第3話 髪の長い女

 ある夜勤のこと。

寝つけずにずっと起きてた患者さんがいた。

いわゆる昼夜逆転。

昼間にできるだけ起きているようにするが、つきっきりというわけにはいかない。

なので昼間に寝てしまい、夜に寝れなくなってしまう患者さんも多い。

その患者さんもそのひとりだった。


 薄闇の中、ベットに腰掛けたまま虚空を見つめている。

寝たい時に寝られない、それは想像以上の苦痛だ。

巡視中に声をかけた私に、その患者さんは震える指を向けて言った。


「ほら!あんたの後ろに!髪の長い女がいる」


 背筋が凍る。

そんなはずはない。

ナースステーションを出て、真っ直ぐにこの部屋に来た。

相方の看護師はナースステーションにいたのを確認している。

私はひとりで来た、はずだ。


「ほら!そこ!」


 私が考えている間にもその患者さんはしきりに私の後ろを指差して訴える。


「鏡に映った私じゃないですか?」


 できるだけ冷静に答える。

私の背後には部屋の洗面台に設置された鏡があるはずだ。

そこに映った私を見ているのだろう。

年配の方は視力が衰えているため見間違えたのだ。


「違う!あんたじゃない!全然違う!」


 確かに私の髪は短いし、もう一人の看護師もショートカットだ。

だから長い髪の女なんて、いるはずがない、のだ。

ならば、私の後ろにいるのは、誰?

背中に冷たい汗が流れる。


私は、ゆっくりと、振り向いた。


そこにいたのは――。


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