第6話:運命の分かれ道

夏休みが終わり、健太朗が中学校について悩んでいた。なぜなら、今年の区立中学校への進学する生徒が全体の65%で、残りの35%は私立中学への進学希望者だ。しかも、健太朗と仲の良かった仲間たちも強豪校の推薦をもらって私立中学校への進学がほぼ確定的になっていた。そのため、彼の中でどうするべきなのかと悩んでいたことで心が揺れ動いていた。


 実は幼稚園も付属幼稚園ではなく、普通の幼稚園に通っていたが、中学生になると将来を見据えて進学に有利な学校を選んで学習していきたいと思った。しかし、我が家には毎月高い授業料を払えるだけの経済力はない。そのうえ、健太朗自身にも奨学金を無利子で借りられるような学力も無い。


 翌日、彼は先生に相談をした。ただ、先生の顔はどこか難しい顔をしていた。


 すかさず健太朗は「先生どうしてそんな難しい顔しているのですか?」と聞いていた。すると、「他の子たちはスポーツ推薦のように何らかの特技がある子たちが例年私立校に進学しているのだけど、健太朗君の場合は学力一本で勝負することになるし、これまで入賞経験などの内申書に書ける成績がないから・・・。」とどこか消極的な意見が出ていた。そして、「今度の保護者面談でご両親にお話ししてからでないと学校としては健太朗君をどう指導していき、合格に向けてどう動くべきなのか分からない。」という答えだった。


 その話を聞いた健太朗は目頭を押さえながら面談室を出て行った。その後ろ姿をみて、先生は「何か悩んでいるのではないか?」と思ったが、彼に関しては誰からも情報をもらっていないし、彼のことで問題視された行動もない。先生は一旦学年主任の先生に報告し、学年主任と担任が校長・教頭・教務主任・中学校経験のある先生などにアドバイスをもらいに行った。


 しかし、最後に学力だけで私立校に進学した児童がいたのは10年ほど前でその子の内申点は問題なかったが、人間関係がうまくいっていなかったこともあり、当時の担任の先生もどうするべきなのか迷っていたという。そこで、両親との面談の際に相談したところ両親も彼の私立進学には反対はしなかったという。結果的には彼は志望していた中学校に合格し、今では有名な医者になっている。


 その話を聞いて、先生も彼にどこまで出来るか分からないが、可能な限り夢を応援しようと思った。


 そして、両親との面談日がやってきた。その日は担任の先生も緊張していたのか、順番が回ってくるのがどこか恐かったのだろう。


 まず先生は「健太朗君の進路に関してなのですが、私立中学校への進学を希望しているみたいなのですが、お話や相談を受けたことはありますか?」と聞いた。すると、両親は二人そろって顔を曇らせていた。


 その話をした時に両親の顔を見た担任の先生がどこか異変を感じていた。というのは、他の私立進学希望者の両親はかなり前向きに物事を進めていた。しかし、彼の両親はそうではなかった。


そして、母親と父親から衝撃の事実が告げられた。


それは・・・「私たちこのことを知りません」という答えだった。


 その答えを聞いて先生は天を仰いだ。なんと、彼は両親に対して、私立校への進学に関して一切話していなかったのだ。


 そして、両親からは「彼にはそのまま市立中学校に進学するように伝えたのですが、夏休み明けからいきなり勉強し始めたので何かあったのかと心配でした。」と担任の先生が彼に対して「面談までに健太朗君の気持ちをご両親に伝えておいてね」とあれほど言ったにも関わらず、彼は両親に告げていなかった。そのため、1次試験を受けるための願書が2週間後には学校必着になっていたが、その場でのサインはせず、一旦持ち帰って検討することになった。


 両親は彼の行動に対して憤っていた。というのは、彼が受験をすると言ったことで今まで貯めてきた定期預金を1件分解約し、受験の準備を進めなくてはいけなくなった。今まで彼は何かある度に両親に相談してきた。しかし、今回は相談することもなく、勝手に進学を決めてしまった。


 家に帰って、健太朗を呼び、優希と慎太朗、陽菜、優菜は優希の部屋で一緒に遊んでもらい、健太朗に話を聞いた。


 まず両親が「今日先生と面談してきたけど、学校生活は問題ないみたいね。」と普通の会話を数往復して、本題に入った。


「健太朗は卒業後どうしたい?」という話をした瞬間に健太朗は「しまった!」と思い、顔をそらした。そう。彼は両親に隠していたことが分かってしまったのだ。健太朗は「友達と一緒の学校に行きたいです。」と初めて正直に自分の気持ちを両親に告げた。


 すると、「健太朗が頑張るというならお父さんも仕事頑張って学費払うよ。」と言ってくれた。ただ、お母さんは「なんでこんな重要なことを言ってくれなかったの?」と憤っていた。母親には彼が自分の気持ちを隠していた理由が分からなかった。


 すると、彼が母親に向かってこう言った。「お母さんに言ってもどうせ否定するでしょ?だから、誰にも言わないで奨学金だけで高校まで行くつもりだった」と今まで彼が見せたことのないほど怒っていた。


 実は母親とは再び同じ屋根の下で暮らし始めてから何度もぶつかってきた。そして、彼は両親の顔色を見ながら過ごしてきた。それもあってだろう。今回のように周囲に黙って物事を進めることで母親を見返してやろうと思ったのだった。


 しかし、彼の中で願書まで取り寄せてしまえばこっちのペースで物事を進めると思ったのだ。


 その後、きちんと話合って無事に私立中学校への受験を受けられることになった。

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