


「……アレン殿。そなたを見ていて確信した。そなたが我らに海の向こうの声を届けてくれる者だと。我らの一族はそなたを助け、そなたに従おう」

「そ……それじゃ僕の領民になってくれるの……?」

「ああ」


 村長はゆっくりと深く頷いた。

 なんてこった。いきなり三十人近い領民が出来たぞ!


「そ、そしたら村を見て回ってもいいですか?」

「ああ、いいとも」


 僕は飛び出すようにして中央の棟を出た。


「カラ! ……カラ!」

「どうしたっ、何かあったのか!」


 大声でカラを呼ぶと、カラは慌てて僕に駆け寄って来た。


「カラ、僕はここの村人達の領主になった! カラ、君も僕の領民だ」

「うーん、それってどういうこと?」

「えっとだな。例えば……この村で出来たものなんかを納めてもらうだろ、それを僕は海の外に売ったりする。その利益でここの暮らしを発展させる」

「うーん?」

「カラがしてくれたことに対して僕らは別のなにかお返しをするってこと!」

「そっか、それじゃ今までとそんな変わんないね」


 カラはそう答えた。うーん、ちょっと違う気がするけど。


「まあ、そのー。それでカラ達のことをもっと知るためにこの村を見て回りたいんだ。案内してくれる?」

「もちろん」


 僕はセドリックとラリサを連れ、カラの案内で村を見て回ることになった。


「けこここここ」

「ぴぃぴぃ」

「あ、ひよこだ。かわいい」

「私達は鶏を何より大事にしてる。先祖から贈られた肉と卵をくれる大事な家畜だ。だから家の内側に入れる」


 この円形の家はそれぞれの家がくっつきあったものだ。


「そしてここには山羊」


 山羊は家の外らしい。その横には小さな畑があった。


「野菜を少しと、薬草を育てている」

「あれは?」


 僕は畑の横に群生する細い葉の植物が気になった。

 同じ植物が群生していて、人の手が入ったような印象がある。


「これはキナハ。これから繊維を取って、着物を作る」


 カラは自分の着ている服を引っ張った。これもキナハという植物から作ったらしい。


「キナハの着物は涼しくて丈夫だ」

「へぇ」

「あっちに織機がある。見るか?」

「うん」


 僕達は織機のところまでいって機織りをしているところを見せて貰った。


「へぇ……繊細な模様ですね」


 セドリックが、織り上げて横に置いてある布を手にした。


「それは椰子の木の模様。こっちは鳥」

「本当に触るとさらっとしてますね。それに……すごく軽い」


 あんまり染めたりはしないらしい。素朴な風合いの布だ。


「これ、海で働く船員にシャツを作ったりしたら売れないかな」

「アレン様。それはいい考えですね」


 セドリックが頷く。彼ら潮やら汗やらでべったべただもんな。

 よし、セントベル島の交易品にひとつ有益な品物が加わったぞ。

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