第10話ノイエ・ジーラ村の教会
師匠のモール・リッドと共に聖堂に入ると俺たちをイルカの戦車に乗ったノーデンスのステンドグラスが神々しく迎え入れた。ゴシック様式の聖堂は左右対称に広がっている。
中では比較的軽傷の聖女や聖騎士が大僧正アンリック・ボーアを取り巻く枢機卿たちの議論を食い入るように見ている。
「ですから!来年の為にも国王軍と手を取り、聖都ノーリアスを取り戻すべきです!」
「しかしそれではヴォーディガンと同じではないか!」
「ノーデンスの教えに従って和睦を結ぶべきだ!」
「聖都を凌辱され、同胞を殺されてなおそう言いきれますか!」
なるほど。ヴォーディガン勢力と和睦してでも聖都ノーリアスに出入りする権利を得たい腰抜けと王立軍と手を組んでヴォーディガン勢力を排除したい戦いたがりで割れているわけだ。
「聖騎士クリフォード・トーチが戻りました」
「クリフォード・トーチ!初陣で良くやった!」
「お褒めに預り恐縮です」
俺の登場に何故かざわめきだした空気の中で戦いたがりの枢機卿たちが待ちかねたとばかりに人ごみをかき分けて寄ってくる。また面倒なことに巻き込まれるのは御免だぞ。面倒事は人間に押し付けるものだ。
「初陣で百を超える討伐数、見事であった。」
「これからも……、お主、その右腕はどうした」
「敵にアサシンが混じっていたようでして、呪いと毒で健の再生が遅れております。解呪薬を施しましたが恐らく来年まで剣を握るのは難しいでしょう」
目を伏せながらモール・リッドが答える。モール・リッドの最初の所見では半年は剣を握れないはずだったが、さらっと期間を延長しやがった。
「しかしクリフォード・トーチにはまだ魔法がある!」
「そうだ!百年に一度の天才となればまだ使い道が……」
「昨日の戦いでクリフォードの魔力は尽きています。魔力の再生も難しいかと……」
百年に一度の天才ねぇ。いつ言われるようになったんだっけ?昨日?そういや雑魚が嫌味ったらしく天才様とか言ってきたことがあったような気がしなくもないけどまさかそれ?
おいおいふざけんなよ。俺がどれだけ窮屈な思いして人間らしく振る舞ってたと思ってるんだ。ちょっと魔法が使えるだけで天才とかノーディアスの人間ひ弱過ぎない?地球でいうとパワポでスライド作れます程度だぞ??
というか魔力の生成器官に傷がついたような発言したぞモール・リッドさんよぉ。お前人をそこまで使い倒したのか。戦争じゃなかったら普通に賠償モノだぞおい。
再び喚きだした戦いたがりの枢機卿どもを一瞥した大僧正猊下がモール・リッドに声を掛けた。
「して、聖都から撤退出来た人数はいかほどか?」
「はっ、たた今をもちまして聖騎士千人、聖女五百六十四人、僧兵二千三百七十二人となりました。」
大体半分くらいに減っている。あの乱戦中にそれだけ殺されたのか今もノーリアスで息をひそめているのか分からないが……聖騎士とそう僧兵はレジスタンスらしきものを作り始めたっぽいな。聖女はんー、なんかノーデンスの神殿に集まってる?
「どの程度が戦える?」
来た、と誰もが思ったらしい。皆が固唾を呑んでモール・リッドを見つめる。うちの師匠こんなに偉い人だったっけ?
「三割が重傷、四割が軽傷です。現在無傷の物は三割を下回ります」
「一年は捕まった聖女たちには重いな」
聖女の人数がやけに少ないし一か所に固まってると思ったらとっ捕まっていたらしい。今頃慰み者になっていることだろうよ。
「では今すぐにでも――」
「しかし戦力が足りぬ」
戦いたがりの枢機卿が口を挟むがそれも却下される。
「クリフォード・トーチよ、お主は聖ジョージの泉を知っておるか?」
「はっ、ジョージ卿に祝福されたサウロン市の泉と存じております」
「魔力の回復にはそこが一番だ。クリフォード・トーチ、お主は聖ジョージの泉を目指せ」
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