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第10話 私について

 私は小さな頃から、同じ時間を繰り返す事が出来た。


 初めてそのことを自覚したのは、私が幼稚園に通っていた時だった。

 最初、夢かと思った。なんだか周りが昨日と同じことを言ったりやったりしているのを見て、昨日の夢を見ているのかと思ったものだ。それから夢の中で一日が終わって、目が覚めたと思ってもまた同じ事の繰り返しで、流石におかしいと幼い私も思った。

 そのことを正直に伝えても周りの誰もが信じようとしないので、相手が言おうとしたことや行動を先んじて指摘したら皆そのことを気味悪がった。結局、その次の日も繰り返しが起こってそれは皆の記憶には残ることはなかったのだが、私はそれで気がついた。私だけ同じ一日を繰り返しているのだと。

 最初は自分でも信じられなかった。だが、現実に起こっているのだから疑っても意味のないことだった。


 自覚してからしばらく、その繰り返し現象は私の意志に関係無く起こったように思えた。それに規則性は全く見いだせず、アトランダムに起こるものだと私は一種の諦めのようなものさえ抱きつつある頃のことだった。

 小学校に上がった私はあるとき、思い出すのも恥ずかしい醜態をクラスの皆の前で晒してしまったのだ。詳細は省くが、このさき一生記憶に残って思い出す度に大声で叫んでのたうち回りたくなるほどの出来事だった。

 私は家に帰ってから寝る前に「繰り返しよ起こってくれ!」と強く願った。そして寝て起きると、願った通り繰り返しが起こっていた。

 私は思った。「私の意志がきっかけになってるんじゃないか」と。


 それは正しかった。

 自然現象だと思っていた繰り返しの現象は、私が強く願うことで意図的に発生させることができた。それに気がつくと、私はその力を喜んで使った。その日一日に起こる出来事が全て分かるのだ、後はやりたい放題だった。

 学校の授業でテストがあったりする日には問題を覚えてしまえば満点を取るのは簡単な事だった。

 けれど、それからしばらくして私は繰り返しを日常的に行う事は控えるようになった。使うにしても周りに影響を与えるような使い方ではなく、自分の内だけで完結するような使い方に留めるようになった。

 気がついたのだ。繰り返しが引き起こす問題に。


 繰り返しが起こると、当然のことながら私以外の人はその前の周回の記憶を引き継ぐことはなく、私だけがそのことを記憶してた。それが何を引き起こすかというと、自分と他人との間での記憶の齟齬だった。

 ほぼ毎日のように同じ日を数回繰り返していると、そのうち周りが保持している記憶と、分の中の記憶のどれが共通のものか把握出来なくなっていった。最初は些細なすれ違いで済んでいたがそれはどんどん大きなズレとなり、最終的には私の言ったことのほぼ全てが相手の記憶にない話になってしまった。

 それに気づいてから私は以前のように私から人に話しかけることは少なくなった。その頃には周りとの精神年齢の乖離も大きくなっていたせいでクラスメイトと交流を持つこともなくなっていた。

 それからというもの、私はもっぱら繰り返しを可処分時間を増やすために使うようになった。繰り返しを使えばほぼ無尽蔵に時間を増やすことが出来るのだ。それは素晴らしいことのように思え、私は図書館に通うようになり本の虫となった。


 中学に上がる頃には、私の精神年齢はたぶん18歳相当になっていたと思う。繰り返した回数を記憶している訳ではないから正確な数字ではないが、多分それくらいは同年代より多くの時間を過ごしていたと思う。

 そのせいかクラスメイトの皆はどうしても子どもっぽく見えてしまい、自分から友達を作ろうという気にはなれなかった。話しかけられればそれに答えるが、自分からは関わりを持たない。私のその態度のせいか、彼らも妙に萎縮しているようで友人と呼べるような関係は誰とも築くことができなかった。

 授業も退屈で仕方なかった。様々な本に触れてきたおかげか中学の内容程度なら教科書を数回読むだけで十分に理解が出来た。テストでも、大した勉強をすることなく好成績を収めることができた。

 クラスメイトともあまり関わらず、授業で得るものもほぼない。それでも学校に通い続けたのはひとえに両親への気遣いからだった。


 中学に入ってから一年が経ち、二年生になってからも私のスタンスは変わらなかった。

 自分からクラスメイトに話しかけることはせず、最低限授業を受けている姿勢だけはつくる。必要以上に繰り返しは行わない。

 去年はそれで上手くいっていた。今年もそれで上手くいくはずだった。

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