14話 LET'S GO!! ぷかぷか丸

「なんだあれ……」


 いや、鈍い僕にだって分かってるよ。カラの兄さんのヴィオはラリサに一目惚れをしたんだろうと思う。

 まぁ無理もない。うちのラリサは可愛いからな!

 だけどその辺のたいした事ない男には指一本触れさせないぞ。


「まさか毎日来たりして……」


 そんな僕の懸念は翌日から現実のものになった。


「おはよう!」


 朝っぱらからやたら元気に山から下りてきたヴィオ。それを見て僕は食べかけのバナナを喉に詰まらせそうになった。


「すみません、兄さんが付いてくるって聞かなくて」


 どうやら強引にカラに付いてきたらしい。彼女は困ったような顔をして、僕に頭をさげた。


「いや……まあ構わないけど」


 ラリサに気があるからといって、乱暴してくる訳でもないし来ちゃ駄目とは言いにくい。


「あ、じゃあお茶でも」

「いえいえ、お構いなく! あ、水汲み行ってきますよ」


 ヴィオはラリサからバケツを奪い取るようにして、意気揚々と水場に向かっていった。


「恋という病はげに恐ろしき……」


 セドリックはそうぼそぼそと呟きながら、完全に引いている。


「すみません! すみません!」


 カラはさらにぺこぺこと頭を下げた。


「親切な人ね、カラのお兄さん」


 ただ肝心のラリサだけは何にも気付かずにニコニコしていた。


「ご、ごほん。えーっと、今日はぷかぷか丸の試運転だ」


 昨日は改造に時間がかかって日暮れを迎えてしまったからね。

 本格的に島を巡る前に、強度やスピードや動かし方の練習をしておこう。


「よっし!」


 僕は濡れても構わない下着姿になって岸に繋いでいたぷかぷか丸を引いてきた。


「セドリック!」

「はい!」


 セドリックが風のスキルを使って筏を操る。横の強度は大丈夫みたいだ。


「もう少しスピードを出してみましょう」

「しっかりつかまったよ! レッツゴー」


 ふわりとセドリックの髪が風に吹かれて立ち上がる。


「風よ吹け!」

「おおーっ」


 すーっとぷかぷか丸が前進する。早い早いっ、すごいぞ。ミシミシ言ってる! ……ん?


「んぎゃあああっ!?」

「あ、アレン様!」


 そしてバッターンと音がしてマストが倒れた。しまった強い風を当てすぎた。


「アレン! セドリックー! 大丈夫か?」


 端で見ていたカラが駆け寄ってきた。


「マストが折れた! 直さなきゃ」


 僕はぷかぷか丸に手を添えて魔力を籠めた。


「『修復』!」


 折れたマストがみるみる元に戻る。カラはそれを口をあけてポカンと見ていた。


「すごいすごい! アレン、今のはスキルか!?」

「うん、そうだよ」

 

 そっか、カラたちにもスキルってあるみたいだ。


「僕のは『修復』なんでも直せるスキルだ。あっ、そーだ! 村で壊れたものがあったら持って来てよ。お世話になってるお礼に直すから」

「わぁ! 本当になんでもいいの」

「もちろん」


 カラは両手を挙げて喜んだ。なーんだはじめからこうすれば良かったんだ。


「カラのスキルはなぁに?」


 僕はふと気になってカラに聞いてみた。


「うーん……」


 するとカラは口ごもった。


「あっ、聞かなかったほうが良かったかな。ごめん」


 僕も『修復』が役に立つって分かるまではスキルを聞かれるのが嫌だった。すっかり忘れてたよ。


「いや、そんなことない。あたしのスキルは『強力』。体の何倍もの大きさの物を持ちあげたり、強い弓を引けたりする」

「すごいね」


 この森で生きるのにぴったりなスキルだ。

 なんでさっき口ごもったりしたんだろう。その時の僕にはまだ、カラの表情の意味が分かっていなかった。


「あれ? そういえばラリサは?」


 ラリサもカラと一緒に砂浜から筏を見ていたと思うんだけど。


「あ……兄さんと狩りに……」

「えっ」

「だ、大丈夫だと思うよ。兄さんはあれでも紳士だから」

「う……うん」


 ヴィオも妹の信頼を裏切るようなことはしないだろうし、ラリサの腕っ節はセロン領でも随一だ。心配はいらないんだろうけど。


「なんでラリサかなぁ……?」


 もちろんラリサもいつかお嫁に行くんだろうけど、今じゃないし相手はアイツではない!


「お館様ーっ、獲れました!!」


 そんな風に僕が苦悩していると、山からニコニコ笑顔でラリサとヴィオが帰ってきた。


「ウサギが獲れました。ヴィオの弓の腕前は本当にすごいです!」

「いやぁ……」


 興奮して僕に説明するラリサ。そしてその横でにやついているヴィオ。


「あとで、毛皮のなめし方も教えてもらいます。鹿革の時は駄目にしてしまいましたから……」

「う、うん。そっか、よかったね」

「あ、出来上がったらもちろんお館様のベッドの敷物にしますよ?」

「うん」


 ラリサは毛皮の使い道に不満があるのかと思っているみたいだけど、違う。そうじゃないんだ……。


「明日は伝統の漁の方法を教えて貰えるそうです!」

「た、楽しそうだね」

「ええ! きっと美味しい魚を捕ってきますから楽しみにしていてくださいね」


 僕はラリサのキラキラの笑顔を見て、なんかちょっとヴィオが気の毒になったのだった。

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