第8話とんずら

 大変だった。とにかく大変だった。

 誰だよ寡兵で大軍に勝てるとか言ったやつ。聖都ノーリアスを丸ごと発狂させてやろうかと思う程度には大変だったんだぞ。あのまま死んだ方が楽だったりしないよな……。なあ?

 かったるい儀式の後に戦闘になって魔法でちまちま人数嵩増ししたり、魔法で砲撃したり魔力が尽きた(ように見せた)と見るや前線で戦わされたりと散々な目にあった。というかうちの師匠があんな人使いが荒いとか初めて知ったわ。

 お陰で市中の乱戦に乗じて離脱できたけど。来年まで生死不明になったんでそうそう会わないだろうけど。

 あー、そうか。ハスター連れてる理由聞かれたら乱戦中に行き倒れた所を介抱してもらってそのまま居座ったって言えばいいかなー。ヴォーディガンの反乱勢力とは無縁じゃないけど反対する立場だってのもいい言い訳になるし。最悪洗脳すればいいしね!

 戦線から離脱した俺はクラウドメモリーという記憶を曇らせる魔法をパッシブにして町外れの停車場まで駆け抜ける。クラウドって言うと逆に覚えてそうだけど曇らせる方のクラウドなので安心して欲しい。どちらかって言うとストライフな感じ。なんでミッドガルまでしかできなかったんだよリメイク。いや言っても俺そんなにゲーム好きじゃないけど。

 それはさておきこれで俺が市中の乱闘で何してたかは皆覚えていないので嘘つき放題になるのだ。やったね!逆に言えばアリバイがないのでボロが出ないようにしなければならない。早々に怪我して離脱した事にしようっと。

 合流場所の停車場まで来るとなんかこう、悲惨な感じになっていた。

 ハスターの信奉者の証である黄の印を縫い付けたマントのヴォーディガン勢力とイルカの戦車に乗ったノーデンスの旗を振り回す聖女と聖騎士による魔法使い同士の乱戦中&これから分捕りが始まりますよ~なノーリアス市中よりも大分死者の密度が多い。

 恐らく辺境から来た商人が反乱を起こしたという情報が先走って混乱と暴走を生んだのだろう。市場から停車場にかけてが暴徒に蹂躙されている。

 泣き叫ぶ女に木槌を振り回す男、子供を抱いて倒れた母親、母親が死んだと理解できずに話しかける幼児。壊れた屋台。矢を突き立てられて暴れ狂う馬。馬に踏みつけられる群衆。割かし地獄絵図になっていた。

 ぱっと見た感じ、ハスターらしき子供はいない。クラウドメモリーを解くわけにもいかず、どうしたものかと思案していると、テレパシーでハスターの声が聞こえた。

『遅いぞ。もう少しで馬車が壊される所じゃった』

『ハスター、今どこにいる?』

『門の前じゃ。はよう来い』

 言われるままに門の前まで来た俺はそいつらを見た瞬間ずっこけた。

「なんで堂々と黄の印つけてるんだお前らは!!」

「何故ってこれがキャラバンの通常装備ではないのか?」

 百歩譲ってハスターが黄の印――昨日見た歪なクエスチョンマークを巴にしたような――の仮面を被っていることはまだいいとして、問題は少年を囲む大人だった。明らかに目の焦点が合っていない表情、泡を吹いた口元、そして何より今日のクーデターを起こした過激派を現す黄の印の刺繍されたマントと幌!

 これでよく無事だったものである。普通真っ先に血祭にあげられるぞ。ああ、血祭にされかけたから隠匿の魔術使ってんのか。それなら人間には見えなかろう。

「とりあえずマントと幌捨てろ。話はそこからだ」

「なんじゃ。遅れてきてすぐに文句とは。面倒くさいやつじゃのう」

「捨てろ。今すぐに」

 ぶーたれた様子のハスターは無視して幌を中央商人の使うイルカ印のギルドの物に替える。この調子だと商品の中身も確認しなければ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る