第2章
第二章
5月15日 王都、セイクリアル
一週間後、王都、セイクリアル。
道中、いろいろあったりはしたが、何とか無事にたどり着くことができた。
その道中にクリの名前も決定し、クゥ、ということになった。
(クライン)「お前・・・・・す、少しは、た、戦え・・・・」
(アクア)「はぁ、は。た、戦ってるでしょ・・・・・、も、モンスターと、勇者を討ち取りに来た尾補修段が少し多かっただけで・・・・・」
(クゥ)「くぅ、くぅピィ~」
私たち二人と一匹は王都につくなり、周りも気にせずにその場に座り込んでしまった。
私たちのそんな行動を、王都の人たちはくすくす笑いながらも、暖かいまなざしで見てくれていたので、私たちもそれほど嫌な気持ちになることもなく、その場に座り込んでいた。
(???)「あの、そこに座っていると馬車とかに踏まれますよ」
(アクア)「へ?」
私たちの行動を見かねたのか、女の子のかわいらしい声が私たちにかかり、私たちはふとそちらに視線を向けると。
(行商人)「おらおら、そこのアブ・・・・・!」
(???)「え、ちゃぁ!」
危ないといった張本人が、王都に入ってきたばかりの馬車に引かれ、盛大に吹っ飛ばされた。
私たちは一瞬、何が起きたのか理解できず、その場を見ていた通行人も、その動きを止めて固まってしまった。
(アクア)「はっ・・・・・ちょっ、ちょっと!」
(行商人)「だ、大丈夫かい?」
私と、馬車を運転していたおじさんが、慌てて彼女の元へと駆け寄ると、彼女は見るからにボロボロのかっこうになっていた。
(???)「だ、大丈夫・・・・・・『神の祝福を』ふぅ、これでなんとか?」
女の子は、ボロボロの姿で、よく分からないことを呟くと、その服と傷が見る見るうちになくなっていく。
(ヒカリ)「あ、どうもはじめまして、私ヒカリと申します、以後お見知りおきを」
(アクア)「え、あ、えっと、よろしく、ヒカリちゃん」
道のど真ん中で、土下座しながら挨拶する彼女の光景はどう考えても、この人おかしい人かも、でまとめてもまったく問題ないと思ってしまった。
それに、その格好は上が白、下がミニスカの赤という、巫女服に似てはいるものの少し違う、なんとも不思議な格好なものだから、それもまた、頭にくえっしょんマークを増やす原因になっていた。
(クライン)「お前らはこんな所で何をしている」
(アクア)「え、いや、ついね」
(クライン)「あほかお前は?」
クラインは憎まれ口をたたきながら、巫女服もどきの少女を見て、また面倒なのが、などと一言余計なことを言いながら。
(クライン)「さぁ、行くぞ、最弱」
(アクア)「ふぅっ!」
(クゥ)「ぴーーーー!」
私は、そのままどっかに行こうとするクラインに、いつもどうりクゥを掴むとそれをクラインの後頭部に向かって投げる、それは見事に命中した。
ここ1週間ちょっと、同じようなやり取りで、私は何かと勝手に話を進めようとするクラインに、クゥを投げつけていた。
(クライン)「おい、いつも言ってるがクゥが悲惨だろ!」
(アクア)「クゥだって怒ってるのよ」
(クゥ)「く、クピクピ!」
三者三様に勝手なことを言いだした私たちを、謎の巫女さんはなぜかニコニコそれを見守っており、止めに入るなどということもしなかったが。
不意に口を開いて、ぼそっと一言。
(ヒカリ)「夫婦なんですか?」
(クライン・アクア)「「何でそうなるの!」」
私たち二人は、あまりにもとんでもない発言に、同時に反応してヒカリにそういうと。
(ヒカリ)「え、だってアレじゃないですか、こういうのを世間では夫婦漫才と・・・・・・」
(クライン)「め、夫婦・・・・これと・・・・・こんな最弱勇者と・・・・・」
(アクア)「し、失礼ね、私だってこんなひねくれ者で、魔王の幼馴染となんて嫌よ」
(クライン)「おま、バ!」
私の発言に、あわててクラインが両手で私の口を塞ぎ、周囲を見る。
幸い、町の人たちに今の話は聞かれなかったようだが、ばっちり約一名には聞こえていたらしく、その少女は瞳を大きく見開き、私たちを交互に見ながら、なぜか顔を見る見る赤くしだした。
いったいどうしたというのだろうと、不思議に思いつつ、まずいことを聞かれたという焦りから、恐る恐る声をかける。
(クゥ)「クピ?」
(アクア)「ど、どうしたの?」
クゥも不思議に思ったのか、少女の前でピョンピョン跳ねながら鳴き、私もおそるおそるではあるが聞いてみると。
(ヒカリ)「いや、あの・・・・・こんな人の多いところで接吻などと」
(アクア)「は?」
(クライン)「え?」
私たちの恐れていた答えとは、まったく別の答えが返ってきたものだから、私たちはそろってフリーズしてしまい、息を吸うのも忘れその少女をじっと見つめていた。
(ヒカリ)「あの、私何か?」
何か、も何もない。今の、魔王がどうのという話から、どうして接吻につながるのか、まず私はそこを説明してもらいたい。
クラインもあまりの出来事に、いつもはひねくれた一言でも言いそうなところを、今はもうどうしたら良いのかわからない、というように動けなくなり、ただただ目をしばたたかせながら、少女を見ていることしかできなくなっていた。
(アクア)「あ、あの、魔王の幼馴染・・・・・って話だったと思うんだけど・・・・・」
(ヒカリ)「え、あ、はい。すごいですねぇ、魔王さんと幼馴染なんですねぇ」
恐る恐るではあるが、私がそう話を切り出すと、彼女はなんだか感動したかのように驚きながら、目を輝かせてそんなことを言った。
(アクア)「ず、ずれてる・・・・・・」
天然、そう言われるものだろうか。
話には聞いていたけど、まさかここまで一般の思考とずれた考えと答えが出せるなんて。
などと感心している場合ではなく。
先日の魔王登場事件・・・・私にとっては事件、それ以来こういう天然とか、美少女を愛する変体とか、にっこり笑顔の悪魔とか、ああいうのに係わってろくな目にあわない、ここは速やかに分かれるのが良いかもしれない。
そう思考をめぐらせていたが、その考えは一匹の無邪気なお供によって打ち砕かれた。
(クゥ)「ピー、ピー!」
(ヒカリ)「あらあら、かわいい」
どういうつもりか知らないがクゥが少女に懐いており、さらに甘えていた。
(クライン)「お前の考えていることはだいたい理解できるが・・・・・・手遅れだ」
(アクア)「・・・・」
クゥの行動に落ち込んでいたけど、それよりも、このクラインに心を読まれたことのほうが落ち込むのはどうしてかしら。
などと悠長なことを考えていないで、この場を離れなければ。
(クライン)「それより、リステアたちはもう着いてるんじゃないのか?」
(アクア)「ああああ、そうだった!」
(クライン)「忘れてたのか、この最弱勇者は・・・・・」
すいません、本気で忘れてました。
本来の目的を思い出した私たちは(主に忘れていたのは私だけ)立ち上がると、私はクゥを鷲づかみにし、肩に乗せると、クラインとアイコンタクトをとり。
(アクア)「ごめん、急用を思い出したの、また今度ね!」
(ヒカリ)「あら、はい、ではまたお会いしましょう」
私たちは、少女のその言葉を背後に聴きながら、走ってその場を離れ、王宮へとその足を向けた。
王宮に着くと、門番はその場に倒れており、その周囲にも同じように一般人が倒れているのが目についた。
この一角だけ待った区別の空間になっていた。
王城がこんな状況なのに、どういうわけか町の方はそんなこととはまったく無縁で、穏やかなものだ。
そのあまりのかみ合わなさに、異様なものを感じる。
(アクア)「どうなってるの?」
(クライン)「結界・・・・・・精神的と知覚に干渉型の結界だ。町の人たちがここに近寄らないようにと、この状況が見えない結界だ」
(クゥ)「クゥピ?」
(アクア)「それで、何で私たちはこれが見えてるの?」
(クライン)「お前のその剣だ・・・・・いいから行くぞ、手遅れになる前に!」
私は肯くと、走り出すクラインの後を追いかけながら、本当にこの剣、聖剣だったのねなどとなった得していた。
というのも、聖剣ですと渡されたけど、いまいち実感がわかないでいたからだ。
うさん臭かったし。
などと感心しながら、城内に漂うに嫌な空気を必死で意識しないようにした。
廊下を突き進むうちに、あることに気が付く、誰もいないのだ。
誰もいない、といっても普通なら誰か倒れていてもよさそうなものだという意味だ。
それなのに、誰一人として倒れているものもいなければ、人の気配そのものがないような、そんな異様な感覚が体にねっとりと絡みつく、まるで、泥沼にゆっくりと足が埋まっていくような嫌な感覚だ。
(クライン)「これは・・・・・・本気で・・・・・急ぐぞ!」
(アクア)「え、なに?!」
私の問いかけには答えず、クラインは走る速度を上げると、腰にある剣を鞘から抜きさらに速度を上げていく。
何をそんなに焦っているか分からないけど、あまり状況はよくないということだけは私にも理解でき、私もその足を速めた。
王の間に付くとそこには、リステア、アリス、グラの後姿が見え、それと対じする様に、一人の若者と、それを守るようにして老兵を中心として多くの兵が彼女たちを囲んでいたが、リステアたちは余裕の笑みを浮かべていた。
(リステア)「おお、やっときたよ、私は退屈してたのよ」
(アクア)「リステアさん・・・・・・やっとて・・・・・」
(リステア)「いやぁ、途中適当なモンスターと、適当な山賊と、適当な馬鹿どもを手なずけて最弱勇者を襲うように言っておいたから、もしかしたら、こないかなぁ、とか思ってたけど、クラインがいるから大丈夫かと思って」
(アクア)「・・・・・」
アレはあなたの仕業ですか。
そう思いつつ、確かに、なんだかやたらと私たちに突っかかってきていた。
この人たちが何かしたと考えるのが普通だったのだろう。
まさに、ありがた迷惑である。
(国王)「何だ、そこの美少女は!」
(クライン)「・・・・・」
そんな私たちの会話を断ち切るように、国王らしい(正確には、はぜんぜん国王に見えない少年)が大きな椅子に座りながら目を輝かせ、身を乗り出しながら言うと。
(リステア)「駄目よ、そこの最弱勇者は私が倒してからゆっくり楽しむんだから!」
(国王)「何を言う、貴様はこの国の美少女だけでは満足せんのか」
(リステア)「何を言ってるのかしら、世界中の美少女を愛しているから世界征服なのよ。だからこの町も明け渡しなさい」
(国王)「ふふふふ、貴様、私を美少女愛好家だと知っての発言か」
(クライン)「・・・・・」
え、えーと、これはアレなの?
(国王)「この国などどうなろうとかまわんが、美少女だけは渡さんぞ!」
(アクア)「アンタもそっちの人か!」
思わず国王に突っ込んでしまった。
どうしてこの世界は上に立っている人は、こういうのばかりなのだろう。
しかも国民はどうでもいいんですか。
(アリス)「うわぁ、最弱勇者さん、すごいわねぇ」
(アクア)「アリスさん、その呼び方やめてください、私の名前はアクア。アクア・リスカよ」
(クライン)「へぇ、初めて知った」
(アクア)「え・・・・・言ってなかったっけ?」
クラインが、初めて聞いたなぁという。
思い返してみれば確かに言った覚えがないし、よく考えればクラインに名前を呼ばれたことが一度もない気がした。
何度となく、何で名前呼ばないんだろう、などと考えていたけど、私が言ってなければ知るわけもないんだから、当然といえば当然だ。
(リステア)「アンタ、本当に勇者なの?」
(アクア)「うるさいわよ、魔王のくせに!」
あまりの自分の間抜けさに、顔が見る見る熱くなるのが分かり、どうしていいのか分からなくなる。
恥ずかしい気持ちを振り払い、私は目の前にある問題に目を向ける。
相手は魔王含めて3人、こっちは王様とその御付き、その他もろもろ、でもかなりの人数ではある。
しかしこの三人には余裕がある。どう考えてもおかしい。
(クライン)「このままじゃ・・・・・良いかよく聞けアクア」
(アクア)「な、何?」
(クライン)「リステアが魔法を使った瞬間に、ここの人間全員が終わりだ」
クラインの言っていることが理解できなかった。
魔法といってもいろいろな種類がある、この人数、ざっと見ても数百、いる状態で魔法一発でどうにかできるわけがない。
古代魔法、もしくは魔王家に伝わる、何か、ならば話は別になってくる。
クラインの焦りようからして、まず間違えなくそれらのたぐいなのかもしれない、どうかはわからないけど、この焦りようは信用してもいいのかもしれない。
(アクア)「どうするの?」
(クライン)「良いか、国王周辺の馬鹿は使い物にならない。この際どうなってもいいかぐぁぁぁ、何する、このヘッポコ!」
(アクア)「どうなってもよくない」
(クライン)「そんなこと言ってる場合じゃない、どんなてぐぁ、お前!」
(アクア)「どうなってもよくない」
私は思いっきり肘でクラインの懐に打撃を入れると、表情を変えることなく言う、それでも彼がそういったので、再度同じことを言いながら打ち込むと、彼は黙り込み、私の顔を見たまま動かなくなった。
(アクア)「クゥも良いね」
(クゥ)「クピ!」
(クライン)「はぁ~、自分のことも守れない勇者が・・・・・」
(アクア)「それはそれ、これはこれよ。人の命に小さいも大きいも、どうでも良いも、どうでもよくないもない。皆、一緒なの」
私は、一人と一匹にそう強く言うと、彼らは私の言葉をちゃんと受け止めてくれたのか、仕方ないという表情をしながらも、どうやら納得してくれたらしい。
(アクア)「良い?」
(クライン)「・・・・・あいつに魔法を使わせないようにする、俺が突っ込んでアリスの動きを封じる、クゥはグラを何とかしろ」
(クゥ)「クゥぴぴ!」
(アクア)「私はどうするの?」
(クライン)「リステアをどうにかしろ、一様勇者だろ、魔王のことは勇者がどうにかするのが・・」
(アクア)「リステアに近寄りたくないだけでしょ、ややこしいから」
(クライン)「・・・・・さぁ、行くぞ」
あ、話そらした。
そんなことを思いつつも、すぐにクラインの後に続き、クゥもその後に続く。
私たちが動いたことにリステア達が気が付かないわけもなく、すぐに三人とも私たちに振り向いた。
(国王)「よし今だ、全軍こ・・・」
(リステア)「五月蝿い、邪魔」
(アクア)「避けて!」
リステアが右手を頭上に持ってくると、それを彼らに向かって振り下ろした。
次の瞬間、兵士たちが一瞬にして吹っ飛び、壁に次々と叩き付けられる。
森で私に見せたアレを彼女は何の表情も見せずに、そちらに振り向くことなく使い、まるで何事もなかったかのようにしている。
そのとき私は、この人はやっぱり魔王なんだと思ってしまった。
普通に話しているときは、ただの普通の女の子なのに、そう思わずにはいられないぐらい自然だった彼女が、今は表情を見せない。
(クライン)「アクア、茫然と突っ立てるな!」
(アクア)「う、分かってるわよ」
クラインがアリスちゃんに襲い掛かり、アリスちゃんはうれしそうに右手を前にかざすと、クラインの剣は何かの壁に阻まれるようにそこで止まり火花を散らす。
(アリス)「あらあら、本気ではないのですか?」
(クライン)「本気出して良いのか?」
クラインは苦笑いを浮かべながらそう言い、アリスちゃんも同時に同じような表情をしながらお互いに距離をとる。
私は一直線にリステアに向かって駆け出す。
クゥが私の前に出ると、リステアの前に立ちはだかるようにしてグラが現れ、それに向かってクゥが突進していく。
(グラ)「不思議なクリね、本当は最弱なのに・・・・・っ」
(クゥ)「ピィー!」
突進するかに思えたクゥは、素早く空中で体の位置を変えると、その体はふわりと横にずれ、着地とともに、もの勢いで突進していき、グラのわき腹に一撃を与えると、すぐに距離をとりながら相手の四角に張っていた。
私は、それを横目で見ながら、鞘から剣を抜くと、その走った勢いと、剣を抜いた勢いでリステアに切りかかる。
だが、どこから出したのか、リステアの手には剣が握られており、その剣で私の精一杯の一撃を受け止めた。
(リステア)「あらあら、剣ぐらいは振れる様になったのね」
(アクア)「あなたの嫌がらせのせいでね」
私あ皮肉たっぷりに笑顔を浮かべながらそう言い、すぐにリステアを睨み付ける。
彼女は実にうれしそうにしながら私の剣を振り払い、後ろに振り返ると、いつ背後に回ったのか、リステアの背後に国王が居りリステア剣を向けて振り落とした。
しかし、しっかりと存在に気が付いていたリステアは、不意打ちにもかかわらずそれをぎりぎりで回避する。
(リステア)「抜かりないわね」
(国王)「それぐらいじゃないと、国なんか治められなくてぐっ」
(リステア)「邪魔よ!」
回避したリステアは右足を振り上げると、国王の懐に蹴りをかまし、その次に魔力を剣にこめると、それをすかさず振り下ろす。
振り下ろされた剣先から赤い魔力の塊が王宮の床を抉り取りながら、まっすぐに国王に向かっていき、国王はそれを避ける事もできずにまともに直撃した。
リステアの動きは、まるで舞いでも舞っているかのように軽くしなやかで早い、思わず見とれてしまう。
その流れるような動きで自分の身を守っていた。
(兵士)「国王陛下!」
(リステア)「人の心配、してる暇は、ないわよっ」
(アクア)「くっ、きゃぁっ!」
私が一瞬、気を緩めた瞬間に、その隙を逃さずリステアは私へと距離をつめると、は剣を振り下ろし、私はそれを慌てて防いだまではよかったけど、とっさのことでバランスが悪く、またその一撃に魔力がこめられていたこともあって、あっさりと弾き飛ばされ、王宮の床を錐揉みしながら転がり、あっちこっちを打ちつけ、どこが痛いのかわからないまま、立ち上がろうとする。
(リステア)「ふふふ、いいわぁ、良い、美少女のその顔がまたそそるのよ~」
リステアは身震いしながら、とても湿っぽい怪しげな視線を私に向ける。
(アクア)「変態・・・・・」
(アリス)「的確の表現だけど、性格には超ド変体よ」
余裕があるのか、にっこり悪魔さんのアリスちゃんが私のつぶやきに、クラインと対じしながら一言つぶやく。
私はといえば、全身が痛い、息ができない、体は熱いわで、もう何がなんだかわからなくなっていた。
対するリステアはと言えば、息一つ乱すことなく、涼しい顔で玉座の前に立っていた。
(???)「『神の祝福を』」
何か声がしたかと思うと、体がみるみる軽くなり、傷もゆっくりとなくなっていく。
私はあわてて自分の体を見ると、水色の光が体を包み込み、温かな光に全身が包まれてゆくのを感じた。
最初何が起きたのか分からなかったけど、どうやら誰かが何かをしてくれたようだ。
(ヒカリ)「こんにちは」
(アクア)「へ?」
王宮にある無駄に多い柱の一つからひょっこりと姿を現したのは、巫女もどき格好の、さっき会った少女、ヒカリだった。
(アクア)「えっと・・・・・・ヒカリさんだっけ?」
(ヒカリ)「はい、覚えていていただいたんですね、私うれしいです」
(リステア)「なに、もう一人居たのね・・・・・いつの間に?」
なにやらもう一人現れたことにうれしそうなリステアをよそに、私は突然現れたヒカリさんを見ると、彼女はにっこりと微笑むと。
(ヒカリ)「魔王さんに会いたくて」
ヒカリのその言葉に、目をらんらんと輝かせながら、まるで子供が新しいおもちゃお手に入れて大喜びをしている弾んだ声でリステアが答える。
(リステア)「え、私に用事。なになに?!」
(アクア)「何でうれしそうなのよ・・・・・・」
聞いてすぐに後悔した。
というのも、こんな格好で顔が整っている少女だ、まずまちがえなく、この人の反応と答えは一つしかなくなる。
(リステア)「美少女だからに決まってるでしょ。しかも巫女服よ!」
(アクア)「知らないわよ」
もう本当に係わり合いになりたくない。
そう思っている私をよそに、リステアは興奮した様子でヒカリの答えを待っていると。
(ヒカリ)「私の姉を返してください」
(リステア)「?????? あああ、思い出した。一人居たわね、あなたと似ている巫女服の女の子、帰ったら、ちゃんとかわいがろうと思ってて忘れてたわ」
(ヒカリ)「『空の煌き、神の裁きを』」
リステアの答えが気に入らなかったのか、そう口ずさむと右手を相手に掲げる。しかし、何もおきなかった。
(リステア)「あらあら、神の代行者も・・・・・っ!」
突然、リステアの言葉をかき消すようなすさまじい音ともに、王宮の天井を突き破り青白い何かがリステアに降り注ぐと、視界が奪われ身動きが取れなくなる。
数秒だろうか、数分だろうか、多少時間がたつと視界が戻ってきた。
けど、なにやら耳が少しおかしいような気がする、どうやら耳鳴りしているようだ。
(リステア)「な、なに?」
(アリス)「リステア・・・・・・」
(グラ)「テア!」
アリスちゃんとグラがあまりの出来事に、慌てて彼女に駆け寄ろうとすると、彼女の周りに渦巻いていた白い煙が一瞬にして吹き飛び、無傷のリステアがそこにたっていたが、その表情は険しく、ヒカリを睨み付けていた。
(リステア)「二人とも、戻るわよ、面倒になったわ・・・・・あんたは殺すわよ」
(ヒカリ)「・・・・・姉は返してもらいます」
ヒカリの問いかけには答えず、リステアは最後にいらだった表情で、残っていた兵士たちを一瞬で戦闘不能にすると、その場から一瞬にしてその姿を消した。
(アクア)「ふ、ふぅ~、ったぁ」
(ヒカリ)「まだ痛みますか?」
気が抜け、私はその場にへばると、体中が痛むことに気が付いた。
どうやら、さきほどの回復は外面的な回復に過ぎず、中身はちゃんと痛むらしい。
(ヒカリ)「ごめんなさい、私の力は体を活性させて直すものなので、完璧とはいかないのです。それに・・・・動けないのも、体を活性化させるときに体力を大幅に消費したからではないかと思われ・・・・」
(アクア)「大丈夫だよ」
ヒカリちゃんは、そのままにしておくと永遠謝りそうだったので、私は彼女の言葉をさえぎってそう言うと、でも、と言い出しそうな彼女に、にっこりと微笑みかける。
すると彼女は納得していないものの、それ以上は何も言おうとしなかった。
(クライン)「それで、こんな危ない場所に・・・・・何しに、はもうわかってるが、危なすぎる。ふざけているが、アレでも魔王だ」
私たちの会話にクラインが割って入ってきて、開口そうそうにヒカリちゃんにそう言い放つ。
(ヒカリ)「存じております。何せ、私の目の前で姉をさらったのですから」
(クゥ)「クピクピ?」
(ヒカリ)「ありがとう」
ヒカリちゃんの表情が曇りだしたのをすぐに察し、クゥがヒカリちゃんに飛びつくと、ヒカリちゃんはうれしそうに微笑んだ。
しかし、よくもまぁあの数分で王宮をこんなにめちゃくちゃにできたと、そう思ってしまうぐらい、王宮はぼろぼろで、兵士たちも動けずにそこに倒れていた。
そこでふと、何かを忘れているような気がして、それが何だったのかと周囲を見渡すと、ぼろぼろの国王がゆっくちと立ち上がるのが見えた。
(アクア)「あ、忘れてた・・・・」
(クライン)「あのリステアと一緒だからなぁ・・・・生きてたか。くたばってくれれば色々な人のためになったというのに」
(アクア)「クライン何か言った?」
(クライン)「気にするな、独り言だ」
(クゥ)「クピィ~」
三者三様に国王が生きていてよかったか、よくなかったのか微妙な心境だった。
国のための国王であるはずなのだが、別に居ないほうが平和なのではと一瞬でも思ってしまった。私って。
(国王)「お前たち・・・・・」
(アクア)「よく生きてたわね」
(国王)「何を言う、この私が美少女に囲まれないで死ねるか!」
「「「「・・・・・・」」」」
私たち四人は、同時に思った。
そんな理由で生きてるんですか貴方は・・・・・国民が聞いたら泣きそうな気もしなくはない。
それはさておき、あの攻撃を受け続けて生きているのだから、腐っても国王だということなのだろう。
(国王)「今失礼なことを思わなかった?」
(アクア)「いえ、気のせいです」
一瞬声に出ていたのかと焦ったけど、どうやらそんな事はなかったようだ。
そんな私の心境など気にせず、国王は口を開いた。
(国王)「それは良い・・・・・急いで大魔法使いクリスに会い、その力を借りて魔王を倒せ」
(ヒカリ)「今回復を『神の祝福を』」
あまりにひどい傷に、ボート眺めていたヒカリは、われに返ると急いで回復をはじめ、国王はそんなヒカリの候にうれしそうな・・・・・・その視線がいやらしい視線であることを私は気が付き、どうしたものかと思った。
(クライン)「変態だこいつも・・・・」
クラインがこの国の王様に暴言を吐きながら、その腰の物を抜きそうだったので、私は、すぐに話を戻した。
(アクア)「それで、どこに居るの?」
このままだと私も、国王を二度と立てないようにボッコボコにしそうなので、すぐに話を聞きだして、早急にこの場を去りたかった。
(国王)「ここから南に城がある、その城が彼の家だ。行けばわかる、何せここより大きいからな」
(アクア)「わかったわ。ヒカリ、貴方はどうするの?」
(ヒカリ)「私も、アクアさん達とご一緒させてください」
(クライン)「アレの後を・・・・まぁ事情があるみたいだから仕方ないか」
文句の一つでも言うかと思ったけど、クラインはそれだけを言うとヒカリが同行することを許してくれた。
(クライン)「っていうか、お前がこのリーダーなんだから、好きにすれば良い」
(アクア)「え、わ、私なの?」
クラインが突然そんなこと言うものだから、私はどうしたらいいのかおどおどとしていると、ヒカリが。
(ヒカリ)「不束者ですが、よろしくお願いしますね、アクアさん」
(アクア)「え、あ、うん」
そこは嫁に嫁ぐ気なの、などと突っ込んだほうがよかったかもしれないが、リーダーなどといわれたものだから、もう何をどうしたらいいのかわからない状態だったけど、ただ一つ言える事があった。
(アクア)「これからよろしくね、心強いよ」
(ヒカリ)「はい」
屈託のない笑みを浮かべたヒカリに目を奪われ、茫然としているところにクラインが口を開く。
(クライン)「最弱勇者よりは本当にやくにぐぁ!」
(クゥ)「く、くぴ~」
(アクア)「一言、余計なのよ!」
私は、にやりといやらしい笑みを浮かべながら言うクラインに、近くに居たクゥをつかむと投げつけた。
こうして私達は王都から南にあるといわれる城へと、向かう事へとなった。
新たな仲間を求めて。
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