第14話水晶洞窟の通過儀礼


 キンコンカンコンとツルハシの音が何処からともなく聞こえる。

 軍隊が通れるほど広い通路の天井は遥かに高く、空のよう。聖都周辺からの避難民と言えどその威容には目を見張るものがあるのか歩みをしばしの間止める者もいる。

「見ろ!あんなに大きな水晶が光っておる!」

「魔法でライトアップしてるんだよ」

 数秒に一度ライトアップされる場所が変わるのでイルミネーションも斯くやである。

 頭上に煌めくのは色とりどりの水晶群。人よりもはるかに大きな水晶が梁のように幾重にも横たわり、小さな水晶が星のように隙間を埋めている。

 具体的にはクエバ・デ・ロス・クリスタレスをカラフルにして夜空にぶち上げたものを想像して欲しい。

「お前はロマンがないのう……」

 ハスターははしゃいでいるが俺としては何回も見たプラネタリウムみたいなものなのであまり興味はない。こんなことなら呪術〇戦見てた方がマシである。漫遊記の視点としては最悪だ。自覚はあるんだ、これでも。

「まあ、この水晶の星空を見てはしゃぐのがここの通過儀礼だからゆっくり見とけよ」

「情緒もないな!」

「ついでにいうと出た直後に盗賊に身ぐるみ剥されるのも通過儀礼だからな」

「なんじゃこの洞窟!?治安はどうなっとるんじゃ!!」

 雑に言うと水晶洞窟の出口で自治体(領地)が切り替わるので港湾都市マナコまでの道は治安が悪いのだ。マナコのカジノで素寒貧になった連中が盗賊に身を窶したり、街道を守る守備隊の給料が低かったりするのが原因である。

 水晶洞窟から聖都ノーリアスまではノーリアス大聖堂の荘園がほとんどなので平時なら治安はいい。巡礼に来た信者が盗賊に襲われたとか噂がたつと色々と差し障りがあるのだ。

 アサシンに追われている今の俺や取るものとりあえず脱出して来た避難民はその欠片に縋っているのが現状だが。

 やっぱり治安関係に金を出し惜しみしたらいかんな。それ以前にマナコを拠点にしていた転生者の性根が良くなかったのもあるが。

「ハスター。お前妙なもの持ってたりしないだろうな。宝石だとか、金貨の入った袋だとか」

「そういうニンゲンが有り難がりそうなものはノーリアスでお前が改めたじゃろう。安心せい」

 それともこれもそうなのか?と差し出して来た土産物の水晶玉の数本のネックレスなどを受け取っておく。変に金持ってると思われかねない装備だなこれ。

 それはともかくとして、このハスターは妙な所で妙な真似をするきらいがある。まあ用心しておくに越したことはないか。

 マナコは王都に近くなる分、アサシンの質も上がる。マナコのアサシンはフリーの奴らよりもマフィアの子飼いが多くなるので狙われたら全滅させなければいつまでも追ってくるので面倒くさい。

 ちなみにマナコの転生者の最期は敵対する組織に女アサシンを送り付けられての暗殺だった。いつまでも栄華が続くと思うなという良い教訓である。

「洞窟自体はまあ半日あれば出られる距離だな」

「結構歩くんじゃな……」

「半分は観光名所だ。水晶の滝とか湖に沈んだ水晶群とかもあるぞ」

「なんじゃそれ!見たい見たーい!」

「そこまでだ!」

 俺達を制止する声を無視してネックレスから外した水晶玉を眉間に打ち込む。動揺したお仲間にも同じものをくれてやる。1,2,3,4と数人の頭が弾け飛んだ。ま、こんなものか。

 ばたりと倒れ伏した死体に近づいて荷物を改める。こんなところで広範囲の毒だの呪いだのが発動したら生き延びても生きてることを言い訳できない。

「アサシンか?」

「そうらしい。洞窟内の人間を人質にしようとしたらしいが魔力の練度が違いすぎて丸分かりだったぞ。これで全滅だ」

 後半は怯え始めた避難民に向かってのセリフだ。声に少しだけ魔力を乗せて沈静作用を起こさせる。パニックになった民衆の愚かさはノーリアスで散々見たのでもう安心だということを宣言しておかなければならないのだ。

「中々に面倒じゃのう……」

「まあ、どの道こうなる運命だったと諦めるしかないさ」

 とりあえず退去する方法が見つかるまでノーデンスとやり合わずに生きて行くには多少回りくどい真似も必要なのだった。

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