第12話聖王街道を進め
大僧正猊下の命を受けて、師匠のモール・リッドから詳細な命令を貰った俺は食堂へと向かい、ハスターを回収した。
「クレープがあんなにまずいとは思わなんだかったぞ……」
「そら冷えてたら何でも不味いさ」
食堂に置いてあったクレープにも手を出したらしいハスターは文句たらたらだった。生地が乾燥で割れてる時点でクソ不味いに決まってるだろあんなん。
あ?冷たい生地が冷凍フルーツにあうと思った?なんだかんだ言って鮮度が命だからなクレープやガレットの類は。中身が凍ってても食えないことはないが皮が死んでたら犬の餌にしかならねぇ。
「それで王都まわりでサウロン?に行くんじゃったな」
「ああ、それで半年は稼ぐ。残りの半分は師匠からの連絡を見て決める形だな」
中庭からバサバサとナイトゴーントが飛び立つ音がする。ナイトゴーントは顔のない有翼の悪魔みたいな奉仕種族で、ノーデンスに仕えている。
本来ならばドリームランドに生息している筈だがノーディアスでは神獣だの神の使いだのと呼ばれ、枢機卿以上の乗れる輿を運ぶ役目を担っている。
「あやつらは相当なお気に入りと見える」
「ノーデンスのお告げを何度も聞いてる連中だ。そりゃそうだろ」
枢機卿以上になるには十回以上のお告げを聞くこと、もしくは厳密な意味での奇跡を起こすことが必須条件だ。どちらもノーデンスの意思が介在する事象なので必然的にノーデンスのお気に入りのニンゲンが集まることになる。
「それはともかくとして俺達は聖王街道を直進することになる」
「聖王街道?」
「聖都ノーリアスと王都ロンディウムを結ぶ街道だ」
「ふむ」
「ノイエ・ジーラ村からは水晶洞窟を抜けて港湾都市マナコへ向かい、温泉街クロリバーとコジュー高原を経由することになるな」
「道案内は必要なのか?」
「いや、何度も通った道だ。案内なら俺一人で十分だ」
師匠に着いて数年。聖王街道は何度も通ったし、なんなら辺境の地理まで頭に入っている。
「そうかそうか。わしったらお買い物上手だったんじゃな」
ハスターは満足げに頷いたが哀しいお知らせがある。
「そのお買い得商品、賞金首になったらしいけどな」
「なんじゃと!」
ハスターと合流するまでに殺し過ぎたらしく、しかも名前と階級がはっきり判る式典用サーコートを着ていたせいで今朝ヴォーディガン勢力から賞金をかけられたそうだ。無理して東のノーリアス大聖堂から西の市場まで激戦区を行ったのも悪かった。誰が殺したか分からない死体の下手人に祭り上げられたのだ。
半分も殺してねえよという嫌な数字を背負ってしまった。初陣で千人切りってなんだよ。俺は焼夷弾でも撒いたのか?あれ実際は同士討ちだぜ。軍隊と狂信者で利害が一致しなくなったらそりゃもう仲間割れしか道はない。
「流れのアサシンに殺されないように馬車を替えるぞ。丁度避難民もいるから二人乗り位の小さい馬車と交換してもらおう」
「それはいいんじゃがお前右手が使えんのに大丈夫なのか?」
「じつは両利きだ」
「まじか。なら大丈夫じゃな」
洗濯室で巡礼用のサーコートなどを貰い、身につける。汚れたサーコートはこのまま廃棄してしまうことになっている。出来るだけ俺に注意を引き付けてお偉方を逃がす方針なのだ。モール・リッド、血も涙もない男である。
ついでにいうと聖女はゲームに出てきそうな露出度の高い衣装なのだが聖騎士の場合、モンティ〇パイソンアンドホーリーグレイルみたいな恰好なのだ。妙な所で再現度が高い。
厩舎に行って足の丈夫そうな馬を選ぶ。よしよしこいつなら悪路も平気そうだな。
「ということはじゃ。もしかして追われるのは変わらんと言うことか?」
「そうだな。ただまあ戦場落ちしたアサシンしか出てこないだろうから安心していいぞ」
「そうか?ほんとうにそうなのか?」
疑わし気に荷物を二人用の小型の馬車に入れ替えながらハスターは言う。
「ただでさえ王都でやっていけなかった連中が戦場でも居場所をなくしたのが流れのアサシンだ。ほぼ物取りとかわらねえよ」
荷物の乗せ換えが終わり、馬車を出す。思ったよりも農地を燃やす連中が多いな。しかし馬は怯えることも無く歩を進める。当たりだ。
「このまま水晶洞窟へ向かうぞ」
「本当に大丈夫なのか……?わし、もしかして変なの引いちゃったのかも……?」
「天才聖騎士様だ。星5レアだぞ」
「本当は星10まである奴だったりせんじゃろうな?」
軽口を叩き合いながら俺達は聖王街道を水晶洞窟へ向けて進み始めたのだった。
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