16話 カラの集落

「こわい病気もあったもんだ」

「わたし達もかかる可能性があるわけですよね」

「そういえばそうだな」


 ラリサにそう言われて、僕はラリサとセドリックの体も調べた。ついでに自分も。


「異常なし!」

「でも予防はしておきましょう」


 セドリックにそう言われて、この日は拠点の掃除をして回った。


「生水とナマモノには改めてお互い気を付けましょう」

「はーい」

「はい」


 これで万事解決だと僕は思った。

 そんなはずもないのに。ね。


「おーい、アレン!」


 カラとヴィオの治療をしてから一週間がたった。

 カラはあれから発作を起こしていないし、ヴィオの腫れ上がった脚は随分良くなった。


「まるで子供の頃のように木に登れる。アレン、お前のおかげだ」

「いやぁ」


 初めはガキだとまるきり僕のことを馬鹿にしていたヴィオだが、この一件で見直したらしい。


「脚のお礼に、弓を教えてやる」

「え……本当?」

「ああ」


 そしてヴィオは僕に弓を教えてくれた。ヴィオの教え方は上手くてとってもためになったよ。

 ラリサのついでだけどな……。


「また真ん中だ。ラリサさんは筋がいい!」

「元々、目はいいんです」

「あ、アレンは惜しかったな。軸がぶれないようにしろ」

「う……うん」


 こんな調子だ。なんとなく釈然としない僕に、カラが声をかけて来てくれた。


「アレン、弓が上達したらあたしと狩りにいこうね」

「うん!」


 それは楽しみだ。僕はもう一度的に向かって弓を引いた。


「くっ……」

「アレン!」

「ああっ!?」


 なんだよカラ。変な時に声をかけたら危ないじゃないか。


「どうした?」

「あの……父さんが来たみたい」


 カラは森の方を見ている。僕もそっちに目をやると、ルアオがいた。


「アレン」

「ルアオさん。いらっしゃい。珍しいですね」

「ああ……」


 相変わらず寡黙な人だ。


「父さん、どうしたんです」


 ヴィオがカラを連れて僕達のところに近づいてきた。


「お前達は何を遊んでいるんだ。ちゃんと役に立っているのか」

「今のは弓を教えていたんですよ」


 ヴィオが気まずそうに頭をかいた。


「まあいい。説教をしに来た訳ではない」


 ルアオは再びくるりと僕の方を向いた。


「アレン、君が『ムム病』を治したと聞いた」

「あ……はい、そうです。カラやヴィオの様子を見てると治したと思います」

「そうか。そんな君にお願いがあるんだ」

「はい……」


 ルアオは地面に膝をつくと、僕に頭を下げた。


「どうか集落に来て、村人を診てやってほしい」

「えっ……いいんですか、村に行っても」

「こちらから遠慮して欲しいと言っておきながら虫のいいことだとは思う」


 ルアオはさらに深く頭を下げた。


「しかし、村には身動きの取れない年寄りもいる。どうか……」

「あっ、頭を上げてください。もちろんです、僕が役に立つなら行きますから」

「本当か……!」


 ルアオは頭を上げると、僕の手をがっしりと掴んだ。


「ええ。カラ達にはとても助けられていますし、僕も村の人の役に立ちたいです」

「そうか、そうか……」


 ルアオの目にじんわりと涙が浮かんだ。


「ありがとう……」


 こうして、僕はカラ達の集落に行くことになった。




「本当に私達はついていかないで大丈夫でしょうか」


 僕に荷物を渡しながら、セドリックは心配そうにそう言った。


「カラとヴィオがいるから問題ないよ、そうだろう?」


 僕がそう言うと、カラは頷いた。


「アレンの身の安全は私達兄妹が必ず守る」

「……お願いします」


 こうして僕はドキドキと高鳴る胸を押さえながら、カラの集落に向かった。


「はぁはぁ……」

「大丈夫か。背負おうか?」


 険しい道のりに僕が息を乱しているのを見て、ヴィオがそう聞いてくる。


「いや、大丈夫」

「そうか。まぁあと少しだ。がんばれ」


 それからちょっといったあたりに集落はあった。森の中のちょっと開けたところに円形状の屋根が連なって一つの棟のようになっている。

 これが集落……。


「来たか、アレン」

「ルアオさん。おじゃまします」


 僕はカラの真似をして手を合わせてお辞儀をした。


「こちらに来い。村長むらおさに会わせよう」

「は、はいっ」


 僕はルアオの後に付いていった。そして一際屋根の大きい一棟の建物の前に付いた。


「座ってくれ」

「はい」


 ルアオが椰子の葉を編んだ敷物をすすめてくれた。そこに座っていると、若い女性に手を取られて、しわしわのお婆さんが現われた。


「白い肌のぼうや。ようおいでなさった」


 その声は柔らかく温かい感じがして、僕はちょっとほっとした。


「ぼうやのスキルで『ムム病』を治せると聞いたが本当か?」

「はい。できます」


 そう答えると、村長のお婆さんが体を震わせながら手を合わせた。


「おお、神よ。海の外からの恵みに感謝します……」

「村長さん……」

「ぼうや、この病は死にはしないが辛いもんじゃ。どうか村人を癒やしてはくれないか」

「はい!」


 こうして僕は村に泊まりがけで村の人たちを癒やすことになった。村の人口は30人くらい。僕が癒やせるのは一日五人くらい。


 年寄りや子供を優先にして、僕は毎日ぶっ倒れるくらいまでスキルを使った。


「うう……」

「アレン、無理しないで」

「大丈夫、あと一人くらいいける」

「でも……」

「カラ、ここの人達は僕の領地にとってきっと大事な人になるんだ。その人達が苦しんでるんだもん。まだ休めないよ」


 そうして無理をして五日目……ようやく村人全員の治療が終わった。


「はぁ……」

「ご苦労様。あったかい飲み物を持ってくる。ゆっくりしていて」

「うん」


 僕はカラの持って来たココナツの匂いのする飲み物を啜りながら、クッションに身を預けた。


「やった……! やりきった」


 そう呟くと、僕の意識は遠くなっていった。

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