2話 孤島の生活

「……アレン様、朝ですよ!」


 セドリックの声だ。うっすらと目を明けると、そこは灯台の中だった。そうか、昨夜はここで毛布にくるまって眠ったんだっけ。

 ルベルニア本土ではない温かく湿った風を感じる。


「ラリサが朝食の準備をしてくれています」


 僕が外に出ると、ラリサが湯を沸かしてお茶を淹れていた。


「果物とビスケットしかありませんが」

「十分だよ」


 船から持って来たオレンジを切り分けて、固く焼き締めたビスケットをお茶に浸しながら朝食をとる。

 さて、島に上陸して二日目。領地経営以前にどうやって生きていくかが問題だ。


「まず何をするべきかな」

「水源の確保でしょうね」


 ふうふうとお茶を冷ましながら、セドリックは答えた。


「そこの水瓶に一杯しか真水がありません。元々遠洋航海の水の補給にこの島は開発される予定でしたから、どこかに水はあるはずです。開発は隣国との戦争が始まってで頓挫しましたが……この灯台もその時の名残でしょう」

「なるほどね。食料は?」

「切り詰めれば一週間ほど。でも食べられるものがあるに越したことはないですね」


 僕達の持ち込んだ物資は、果物少々、あとはビスケットに芋と小麦粉に調味料にお茶。それから布や衣類、工具や農具、刃物類。あとは筆記具や私物など。


「では沿岸部を調査しつつ海に流れ込む川を探す、ついでに食べられそうなものを探す、だね」

「はい、それがよろしいかと」

「それじゃ、セドリックは西、ラリサは東の方向で僕は……あれ?」

「アレン様は私と西側にいきましょう。そっちの方が開けてますので」

「それなら三人しかいないんだし僕は山の方を……」


 そうセドリックに言うと、彼はブンブンと首を振った。


「噂でしかありませんが恐ろしい凶暴な原住民がいるとか」

「原住民!?」

「鋭い牙と爪を持って襲ってくるそうです」

「ええーっ。そしたらラリサも一人じゃ危ないじゃないか」


 僕がそういうと、ラリサはふっと笑って腰の剣を引き抜いた。


「そんなものは、このラリサの炎の剣で吹き飛ばしてやります」

「そ、そっか……」


 仕方が無いので、お互い山の奥の方まで入り込まないように約束をして僕達は探索に出かけた。


 それにしても原住民って……。それも領民に入るのかなぁ。

 だとしたら、彼らからどうやって税を徴収したらいいのだろう。


「アレン様! 行きましょう」


 僕は前途多難だな、と思いながらセドリックについていった。


 灯台の西側は白い砂浜が広がっている。島の内部、山の方面にはすぐ森だ。セドリックは森との境目あたりの土を摘まんだ。


「軽石に火山土です。あの山は火山なのですね」

「つまりどういうこと?」

「飲用に適した水がある可能性が高まりました。あとは、そうですね……温泉があるかもしれません」

「温泉!」


 うまく温泉を掘り当てたら保養所として人気になるかもしれない。ぼくはちょっとワクワクして山を見あげた。


 そうして二人でてくてくと海岸沿いを歩いて行く。


「あ! セドリックなにか成ってる」


 青い房状のものが木から成っているのが見えた。あれは何かの実じゃないだろうか。

 まだ熟してないように見えるけれど。


「バナナですね。青いものは火を通すと芋みたいだとか」

「やった、食べ物だ」


 僕はセドリックに肩車をしてもらい、ナイフでその実を切り取った。よかった。とりあえず手ぶらで帰還せずに済みそうだ。


「アレン様、川です」

「本当だ」

「辿ってみましょう」


 僕とセドリックは細い川を辿ってみた。すると山の中腹に水が湧いているのを発見した。


「綺麗な水だ。念の為煮沸はするとして、濾過は必要なさそうですね」


 セドリックがほっと胸を撫で降ろす。


「ほら、こちら側から行けば灯台もそう遠くありません」

「本当だ」


 いいところに水場を見つけた。僕達は灯台の方の斜面をナイフと鉈で切り開きながら灯台に戻った。


「あれ、何か煮てる……?」


 拠点である灯台に戻ると、焚き火の煙が上がっているのが見えた。きっとラリサだ。


「おーい、ラリサ! お土産を見つけたよ」


 僕がそう言ってバナナの房を手に戻ると、ラリサは焚き火から顔をあげた。


「ああ、お館様。こちらも大漁です」

 

 見ると、ラリサの足元には魚と貝があった。それを煮込んでスープを作っているようだ。


「潮だまりがあって、そこに槍をついたら沢山とれました」

「わぁ、すごい」

「残念ながら水場はなかったのですが」

「こっちにあったからそれは大丈夫」


 僕は鍋を覗きこんだ。お昼は魚介スープが食べられそうだ。そこに水を差したのはセドリックである。


「この魚と貝に毒はありませんかね」

「え、毒!?」

「見た目も派手ですし、食べる前にチェックした方が」

 

 そっか、毒か……まるでそんなことを考えなかった。あれ、ラリサ……何か顔色が……。


「毒……どうしましょう……わたし、食べてしまいました……」

「えっ……」

「お腹が空いて、つい」


 ラリサは青くなったり赤くなったりしながらオロオロしている。


「ま、その魚と貝はこの図鑑では食べられるって書いてありますけど」

「なっ!?」


 見ると、セドリックは分厚い図鑑のページを開いてニヤニヤしている。


「セドリック殿!」


 ラリサは真っ赤になってセドリックに食ってかかった。


「ラッキーでしたね。次からは調べてから食べましょう」

「う……はい」


 こんなことがありつつ、僕達は水と食べ物の確保をすることが出来たのだった。

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