第7話取引

「なに、ただ働きとは言っていないじゃろうて」

 このノーディアスで何をくれても嬉しくねぇぞと思いながらも話を聞く。正直ここの文化って現在の地球以下なもんで人間含めて虫に見えるんだわなこれが。

 現に無駄に18もあるAPPが使いどころがないクソ技能になっている。何故かって?想像してみろよ。蚊や蠅にたかられて嬉しいか?

「そうじゃな……。もしお前がわしの護衛に成功したら、地球の人間――場所は日本じゃ――に転生させてやろうかの」

「是非ご一緒させてください」

 忌まわしい身体と停滞しきったノーディアスにおさらばして地球に行けるなら万々歳だ。

 え?無限〇車編見に行っただろって?あれは精神体を地球に飛ばしてちょっと人間に取り憑いているだけだ。大したことは出来ない。精々がアマ〇ンでポチるのをお手伝いするだけ。ああ、我ながらショボい能力である。

「おお!それでは明日の詳細を詰めようではないか」

「勿論勿論。仰せのままに。あ、そんなところじゃなんですから部屋にどうぞどうぞ」

 子供の姿のハスターを抱きあげて部屋に入れる。軽いな。十歳以下かな。そのまま応接セットらしき簡素なベンチに下ろす。

「それでなんじゃが、明日ヴォーディガンとやらが辺境の商人だのと結託して教会を襲撃する話なんじゃがな」

 ハスターの話が長くなりそうなので要約すると。

「適当にずらかればいいんですね?」

「そうじゃな。適当にいなしてわしの所に来い。町外れの停車場で待っておる」

「合点承知の助」

 後に安請け合いしたことを後悔することになるのだが、それはさておき。

 町外れの停車場っつうと西の市場近くの商人や農民が利用する停車場だな。ノーリアス大聖堂からは真逆の方向にあるし、天地創造の日には相当数のキャラバンも来るのでクーデターの巻き添え食らって馬車が壊れなきゃいいのだが……。

「所でお前、明日の装備はどうなっておる」

「式典用のロングソードとチェインメイル。その上からローブを羽織るかんじですね」

 ロングソードには一応刃は付いているがきらびやかな装飾がメインで切れ味はいまいち微妙だ。チェインメイルは普段も使っている物で良いとされているが天地創造の日に合わせて新調することが多いので着慣れないものになる。

 俺の場合は新任なのでこの日に合わせて作った。上のサーコートは完全に儀式用なので防御力もほぼない。厚めの綿に絹糸などで刺繍されているが実戦用の物と比べると片手落ちと言ってもいいだろう。

「ちと不安じゃな。敵は総勢四万の軍勢じゃぞ」

 ハスターはロングソードを弄びながら言った。

 王立軍の総員は八万だが聖都ノーリアスに随行している軍隊は一万いかないはずだ。ちなみに聖女と聖騎士は大体三千人程度いる。ノーリアス大聖堂所有の僧兵は二千人で周辺地域から警備の増員が千人から千五百は集まる予定。

 ちなみに聖女と聖騎士はノーリアス大聖堂所属でそこから下部組織の騎士団に分かれて巡回ルートを分担していたりする。

 ついでにジャンヌ・ダルクで有名なオルレアン包囲戦はフランス側の軍人が大体六千五百、武装市民が三千人らしいので参考までにどーぞ。

「ウーサー王の戦力は少ないですし、聖女と聖騎士を戦力に入れても一万五千いくかいかないかがいいところですからね。そこは魔法で適当に誤魔化しておきましょう」

「お前人前で魔法を使って平気なのか?」

 ハスターの声に驚きがのる。どこまで低く見積もられていたのだろう……。

「まあ、ノーディアスの魔法に寄せてるんでそこそこの秀才だと思われてますね」

 実際はまるで違う理論で運用しているのだがガワさえ似てりゃ人間には判別できない。

 頼みの魔力の測定機器は既にガタがきているオンボロばかりなので騙しやすいし、神格でも来ない限り発覚することはないのである。

「では秀才殿に期待して待っていようか」

 顔の半分は見えないが、どこか安心したようにハスターは言った。

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