第15話盗賊団クレイジー・ロバーツ

「待っていたわ、クリフォード・トーチ」

 山道よりも歌舞伎町の二丁目にいそうな男が水晶洞窟の出口で俺を待っていた。長身の浅黒い肌。刈上げに二本のラインが入ったシャープな顔立ちと盛り上がった筋肉に張り付く黒い革のボンテージ風の衣装。何センチあるのか分からない鋭角のヒールでハスターに水晶玉を売りつけていた物売りのおっちゃんを踏みしめていた。

 物売りのおっちゃんがスパイだったのか、可哀想な被害者なのかは置いておくとして他に取り巻きがいないのはラッキーだ。

「天下の盗賊団、クレイジー・ロバーツの頭目が何の用だ?」

 彼の名はロバーツ。マナコ一帯の盗賊団のトップだ。いくつか理由はあるがマフィアにも顔が利く人物なので覚えておいた。

「ま、情熱的。一回会っただけなのに覚えていてくれただなんて」

「あんだけ師匠をしつこく口説いてりゃ覚える」

 ついでにこのロバーツ、生粋の男好きである。好みのタイプはインテリ風。モール・リッドは好みド直球だったんだろうな……ってくらいに食らいついていた。なお二人っきりになった時に何かしたのか物凄い汚い悲鳴の後、モール・リッド率いる一団には全く近寄って来なかったのだがその仕返しだろうか?

 どんなエグイことをされたのか気になるところではあるが、せめて穏便に済ませたい。視界の端でおっさんが逃げて行くがまあどうでもいいとして。

「要求はなんだ。要件によっては聞き入れてもいい」

「あら、御師匠様とおんなじことを言うのね」

「手荒な真似は避けたいだけだ」

 ロバーツはマナコ一帯の盗賊団を取り仕切るだけあって、下手にメンツを傷つけると先々で盗賊団がアサシンの真似事を始めるのだ。これ以上追手が掛かるような事はしたくない。

「そう、私が欲しいのは貴方よ。――クリフォード・トーチ」

「へえ。何をさせたいんだ?」

 聖騎士捕まえて依頼するとは戦争でもおっぱじめる気かね。暗殺か?誘拐か?

「いやあね。ナニに決まってるじゃない。ナニに」

 瞬間怖気が走った。こいつ、よりにもよって俺の貞操狙ってやがる!俺のどこがインテリ風優男に見えるってんだ。褐色肌ブルネットのAPP18(6版基準)が悪いのか?全てを狂わせる美貌なのか、俺?

「なあんじゃ!お前の貞操で丸く収まるとは安いではないか!」

「そうよ。坊や物分かりがいいのねぇ」

「安くねえんだわ!人間にとって貞操は命懸けるもんだからちょっと黙っててくれない!!?」

 何一つよくねぇよ。何が哀しくてニンゲン如きの為にこのニャルラトホテプのケツの処女(これ言うのも相当嫌だが)を散らさにゃならんのだ。この際だからロバーツを殺してマナコ一帯の勢力図を書き換えてやろうか?

「あらこっちはお高くとまってるわ」

「わしに買い叩かれたくせによく言うわ」

 なんか妙に仲良くなってやがるのがまた腹立つ。打ち合わせでもしたんかお前ら。

「やだ、あなたたちどんな関係なの~!?」

 ロバーツの声が数段高くなる。変なこと言うなよ。絶対に言うなよ。

「ニャ……クリフォードの願いを叶える代わりに護衛にしたのじゃ。ふふふ、よく働くぞ」

「やだー!それってもしかして……」

 ああ、頭が痛い。ハスターの肉体は仮面の上からでも分かる美少年だ。仮面の美少年に仕える聖騎士とかその手の愛好者にとってはいいエサだろう。現にロバーツの視線は同好の士を見る目に変わっている。

「変な関係ではない!しょうがなく取引って形になっただけだ!」

「条件を出したら一発で落ちたくs……」

「はーい、黙ってような!」

 もはや最終手段とばかりにハスターの口をふさぐ。魔法は弾かれるので物理的に。そんな俺達をニヤニヤ見ていたロバーツは急に真剣な表情になり、言った。

「それじゃあ、本題に入らせてもらうわよ」

「おう」

 あーよかった。本題が俺の貞操じゃなくて。

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