11話 卵を食べよう

 先住民の人達との交流はひとまず少しずつ、ということになりそうだ。


「またお土産を貰ってしまった……」


 こっちはお茶を振る舞っただけなのに、卵を六個も貰ってしまった。


「夕飯はオムレツかしら」

「わぁ……オムレツ大好き」

「それだけじゃお腹が膨れないですから、漁にいってきます」

「わかった、セドリック! 僕達もなにか食べ物を探してこよう」


 日が暮れるまでまだもう少しある。

 ラリサはいつもの潮だまりに魚を探しに、僕とセドリックはべえこちゃんの散歩がてら西の砂浜まで行くことにした。


「べーえ、めーえ」

「どうどう、ベえこちゃん。あんま引っ張らないでってば」


 綱をぐいぐい引っ張りながらべえこちゃんは先に進んでいく。僕は躓きそうになりながらなんとかそれについていく。


「もっしゃ……もっしゃ……」

「うんうん、いっぱい食べてお乳を出してくれよ」


 少し進んで椰子の群生しているあたりにたどり着いた僕達は、木の幹にべえこちゃんを繋いであたりの食料を探した。


「おっ、あったあった」


 もうおなじみになってしまったバナナ。黄色く良く熟したものをナイフで刈取る。

 甘くてねっとりした食感が美味しい。

 それから青いものも。こちらはフライパンでよく焼くとホクホクしておいものようになる。

 本土から持って来たビスケットを食べきってしまってからは、主にこれが僕達の主食だ。


「セドリック、なにかあった?」

「いつもの椰子と……これも椰子の実みたいです」

「木の実みたいだね」

「持って帰って調べてみます」


 固い殻の椰子の実と違ってオレンジ色っぽい果物みたいだ。


「他にもフルーツが欲しいな」


 今の所、見つけられてる果物は味がぼけぼけのあんまり美味しくないボケりんごくらいだ。食後のデザートに美味しいフルーツが欲しい!


「もうちょっと森の奥に入ってみようか」

「かまいませんが」


 と、いいつつセドリックは少し嫌そうな顔をする。

 僕もその気持ちは分かる。なんでって……虫がすごいんだ。

 カラ達は気にせず森を闊歩していたけれど……もしかしてなんかコツとかいい薬とかあるのかな。今度聞いてみよう。


「じゃあ行こう」


 僕達は生い茂る葉っぱをかき分けて、森の中に入った。


「あっ、あそこになにか成ってる……ぺっぺっ」


 黄色い実を見つけて、僕はセドリックに知らせた。その間にも口に虫が入る。あー、もううっとうしい!


「これはパパイヤです。熟したのも青いのも食べられます」

「へぇ」

「青いものは野菜のようにして食べるそうです。ここにはキャベツもカブもないですからちょうどいいかもしれませんね」

「では持てるだけ採っていこう」


 僕とセドリックは熟したものと青いパパイヤをそれぞれもいだ。

 その時だ。ブーンと嫌な羽音がした。


「わっ! 蜂だ……っ」


 やっぱり! 黄色と黒の忌々しい縞々が飛んでいるのが見えた。うう、僕は昔蜂に刺されたことがあって苦手なんだよ。


「セドリック! 早く出よう」


 僕はここから一刻も早く出て行きたくてセドリックの袖を引っ張った。


「うーん」

「セドリックってば!」


 何をぐずぐずしてるんだよ。刺されちゃうよ。


「いや、蜂がいるってことは蜂蜜が採れるなぁ……と」

「蜂蜜!」


 それは欲しい。


「けどどうやって蜂から採るの?」

「巣を壊せば採れると思います」

「刺されるじゃないか!」

「しょうがない、今回は諦めますか」


 セドリック、正気か? 蜂を怒らせたらバチくそ刺されるよ!

 僕はまだ未練がましくしているセドリックを引っ張って森の外に出た。


「はーっ、じゃあ帰ろうかべえこちゃん」

「べーっ」


 蜂蜜が無くたって収穫としては十分だ。

 僕達は収穫したフルーツと椰子の実を持って灯台に帰った。


「ただいまー」

「あっ、お帰りなさい」


 ラリサはもう先に帰って火を熾しているところだった。


「何か獲れた?」

「はい、蟹が捕れました。だた小さいのでソースにしようと」


 ラリサは椰子の木の殻に蟹を入れて、木の棒で突いた。それを山羊のミルクで煮立てて風味をうつす。


「蟹のクリームソースです」

「いい匂い」


 ラリサはそれからオムレツを作って、そのソースをかけ、スライスした青パパイヤでサラダを作った。


「バナナも焼けたよ!」

「それでは食事にしましょう」


 卵なんてひさしぶり。僕はぱくりとオムレツを口にした。うーん、美味しい。新鮮な卵にコクのあるソースがまた合う!


「いやぁ……ラリサが料理上手で良かったぁ」

「ふふふ、口についてますよ」


 僕が思わずラリサを褒め称えると、ラリサはうれしそうにしながら僕の口元を拭った。

 おっと、がっつきすぎだ。ちょっと落ち着こう。


「そうだ、ラリサ。蜂の巣がありましたよ」


 もぐもぐとオムレツを頬張りながら、セドリックが思い出したように呟いた。


「あら。そしたら蜂蜜が採れるんじゃ」

「でも蜂を怒らせずに採る方法が分からなくて。今度カラに聞いてみましょう」

「是非。蜂蜜は欲しいですね。蜂蜜があったらアレを作ってみたいです」

「アレってなに?」


 僕は思わず話に割って入った。


「お館様。そろそろ食べたくないですか? ……ケーキ」

「ケーキ!?」


 そ、それは食べたい!


「卵も手に入りましたし、そこのバナナを使ってケーキにするっていうのは」

「賛成! 大賛成!」


 僕は勢い良く手を挙げた。

 よし、なんとしても蜂蜜を手に入れてやる。刺されるのは嫌だけど!

 そこはカラの知恵に期待だ。

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