13話 筏を作ろう!

 それからカラは毎日のようにやって来ては、僕達を助けてくれた。

 島に自生する食べ物、そして食品のいい保存方法や、虫除けの薬草、それから狩りのコツなどなどを伝授してくれる。漁具も譲って貰えてラリサも上機嫌だ。

 僕と同じ歳なのに、カラには生きる為の知恵が沢山備わっていた。


「カラ、いつもありがとう。カラのおかげでここの暮らしが随分楽になった」


 僕はカラと一緒に採ってきたキノコを洗って干しながら、お礼を言った。


「もっとお返ししてできればいいんだけど」


 ルベルニア本土から持って来たものを毎回はあげられないのが悔しい。特にカラが気に入ったサラサラの甜菜糖はあとちょっとしかない。


「なにか困ったことがあったら言ってね」

「うん!」


 カラはにっこりと無邪気に笑う。その笑顔には何も悩み事なんてないように見えた。


「保存食も豊富になりましたし、また探索をすすめられますね」


 賑やかになった食料棚を見てセドリックがそう言う。


「そうだね。野宿のコツをカラに聞こうか」

「それなんですが、ちょっとずつ作っていたコレを使おうかと……」


 セドリックは灯台の影から何やらズルズルと引っ張ってきた。何本かの木を縄で括ってある。


「これは……」

「筏です。潮の流れに乗れば歩くよりずっと早く島を回れると思うんです」

「なるほど。さっそく海に浮かべてみようよ!」


 僕たちはワクワクしながら服を脱いで筏を海に浮かべた。


「帆を張れば私の風のスキルで方向転換も出来ます」

「なるほど。やってみよう!」


 僕とセドリックは筏の上に乗った。ちんまりした帆を張って、セドリックがそこに風をぶつける。


「あっ、動いた動いた」

「どうです、これなら探索も容易に――」


 その時だった。大きめの横波がざぶんと筏にぶつかった。


「わぁっ!?」

「あっ!!」


 その衝撃で僕とセドリックは海に投げ落とされる。ず、随分揺れるな……。


「ひっくり返っちゃった」

「うーん、本にある作り方では上手く行きませんでしたか」


 セドリックは悔しそうにしている。


「おーい、何してるんだ!?」


 そんな僕達の様子を見ていたカラが駆け寄ってきた。


「筏を作ったのですが、うまく浮かばないんだ」

「ふむ……」


 カラはセドリックが作った筏をじっと見つめると、棒を拾ってきて砂浜に何か描きだした。


「こうしたらいいと思うよ」

「おお! なるほどですね」


 セドリックはパッと見ただけでカラの描いた図の意味が分かったらしい。

 そんなセドリックの先導で、木を用意した。


「ここをこう渡して……」


 筏の横に太い木を渡して、それを細い木で繋ぐ。四つ足の動物みたいな姿になった筏を見て、僕はセドリックに尋ねた。


「これってなんの意味があるの?」

「横に浮力を持たせました。これで風が吹いてもひっくり返りづらくなりました」

「へぇ……」

「あたしの村のカヌーの形はこうなってるんだ」


 なるほど……? まぁひっくり返らないならそれでいいや。


「じゃあこれで完成だな! まだ見ぬ島への冒険……頼むぞぷかぷか丸!」


 僕は改めて完成した筏のマストをばしっと叩いた。


「アレン様……ぷかぷか丸というのは……」

「うん! 筏の名前だよ」

「……はぁー」


 セドリックは何故だか大きなため息をついた。


「カラ、ありがとうね」

「ううん、なんてことないよ」

「あ、日が沈みかけてる。時間とらせてごめん」


 水平線に太陽が触れかけて赤く輝いている。これから森に入るのは危なくないかな。僕がそう考えた時だった。


「カラ!!」


 いきなりカラの名前を呼ぶ、聞き覚えのない声がした。


「あ、兄さん」


 カラがそう呟いて振り向く。

 そこにはルアオに少し似た青年が立っていた。その髪の色はカラと同じ銀髪だ。


「遅いから迎えにきた」

「ごめんなさい」


 カラのお兄さんはズンズンと僕達の方に歩いてくる。


「兄弟の一番上のヴィオ兄さんだよ」

「……おう」


 カラが僕に紹介してくれたが、ヴィオはぶすっとしたままだ。


「お前がアレンか」

「そ、そうです……」


 ヴィオは僕を上から下までじろりと眺めた。そして口の端を歪めてこう言った。


「生っ白いッ!!」

「はぁ!?」


 そりゃあそちらの皆さんのように肌は褐色じゃありませんけど……。

 そんなのどうしようもないじゃんか!


「兄さん、いきなり失礼!」

「む……」


 今度はカラが不機嫌になってしまった。兄妹げんかは後でやってくれませんかね。


「カラ、これ持っていって」


 その時、ラリサが干し魚を持ってやってきた。


「いいよ。ラリサ、気を遣わなくて」


 カラはラリサに首を振った。


「でも……」

「いいって。さ、兄さん。日が暮れる。帰ろう」


 カラはヴィオの腕を引っ張った。しかしヴィオはびくとも動かなかった。


「兄さん……?」

「……綺麗だ」


 ぽつりとヴィオが呟く。ん? 何だって?


「ラリサさんとおっしゃるんですか? 俺はヴィオっていいます。カラの兄です」

「まぁ、いつもお世話になってます」


 カラの兄と聞いてラリサが微笑み返す。するとさっきまでしかめっ面だったヴィオの頬がだらしなく緩む。


「あ、あははは……」

「うふふ」


 なんだあれ! なんだあれ!

 僕が動揺している間に、カラとヴィオはそそくさと帰っていった。

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