第9話 僕は今日死ぬらしい
「間島君、あなたは今日死ぬわ」
朝、学校に登校するや、藤崎が僕の席の目の前に立ってそう言った。
「は、え?」
突然のことに、僕は鞄から取り出しかけていた教科書類を取り落とした。
「死ぬ? 僕が? なんで?」
意味が分からなかった。
とりあえず、僕は床に落ちた教科書を拾い上げ机の中にしまった。
目の前の同級生は何を言っているんだ? 勉強しすぎて頭でもおかしくなったのか?
僕は静かに怒りが生まれるのを感じていた。
せっかく今日は目覚めが良くて気持ちの良い朝だったのに、すっかり最悪な気分だ。藤崎は僕に何か恨みでもあるのだろうか。
「……なんでそんなことを藤崎さんが?」
「見てきたから」
「え」
僕としては「どうしてそんな質の悪い冗談を、大して話したこともない藤崎さんが言うのか?」と訊いたつもりだった。けれど、帰ってきた答えは全く違うもので、さっぱり理解不能だった。
「見てきたって……何を?」
「間島君が、死んでしまうのを」
「僕が死ぬのを見たって、その、どういう。話が全然見えてこないんだけど……」
「私はあなたが死ぬのを見てきたの。何度も。そう、何度も、何度も……」
感情が先行しているのか、答える声は震え、彼女の話は要領を得なかった。
「わかった。僕が死ぬってのは、まあうん、とりあえず分かったよ。……それで、藤崎さんはどうしてそのことが分かるの? 見たっていうけど、僕はこうして生きてる。死んでない」
「これから死ぬの」
落ち着いてきたのか、藤崎は静かな声で答えた。
「私は今日という日を何回も繰り返してきた」
「……?」
「思えてないだろうけど、間島君とはこれまで何回も話をしてきた。色々な話をした。そして、あなたが死んでしまうのを何度も見てきた」
……藤崎はこんな冗談を言う人だったのか?
しかし、彼女はにこりともせず口を横一文字に結んでいる。
「……つまり、藤崎さんはタイムトラベラーってこと?」
彼女の言葉を真に受けるとそういうことになる。
タイムトラベラー。口に出してみると、その響きに思わず噴き出しそうになる。
「そこまで大げさなものじゃないけど……うん。そう言ったほうが分かりやすいのかも」
一人で納得してから、藤崎はもう一度言った。
「そう、私はタイムトラベラー。今日を何度も何度も繰り返してるの」
「それって、いったい何のために?」
藤崎は言った。
「私は、あなたを助けるために来たの」
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