4話 交易品を見つけたい

「そんな訳でね、なにか動物がいたみたいなんだよ」

「ほう」


 捕まえて食べる気まんまんの僕だったけれど、セドリックが厳しい顔をしているのが気になった。


「この島には大型の肉食獣はいないと思ってましたが……もう少し用心したほうがいいかもしれませんね」

「に、肉食獣……」


 そっか、逆に僕が食べられちゃう可能性もあったのか。

 僕はそう思うと背筋がぞーっとしてきた。


「それじゃあ罠を作りましょう」

「そうですね、柵も必要です」


 僕達はそれで三日かけて罠と柵を作って拠点の周りに設置した。セドリックはできれば堀も作りたいと言っていたけれど、島の土壌は硬くて僕達の持って来たスコップでは無理そうだった。


 分かっていたけど……ひとつひとつ自分達で作っていかないとなにも進まない。歯がゆいな。


 そんな気持ちを払拭する出来事が起こったのは四日目の朝だった。

 僕がいつものように水汲みに出かけると、途中に掘ってあった罠に何かがかかっている。


「……わっ! 鹿だ! ラリサーッ、鹿、鹿だよ!!」


 僕が斜面をころがり落ちるようにして、ラリサに知らせると、彼女は槍を持って穴に突き刺した。


「ピイーッ」

「うっ……」


 初めて鹿を仕留めるところを見た僕はちょっと引いてしまった。けれどラリサはそんな僕には目もくれずにウキウキしながら穴から鹿を引きずり出した。


「お館様、足を持って下さい」

「う、うん」


 僕達は沢まで鹿を引っ張っていき、解体をした。ラリサは手際よく皮を剥いで、肉を切り分けていく。


「慣れているね」

「お祖父様が狩り好きでしたから、よくやらされました」


 肉を切り分けて、その辺のバナナの葉に包んで僕達は灯台に戻った。


「今夜はお肉が食べられるぞ!」

「そうですね」


 そう言いながらラリサはかまどに火をつけている。


「その前に……痛まないうちにこれを食べちゃいましょう」

「えっ」

「鹿の肝臓です」


 ラリサはフライパンを熱すると、そこに小さく切ったレバーを並べた。香ばしい匂いが立ちこめる。良く焼いたところに軽く塩を振っていただく。


「うわ、甘い……美味しい!」

「でしょう。仕留めた者の特権です」


 ラリサが少し得意そうに答えた。


「何が特権ですか」


 そこににゅっと手を伸ばしてレバーをかっさらっていったのはセドリックだった。


「ああっ……わたしのレバー!」

「いいじゃないですか、私にも分けてくださいよ」


 食い意地の張ったラリサをセドリックは呆れた顔で見ると、ポイとレバーを口にした。


「ううん、美味い。こんな新鮮な内臓がいただけるなんて自然の恵みですね」

「そうだね」


 それから僕らは今夜食べる分以外の肉を塩漬けにした。


「干して、焚き火の火でいぶせばいくらか持つでしょう」

「ふーん、燻製か」

「実際やったことないですし、道具もないので見よう見まねですが」


 それでも、魚が捕れない日もあるかもしれないから蓄えがあるだけ安心だ。


「結局肉食獣じゃなかったってことかな、セドリック」

「どうでしょう?」

「例え大型の肉食獣がいたとしても、探索はしないとだよね」


 僕達が水場を探したり、漁場を見つけたりしたのは灯台からほんの少し行ったエリアでしかない。この島を治めるとしたら、島の全体像を把握しておきたい。

 なにより……。


「この島ならではの交易品をなにかみつけないとだ」

「そうですね、次の連絡船が来た時に物資と交換するものがあるといいですね」


 今の所、一番喜ばれそうな交易品は……水だ。これじゃあまりにもなさけない。

 この間みつけたピンクの木の実はぼけた林檎のような味であまりおいしくなかったし。


「よし、明日は少し遠くまで探索に出よう」

「はいそうしましょう」


 こうして、明日は食料の調達を二の次にして島の西側に足を伸ばすことにした。


「水と干し肉とバナナ。みんなそれぞれ持った?」

「はい万全です」


 翌朝、僕達は朝食を終えると水筒に水を汲んで、バナナの葉に食料を包んで鞄に詰め込んだ。


「では行きましょうか」


 三人で連れ立って砂浜を歩く。セドリックは時折懐中時計を見ながら手帳になにかメモしている。距離と所要時間を調べているようだ。


「あ!」

「どうしたんだい、ラリサ」


 何もないまま歩いていると、ラリサが海岸に向かって走り出した。


「これ見てください」

「なんだこれ……」


 ラリサが海岸から拾ってきたのは大きな丸い木の実のようなものだ。


「食べられるのかな?」


 コンコンと僕はその実を叩いてみる。表面は固く、なにやらチャプチャプという音がした。


「これは椰子の実ですね。ほら、そっちにも成っています」

「ああ、本当だ」

「中には水が入っていて、中身ももちろん食べられます」

「そうか。じゃあ拾って置こう」


 僕達は椰子の実を小脇に抱えて、先を急いだ。


「あ、山が途切れた」

「見てください、平地ですアレン様」


 海岸にせり出すように迫っていた山が急に途切れたかと思うと、平地が現われた。


「農地を持つとしたらこのあたりになりますね」

「ああ。やはり平地は少ないね。島だから」


 僕とセドリックがそう話していると、ラリサが僕らの肩を叩いた。


「あれ、見てください」

「え……? わ、山羊だ!」


 緑の草地を白い山羊が何頭か横切っていくのが見えた。


「ああ、弓とか縄を持ってくればよかったです」


 ラリサはそう言って悔しがっている。確かに山羊がいれば乳が手に入る。


「今日は偵察だ。後日捕まえにこよう」


 僕はそう言って、がっかりしているラリサを慰めた。人を警戒しているようには見えないし、きっと捕まえられるさ。

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