第11話王都経由サウロン市行き
どよどよと人垣が揺れる。新任の聖騎士に大僧正猊下直々に命が下るのも異例だが、それ以上に大僧正猊下は戦うとの意思を示したのだ。
ちなみに俺は魔法砲台扱いだということが確定した。神をなんだと思ってやがる。我、神ぞ、無貌の神ぞ。
大体人間は我々クトゥルフ神話の神々をなんだと思っているのかという話である。クトゥルフってタコ焼き何人前?とかふざけんなよ。こちとらセム系神話の大前提からひっくり返す外なる神ぞ。異次元の存在やぞ。お前らゴ〇ラを食うのか。食わんだろ。つまりはそう言うこと……えっ、蒲田くんは美味しそう?これだから日本人は嫌いだ。いや嘘嘘。俺ジャン〇大好き。ニッポン ノ ミナサン アイシテルネー。
人間たちがちまちまと作戦会議をしている間にハスターとテレパシーで会話することにした。だって暇だもの。
『ガレットは食えたかハスター?』
『新蕎麦のガレットじゃぞー!もっちもっちじゃー!ハムとチーズも美味いんじゃー!』
ハスターは人間の餌に満足したらしくハイテンションで食レポをしてくる。蕎麦粉のもちもちの生地にハムとチーズの塩気がぴったりだそうだ。
『それは良かった。ついでになんだが向こう一年は戻ってくるなって言われるんだが行きたい所はあるか?』
『ふむ、なにか見所はあるのかのう?』
『のどかな場所なら王都ロンディウムの越えた先の聖ジョージの泉だろうな』
『王都!派手なんじゃろう?』
『金ピカだな』
ハスターが食いついた王都ロンディウムは白亜の壁に金の彫像や細工が特徴の派手な街だ。ロンディウム大聖堂だけでなく公会堂やオペラハウス、図書館なんかも多く存在し、転生者たちのチート能力の恩恵に未だ浸って豊かな都市生活を営めている。
ただし教会勢力に王侯貴族が富と権力を求めて跳梁跋扈する魔都でもあるが。アサシンって戦場よりも王都が一番稼げるらしいよ。こっわーい。
『王都を経由してサウロン市に向かうルートなら半年は稼げる』
『とりあえずそれでいいじゃろ』
それにしても、とハスターは言う。
『お前、助けを求めた理由とか聞かんよな』
『どうせ肉体になんか仕込まれてんだろ?』
わざわざ格下の他の神格に護衛を頼む時点で訳ありなんだよ。自分自身で死んで退去できない、自分の化身も頼れない、信者が敵になってるその他諸々。
ついでに他の俺(ニャルラトホテプ)も関わってる気配がするんだよなこの一連の事件。ああ、戦乱の直接的な理由は女官の化身だったか。もっと湧いて出そうな気がする、が正しい。
『よく分かったなお前。わしが不死の呪いに掛かっておると』
『状況から推測しただけだ』
不死の呪いを邪神の器にエンチャントするとか人の心はねぇのか。発狂しても自殺できない。それどころか自分を貪る邪神の所業を永遠に見続けなければならないという業まで背負う。よっぽどの狂信者でもなきゃ自分の子供なんか差し出さんわな、こんなん。
『ついでに一ヶ月位前に辺境の町が一個砂になったって噂を聞いたんだが……』
『あー、あれなぁ……。正直すまんかったというかじゃな……』
関与を素直に認めたハスターだが何やらもごもごしている。
『器の親でも殺したか?』
『それもあるんじゃが、クァチル・ウタウスに殺して貰おうとして失敗してじゃな……』
『クァチル・ウタウス!?あの時間を司る!?』
あいつが時間弄れないってどういう術式組んだんだ推定俺(ニャルラトホテプ)!
クトゥルフ神話に詳しくない読者にクァチル・ウタウスについて説明すると、時を司る旧支配者で小さな子供のミイラのような形をしている。
時を操れると言ってもこいつが与えるのは急速に過ぎる時間による死と崩壊のみという酷く限定的だが人間基準だと即死を免れない危ないやつだ。
あいつでダメってことはことによると本体に近い権能を持った化身に呪いを解かせないと退去も出来ないかもしれないってことだ。ああ、暗雲が立ち込めている……。
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