第13話水晶洞窟前にて

 ノイエ・ジーラ村から馬車でそこそこの速度で一週間程。夜の度に襲撃をかけられるもいなしていたらそろそろこいつらやばいという空気が漂い始めた頃。水晶洞窟前に到着した俺たち……というかハスターがだが……は物売りのおっちゃんに捕まっていた。

 ちなみに水晶洞窟とは水晶が採れる洞窟。聖都ノーリアスから港湾都市マナコへの街道の一つ。以上!

「なわけがあるか!見ろこの宝石の数!水晶以外もジャンジャン採れとるじゃろ!」

 カラフルな石で出来た土産物を手や首にじゃらじゃらさせながらハスターは言う。お前、まさか分からないとか抜かすなよ?

「奥からローズクォーツ、アメジスト、スモーキークォーツ。全部色の違う水晶だ。オーロラクォーツ?ここじゃ採れねぇ上に魔法で加工したパチモンだな。もっと値下しろ」

「ひいっ、聖騎士さま何をおっしゃっているんで……」

「オーロラクォーツ風の加工魔法の材料と詠唱ここで言ってやろうか?」

 ノーディアスでは魔法による宝石加工が盛んだ。モノによっては天然物より加工された宝石の方が高くつくが、水晶系統の加工は比較的簡単なので安価である。魔法釜と魔力とちょっとの材料さえあれば素人でも出来る。ま、魔法の入門編ってところだな。

 ちなみに一番安いのは炭から出来る人造ダイヤである。六方晶ダイヤになると流石に違うが人造ダイヤを使った研磨材やドリル等が最近のトレンドなので覚えておくといいかもしれない。

 今の転生者は研磨技術に優れた人物で、田舎でスローライフを送りながら王都や聖都を飾る彫刻を色々彫っているとかなんとか。

「仮面の坊ちゃん、これはオマケしといてあげるね!」

 物売りのおっちゃんはあせあせと商売道具をしまい、洞窟の方へ逃げていった。向かいの出店のおばちゃんがアイツはこの辺で有名なぼったくりなのよ、いいもの見せて貰ったわと言って饅頭をくれた。やったぜ。

「この饅頭というのはいいのう!冷めているのに美味い」

「まあ、あったかいのもあるけど常温で食っても美味いやつだしな」

「あんこというのもいい!あまくてしっとりしておるのじゃ」

「豆の砂糖煮だな。要するにジャムだジャム」

「そうか!饅頭にはジャムか!覚えたぞ!」

 日本人にはなじみが薄いだろうがあんこはどちらかっつうとジャムの仲間だ。直訳するとredbeanpasteとかになってしまうが単純にペーストだとあんまり甘くない印象があるらしいので豆のジャムだとか言っておく方が間違いがないらしい。ついでに俺が喰ってる饅頭の中のカスタードも広義にはジャムの親戚である。

 ミルクジャムとかあるし、ジャムのレシピ本にも載ってたりするし。だから俺は間違った事は言っていないのである。牽強付会?知るか。

「しかしこの饅頭とやら、どこから来たんじゃ?パンとは違うようじゃし小麦を膨らませるのは酵母だけじゃと思ったぞ」

「昔の転生者があく抜きに使ってた重曹を小麦にぶち込んだんだよ。そいつはベーキングパウダーも作って大儲けしたあとレシピを流出されて落ちぶれた」

「ふむ、そんなものか」

 はむはむと饅頭の残りを食べたハスターはとててと洞窟の入り口まで歩いていった。

「ではこの像はなんじゃー?」

 ハスターが見上げる先には水晶出来た歴代の王がハリウッドのラシュモア山のように連なった像があった。水晶洞窟で採れた天然の色水晶を使い、本物の人間のように見える。

「右から勇者王ラスティン、巫術王マンサイ、改革王ピエール、建築王プイス。全員人間がノーデンスの加護を得るために功績を挙げた人物だ」

「すごいやつと言うことか」

「ああ、今はその認識でいい」

 勇者王と巫術王は伝説上の人物で記録がほとんど散逸してしまっているだとか、改革王はやりすぎで自分も断頭台に登っただとか建築王は荒れ果てた街道を整えたりしただとか細かいことは後々教えるとしてだ。

 屋台のおばちゃんに礼を言うついでに饅頭を何個か買ってハスターのところへ馬車を引っ張って行く。

「そろそろ洞窟の中に入るぞ」

 不可思議なる水晶洞窟へご案内。

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