3話 なにかいる!
午後からは僕らは力仕事に勤しむことにした。
とにかく急務なのは寝床の整備だ。
「かゆっ……」
昨日は床に直接毛布を敷いて寝たのだが、何かの虫に刺されたみたいでポツポツ赤くなっていた。
それでまずはベッドを作ろうということになったのだ。
「そこの木を切って組み立てて、バナナの葉とかを敷けばそれなりになるんじゃないですかね」
セドリックはそう言ってのこぎりをラリサに渡した。
「体力仕事はお任せします」
「ああ」
ラリサは不敵な笑みを浮かべると、森に向かって歩き出した。
「ラ、ラリサ……!」
「どうしましたお館様」
「僕も手伝うよ。それにラリサは女の子なんだし」
「それがなんなのですか。三人しかいないのだし、それぞれ向いたことした方がいいですよ」
「そうなんだけどさぁ」
ラリサは剣を抜くと、それを握りしめた。刀身が赤く光る、とくるりと剣を振った。
バサバサっと音がして大きな葉が何枚も落ちてくる。
「お館様は、運ぶのを手伝ってください」
「はい……」
いらん心配だったようだ。僕がずるずると葉っぱを背負って灯台に戻ると、セドリックは外で何か石を積み重ねていた。
「セドリックは何をしてるの」
「これはかまどを作っています。熱効率を高めて薪を節約する訳です」
「なるほど」
それから三人で、ラリサが切ってきた木を蔦で組んでベッドを作った。
ついでに積み荷の木箱を再利用して椅子とテーブルらしきものを作ると、灯台はずいぶんと住居らしくなった。
「やっと文明人らしくなってきたね、セドリック」
「そうですね」
僕達はもうへとへとになって、その日はビスケットをちょっとかじってすぐに寝てしまった。
「朝です!」
次の日。僕はセドリックに揺り動かされて目を覚ました。
「おはようございます」
「おはよう、ラリサ」
ラリサはもうとっくに起きていたらしくて、かまどで昨日取って焼き干しにした魚を煮てスープにしている。
「なんか毎日ごめん」
「え?」
「ラリサは騎士なのに煮炊きを任せてしまって。コックがいれば良かったんだけど」
「ああ……いいですよ。死んだお祖父様と二人暮らしでこういうのは慣れているんで。前にもいいましたけど、三人しかいないのだから出来る者がやればいいんです」
「うん……」
僕達はスープと焼いたバナナを食べて朝食を終えた。
「じゃあ、漁に行ってきます」
朝食を終えると、ラリサは槍を持って東の海岸の方へと向かっていった。
「ラリサは働き者だな」
料理も出来て腕っ節も強いし漁も出来る。セドリックは色んな知識があるし。
僕は……何をしたらいいんだろう。
『修復』のスキルは何かを直す力だし。この手つかずの自然溢れる島ではそもそも直すものがない。
僕がラリサの後ろ姿を見送って、物思いに沈んでいるとセドリックがポンと何かを渡して来た。
「ん? 石鹸?」
「ラリサに体を流してこいと言われました。ヒゲも剃れって」
セドリックは顎に生えた無精ヒゲを撫でている。
「あ、後でもいいんじゃない? 水汲みをしてからで」
「私達が行かないと、ラリサが水浴びできないでしょう」
「あー……」
なるほど。気が利かなくて申し訳ない。僕達は着替えのシャツを持って昨日見つけた川まで行った。
「わぁ、冷たい! 気持ち良い!」
「滑らないように気をつけて」
ブーツもズボンも下着も脱いで、すっぽんぽんになった僕らは川に身を沈めた。海風でベタベタした体を洗い流すとさっぱりするな。
「セドリックは意外と体格いいんだね」
付き合いは長いけれど、この時僕は初めてセドリックの裸を見た。脱ぐと意外と引き締まっている。
「貧弱では女性にもてませんからね。いずれアレン様も逞しくなりますとも」
「うん」
僕達は川から上がってシャツを洗うと灯台へと戻った。
すると丁度同じ頃にラリサも戻って来た。ポタポタと水を滴らせている。
海に潜っていたようだ。
「ラリサなにか獲れた?」
「はい、この魚を。銛じゃないのでやりにくいですね」
「漁具がいるか……次の連絡船に頼むとして、手に入るのは半年先になるね」
うーん、失敗したな。なんとかして作った方が早いかもしれない。
「じゃあ僕は水を汲んでくるよ」
僕はバケツを手にして水場に向かった。昨日ラリサが木を切って回ったので大分歩きやすくなっている。
「他に何か食べられそうなものないかな」
僕はキョロキョロと森の中を観察しながら奥に進んだ。
「これは食べられるのかなぁ」
森の中で見つけた淡い桃色の小さな木の実をいくつか採ってみた。甘い林檎みたいないい匂いがするから食べられそうな気がするんだけど。
「はー、着いた」
水場について僕はバケツに水を汲んだ。三回くらい往復しないと駄目だな。
ガサッ
「ひゃぁ!」
その時、後ろの茂みからガサガサッと音がして僕は飛び上がった。
「誰ぇっ!? 誰かいるの?」
返事は無い。僕の脳裏にセドリックの言っていた『恐ろしい原住民』の話が浮かんだ。
ナイフしか持ってないのに襲われたらどうしよう!
「……」
物音が止んだ。僕はそーっと音のした辺りの茂みを覗く。
何もいない。僕はほっとして立ち上がった。
「はっ……! もしかして動物か? うさぎとか鹿とか」
この島にどんな動物がいるか分からないけど。
そっか、魚ばかりじゃ飽きるから狩りをしてもいいな。
僕はひっくり返してしまったバケツに再度水を汲んで灯台へと戻った。
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