第4話:夢なら覚めないで

2人が初めて出会ったのは小学生の時に参加した全国児童交流会だった。友隆は大阪代表として、奈津実は東京代表としてそれぞれ参加していた。その時はお互いにひかれていたわけではなく、ただの友人関係でたまに手紙をやりとりする程度だった。その後、2人は別の人を好きになっていた。だから、手紙のやりとりも止めた。年に1度の交流会でも距離を取っていた。当時友隆とよく遊んでいた子は当時仲の良かった杏子、生まれたときから同じ街で暮らしている菜々子、幼稚園で友隆を助けてくれた隆介、いつも一緒に帰っていた寛貴など多くの人から慕われ、交流を深めていた。一方で、奈津実はどこかぽっかりと心に穴が空いてしまい、新たな友達などを見つける事なく、時間だけが過ぎていった。


 ある日、奈津実が学校に行くために通学路を歩いていると見たことがない男の人がこちらに向かって歩いてきた。見た感じは中学生か高校生くらいだろうか。自分たちよりも背が高かった。これは後で分かったのだが、実は同級生の彼氏だったのだ。奈津実はそのことを知ってびっくりした。なぜなら、彼は中学3年生で彼女の近所に住んでいる子だったのだ。もちろん、彼は友達として交友関係を持っているだけという関係性だと思っていたのだが、彼女は本当の兄のように慕っており、彼女は彼と本当に結婚できると思っていたのだった。


 その後も話を聞いていくと2人が付き合った経緯が特殊で、付き合うに至ることを考えても偶然かそれとも必然だったのか分からないくらいシンデレラストーリーだった。それは、彼女が小学校3年生の時にグループ活動のような機会が年に何回かあった。そこで、1人背が高くてかっこいいと噂の男子児童がいた。もちろん、他にもいたが、彼女の感性には理解が出来なかった。当時は恋心ではなく、“優しいお兄さん”程度だったが、彼女の中では地元の市立中学校に進学すると思っていた。しかし、卒業式に参加した彼女は思わず泣いてしまいそうになった。なぜなら、彼の制服が他の男子生徒とは違っていて、数人違う制服の子はいたが、彼も違う学校に行くことは理解できなかった。彼はスポーツ強豪校として有名な高校の付属中学校からスカウトされて、入ることになったのだ。その後、彼とは会うことはなくなり、自然に彼女の中では遠い存在になっていた。


 奈津実も友隆のことと彼女の心情が交差していて、なんとも複雑だった。彼女には初めての失恋のような感じだったのだろう。しかし、彼女は前向きに捉えて新しい人生を歩む決心を小学生ながらにしていた。


 彼女の失恋と同時に奈津実の生活も一変する。それは、両親の別居だった。当時妹たちはまだ6歳だったが、彼女たちが小学校に上がるために必要なものを3つずつそろえなくてはいけなかった。父親はローンや兄の高校の学費に塾の受講料、私と妹たちのピアノの教材費と受講料などを払っていたため月掛けの定期預金を崩すという判断をした。しかし、それをしたら今から5人もどのように育てていくのか?必要な費用を捻出するのか?といういわゆる経済的な問題が発生していた。母親も仕事はしていたが、派遣社員を経て契約社員だったため、収入の増減が激しく、子供たちの服は父親の姉が買って送ってくれていた。


 その後、両親は3年間別居生活を送ることになり、妹たちは彼女が面倒を見ることになった。妹たちは性格が真逆で、一番上は活発で、真ん中は空気を読まないと動けない、一番下はわがままとバラエティ豊かな3姉妹だった。父親は兄や弟に対してはいろいろと口を出していたが、彼女や妹たちには口を出してくれなかった。


 ある日、彼女たちはプールの授業が始まるため、学校指定のプールセットを買いそろえなくてはいけなかった。しかし、指定されていたのは水着とキャップだけだったため、そこまで高くないと思っていたが、彼女たちが選んだのは1セットで1500円もしたのだ。なぜなら、ラッシュガード付きの水着はラッシュガード分が上乗せされるので普通の水着よりも高くなる。おまけにその水着には下にレギンスが付いているため、水着と防護服を身にまとっている様な状態なのだ。とは言ってもまだ小学生なのだが、ここまで日焼けや露出を嫌がるとは思わなかった。確かに、今の時代は露出することはあまり好まない子が多いのは知っていた。もしや、姉を見てそのセットを選んだのならこの子たちは姉の背中を追いかけているということにはなるが、果たして学校の指定ではないこの水着を持って行くことが出来るのだろうか?また、母親は帰ってくるのか?姉の悩みは尽きなかった。

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